任務を終え、雪峰から帰った俺達を出迎えたのは、少佐と司令だった。
 タイトがこの世を去ったことは、二人とも既に知っていた。
 
 「タイトさんという英雄のために、黙祷を、捧げましょう・・・・・・。」
 司令は、静かに言った。
 
 「・・・・・・。」
 目を閉じた俺の頭の中に、昨日、夕日を見ながら自慢げに昔話を語るタイトの姿が蘇った。
 「生きて還ってきてやるさ。」
 彼は、ヘリに乗り込む直前確かにそう言った。
 だが、還っては来なかった・・・・・・。
 残されたキク、ワラ、ヤミ、そして何より網走博士に、何と伝えればいいのか、俺には分からない。
 四人が真実を知ったら、どんな反応を示すだろうか。
 もう、俺は、どうしたらいいのか、考えるだけでも混乱した。
 
 「・・・では、私の部屋へ来て下さい。全てを、お伝えします。」
 黙祷が終わると司令は言った。
 だが、俺にとってはもはや真実などどうでも良かった。
 皆、そのような顔つきだ。
 ミクは、博士を呼ぶために一旦部屋へ向かった。
 
 
 「ひろき・・・・・・。」 
 「ん?」
 「たいとは・・・まだ・・・・・・?」
 「おかしいね。もうお昼近いのに。」
 「ねぇ・・・・・・。」
 「ん?」
 「タイト・・・・・・かえってくるよね・・・・・・?」
 「もちろんだよ。」
 「うん・・・・・・よかったぁ・・・・・・。」
 
 
 キク・・・・・・・・・。
 
 今、電話があったけどね、
 
 少佐が、言ってたんだ。
 
 タイトは・・・・・・・・・遠いところへ行ってしまったみたいなんだ。
 
 だから、もう会えないんだ。
 
 もう、タイトは・・・・・・タイトは・・・・・・。
 
 ごめんね・・・キク・・・・・・。
 
 こんな僕しかいないけど・・・。
 
 僕が・・・・・・君を・・・・・・護って見せるから・・・・・・・!
 
 
 「ひろき。」
 誰かがドアを開いた。
 ミクだ。
 「あ・・・・・・。」
 「・・・・・・。」
 ミクは、目が潤んでいた。
 「ひろき・・・・・・ごめん・・・・・・本当にごめん。」
 「ミクが謝ることなんてないよ。」
 僕は、そう言ってやることしかできなかった。
 そのとき、
 「みく・・・・・・みく・・・!」
 僕の膝からキクが立ち上がり、ミクに走り寄っていった。
 「キク・・・。」
 「たいとは?」
 ミクは、当然応えに戸惑った。
 こんな純粋な視線を投げかけられれば、言葉に迷うのも当然だ。
 本当のことなんて、言えるわけがない。
 「タイト、なら・・・・・・少し、遅れるって・・・。」
 「じゃあ、いつかえってくるの?」
 「それは・・・・・・分からないよ。」
 「え・・・。」
 「で、でも、ぜったいに帰ってくる!」
 ミクは、無理やり作った笑顔でそう言った。
 「よかったぁ・・・・・・たいとが帰ってきたら、またぎゅっとしてもらうんだぁ・・・・・・!」
 「そうか・・・・・・。」
 そう言いながら、ミクは僕の顔を見た。
 目から、涙が零れ落ちそうだった。
 「ひろき・・・司令が呼んでる。」
 ミクは涙を拭った。
 「来て。」
 「うん。じゃあキク、ちょっと待っててね。すぐ帰ってくるから。」
 「・・・・・・うん。」
 「よし、いい子だね。」 
 僕は、キクを残してミクと部屋を出て行った。

