「えー? また会ったの?その人に」
テトさんは食べかけていたパンを、机に落としそうになった。

「うん、そうなの。なんか、親しげに笑って近づいてきたんで」
ミクちゃんはそういって、机にほおづえをつく。

「で、なんて言ってたの?」
テトさんは、ちょっと気になる様子で聞いた。

カフェ・ドナの昼下がり。
話しているのは、ミクちゃんとテトさん。
2人の向かう机の上には、「ミクドール」が乗せられている。

この2人は、雑貨の「ミクドール」の作者だ。
生活雑貨のイラストのデザインや、インテリアぬいぐるみ、ワンポイントの絵柄で人気の「ミクドール」。
ミクちゃんが、自分に似せて絵を描き、デフォ子さんがデザイン。テトさんが立体にしたものだ。


●一緒に仕事

「霧雨さんっていうんだけど、その人」
ミクちゃんは続けた。

「いつか、私のところに来て、私のキャラクターを商品にさせて欲しい、って言った人よ」
「ああ、ミクさんのキャラクターの“はっちゅーね”ね」
テトさんの言葉に、ミクちゃんはうなずく。

「で、おととい、ワタシがキディディ・ランドで兄貴としゃべってたら、お客で来ていてね」
ミクちゃんは残りのパンを口にほおばる。

「モグモグ、でね、その人、ニコニコ笑って言ったのよ。
“やっぱり、はっちゅーね、かわいいですね。今度、ぜひ一緒に、仕事したいですね”...って」
「ふぅん」
テトさんは、うなずいて、ソーダ水を飲んだ。


●変わった人

ミクちゃんは続けた。
「これ、まったくワタシの勘なんだけど、このミクドールに似てるアマガエルちゃん、あるでしょう?」
そういって、机の上の人形を指さした。
「うんうん」
うなずくテトさん。
「あのカエルをデザインしたの、その人じゃないかな、と思って」
「え~?」
テトさんは、目を丸くする。

「ちょっと、変わった人みたいね。よくわからないけど」
「そうなのよ」
ミクちゃんはうなずく。
テトさんは、両手でほおづえをついて、周りを見回した。


●ムシの居所が...

「あれ?」
カフェ・ドナのカウンターに寄りかかって、中の厨房に向かって、おしゃべりをしている人がいる。
テトさんの親友の、ルカさんだった。

ちょっと首を伸ばして、テトさんは厨房の中を見る。
中にいるシェフのソラくんが、仕事の手を休めて、ルカさんと話している。

「ちょいと、おふたりさん」
テトさんは、水を汲みに行くフリをして、カウンターに近寄って、言った。
「ルカくん。ソラくんの仕事の邪魔をしては、ダメだぞ」

「ありゃ!見られちゃた」
舌を出すルカさん。
「あら見てたのねー」
ソラくんは、つまらない昔のギャグを言った。

「あたしゃ、いま、虫の居所が悪いんだからね、ちょっと」
テトさんは、コップに注いだ水を、グッと飲み干した。
「ヘンなムシがついては、こまるのだ」

その様子をテーブルで見ていたミクちゃんは、思った。
「うむ。でも、どっちが、虫なのかしら?」'v'

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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玩具屋カイくんの販売日誌 (107) ヘンな虫がついては!

自分の作った作品や製品は、子どものようなものですからね。ナーバスにもなるでしょうか。

閲覧数:98

投稿日:2011/06/05 00:26:24

文字数:1,250文字

カテゴリ:小説

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