 
 「失礼します。」
 博士とミクが司令の部屋に入ってきた。
 博士も、既にタイトのことを知っているらしい表情だ。
 「・・・・・・これで、全員ですね。」
 「はい。」
 少佐が短く答えた。
 「社長の方も、準備ができています。あの方自身から、全て説明してもらいます。」
 司令がリモコンを操作すると、この前のように司令背後の黒い壁が巨大なモニターへと変貌した。そして、その中央に、クリプトン社長が。
 そして社長がいきなり話し出した。
 「皆、その節は、誠に感謝している・・・・・・だが、尊い命を、タイト君を失ってしまったことが、残念でならない・・・・・・。」
 社長は、暗い表情で頭を下げた。
 社長も知っているのか。
 「今日は、約束どおり、皆に真実を伝えたいと思う。どうか、最後まで聞いて欲しい。先ずは、予め君達に伝えておいた、「ある計画の」事だ。」
 もはや、どうでもよいことだったが、一応その答えが気にはなっていた。
 「何故興国に日本を攻撃させるよう仕向けたのか。それは、君達に戦闘を行わせるためだ。強化人間とゲノムパイロット、そしてアンドロイドに。」
 俺達自身が目的だったのか・・・。
 「それの意味は、君達の戦闘、運用データ収集することにあった。これまでの実験の類では、本格的な実戦データを得ることはできなかった。そして何より、実戦でなければ、君達のコンバット・エキサイトの状態をモニタリングすることができなかったからだ。実用的な実戦データを入手するため、カリスマ性に優れた社員を興国内部へ軍部の上層部に偽装させて潜らせ、日本のメディアに感付かれぬように煽動、情報操作を行わせたのだ。それに、我々は興国への兵器の提供も行った。戦闘機、アンドロイド、さらには強化人間に至るまで。」
 だから日本のメディアは気付くことはなく、宣戦布告も無かったのか。
 待てよ、今兵器の提供を行ったと言ったが・・・・・・。
 「そして、この水面基地へ集中して攻撃させ、それに対し君達が戦闘を行うことで実戦データを集めることができた。陸海空の日本防衛軍、そして世刻大佐と協力してもらって。」
 「すみません・・・・・・あなた達を騙してしまって・・・・・・でも、仕方が無かったのです。」
 司令は小さく頭を下げ、謝意のこもった言葉で言った。
 「この基地の最下層部に、モニタールームがある。私らがこの計画のために作らせたのだ。」
 大方話は分かった・・・クリプトンが特別な存在である俺達強化人間などのより実戦的なでデータを収集するために、興国の軍内部に社員を送り込み、煽動させた・・・・・・でも何故クリプトンが?何故クリプトンがデータを欲しがったのか、それはまだ分からない。
 「ここからが本題だ・・・なぜ、我々クリプトンが、そのようなデータを欲しがったのか、それは、強化人間も、ゲノムパイロットも、そしてアンドロイドも、全ては我々クリプトンの技術だからだ。」
 体中に衝撃が走った。
 鳥肌が立った。
 血の気が、退いた・・・。
 なんだと?!今何と言った!
 「驚くのも無理はない。クリプトンは、ただ家庭用、業務用のアンドロイドと医療分野を専攻して開発、販売しているのではない。実際は、それらは子会社として分かれており、さらにもう一つ、軍事産業を専門とした子会社、クリプトン・フューチャー・ウェポンズが存在するのだ。」
 「えっ・・・・・・!」
 これは博士も知らなかったらしく、驚きの声を上げた。 
 無論、一番驚いたのは俺達だ。
 クリプトンが、軍需産業を行っていたとは・・・・・・。
 「これは、新機軸の高性能兵器開発や、現存する兵器のライセンス生産を行っていたが、近年はアンドロイド分野と協力し、戦闘用バトルロイドを開発や医療分野との協力では強化人間や戦闘に特化したゲノム人間が開発できるようになった。そして、最初に完成したのが君達だ。君達の手術、完成と同時にウェポンズでは君達が搭乗している専用機のほかに「ストラトスフィア」、「ラースタチュカ」、「雪峰」、「アド・アストラ」、さらには、新型の量産型アンドロイドなどの兵器も完成したため、君達と同様、その実戦データを収集することとなった。それも兼ねて、興国に新型を提供し、雪峰を襲撃させた。なお、これらの兵器類は後に日本防衛軍に計画に協力してくれた礼として全て移譲することになっている。」
 さらに衝撃だった。 
 雪峰も、ストラトスフィアも、
 そして、俺達も、
 全ては、クリプトンが・・・・・・!
 今までの戦いは、それらの実戦データを集めるための・・・・・・!
 「そして、データ収集と共に実戦でその性能が遺憾なく発揮され、戦闘において高い性能を発揮する証明ができ、データを各国の軍部に秘密裏に公開した。ウェポンズの開発した兵器類が各国に認められたことで、他国への売込みが成功する、というわけだ。・・・・・・これが、この計画の全貌だ。君達には感謝している。が、本当に、騙して申し輪分けなかった・・・・・・。」
 俺は唖然とし、ほぼその場に立ち尽くしていた。 
 麻田は怒りを必死にこらえ、気野は視線を落としている。
 朝美は話の内容を中途半端に理解しているらしく、戸惑った様子だ。
 ミクは・・・・・・表情が分からない。
 そのとき、
 「一つ訊いていいですか。」
 博士が、静かに言った。しかし、その口調には僅かに怒りが漂っていた。
 「何かね。」
 「そこのウェポンズという子会社で、ミクやキクをベースに作られたアンドロイドを知っていますか。」 
 ワラとヤミのことだ。
 博士は未だにそのことを知りたがっている。 
 「ああ、知っている。」
 「開発者は誰ですか?」
 博士は答えを急いだ。
 「それは・・・・・・私でも分からん。」
 「何ですって?」 
 「あの二人はウェポンズが親会社に秘密で独断で開発したものだ。それを我々が後になって確認したのだ。しかし、誰もそのことは知らなかったのだ。」
 「では、もしや・・・・・・!」
 「網走君。君も知っているだろう。彼は、もう死んでいる。」
 「はい・・・・・・。」
 社長の言う「彼」とは、一体誰のことなのだろうか。
 とにかく、博士の納得の行く答えが出ることは無かった。
 「私から離すことは以上だが、何か、質問はあるかね。」
 その問いかけに、誰も、そして俺も、答えはしなかった。
 「では、本当にすまなかった。君達には感謝している。・・・網走君。」 
 「はい。」
 「今度君に会ったら謝罪を・・・・・・させてくれ。」
 「・・・・・・結構です。」
 「君とミクが基地を出るのは三日後だ。それまで、もう少しそこにいておくれ。」
 「・・・はい。」
 「では。」
 そして、モニターが黒い壁へと戻った。
 「以上が全てです・・・・・・。本当に、お疲れ様でした。あなた達には、特別休暇を差し上げます。」
 「・・・・・・。」
 全員が、唖然とし、戸惑い、怒り、そして、脱力感を感じていた。
 少佐の、例えようの無い視線に送られ、俺達は指令の部屋を後にした。
 
 
 「だだいま。」
 「ミク!」
 「よかったぁ・・・・・・!ミクが帰ってきてくれて・・・・・・!」
 「ワラ・・・・・・ヤミ・・・・・・。大事な話があるんだ・・・・・・。」
 

  





































 





 「は、は、は、はははははははははははははははははははははははは!!!!!!みんな、みんな僕が殺したんだ!!!可愛いオペレーターも、みんなぐちゃぐちゃだ!!!!!あっははははははははははははは!!!!!!血でまっかっかだぁああははははははははははははは!!!!!!・・・・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・・・・・・・・・・ちくしょう・・・・・・ちくしょう!!!!!!
なんで・・・・・・なんで僕まで使い捨てなんだよ!!!!!糞が・・・・・・・・・!糞がぁッ!!!!!ぶっ壊してやる・・・・・・全部・・・・・・クリプトンも、街も!!!!!!!・・・・・・あ・・・・・・・?・・・ちぃっ。あいつ、逃げやがったのか・・・・・・。」

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Sky of Black Angel 第三十八話「唖然、戸惑い、怒り」

なんだか、自分が酷すぎる人間に思えてきました・・・・・・。

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投稿日:2009/12/24 21:25:12

文字数:4,833文字

カテゴリ:小説

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