〈シャングリラ第二章・最終話~門出~〉
SIED・KAITO
「…カイト、オレ変じゃない?」
「大丈夫です、違和感はありますが変ではありませんよ、」
玄関の姿見の前でくるくると自分の姿をチェックするマスターに、おれは満面の笑みで応える。
白いワンピースに、普段はかけない眼鏡、少し濃いめのメイクに、耳や首元には、小さいといえど見慣れないアクセサリーが揺れていて、いつもの彼女を知る身としては違和感この上ない。
「ああ、でも『木崎篠武』には見えないよな?」
「はい、全くの別人ですね、」
そう、首から下げたIDに記載されている名前は『始音佳乃』。
『アプリケーションソフト・VOCALOID・KAITO』の販促用に開発されたキャンペーン・イメージロイドである俺、『カイト』の専属女性マスターとして、この技術開発部門責任者の一人という設定で偽名を与えられたのだ。
その為に、マスターはこれまで女子力を上げる訓練のみならず、正隆さんに専門的なあらゆる知識を叩きこまれていた。
何度も挫折しそうになるたびに壊れかけた彼女だったが、何とか今日という日の目を見るまでに漕ぎ着けて、正隆さんも肩の荷が下りただろう…。
マスター、本当によく頑張りました。
「ええと、タブレットにバッテリー、PVデータに…あれ?これなんのデータだっけ?」
「それは資料ですよ、」
「ああ、そうか…説明の手順もう一回練習しようかなー、」
ぶつぶつと虚ろな目をして呟く彼女には申し訳ないが、そろそろ出ないと遅れてしまう。
「あと十分で出ないと、遅刻してしまいそうですが…、」
「え、もうそんな時間!?しょうがない、じゃあ気合い入れるぞ!…うりゃっ!!!」
「おっと、」
勢いよくしがみついてくる身体を抱き留め、抱きしめ返すといつもの彼女からはしない、何とも言えない甘い香りが鼻を掠める。
「この香水の匂い、ちょっと苦手です…、」
「オレも、…すでに吐きそうー、うぇ、」
所長さんの好みで選んだであろうこの香りにも、慣れていかなくてはならないのか…。
「んー、カイト成分充電!んじゃ、行こうかー、」
「…そうはいきませんよ、」
ふにゃっと笑って離れようとするマスターの、柔らかい身体を抱きなおし、さらりと流れる髪に口づける。
「本当は唇にキスしたいところなんですが、口紅取れちゃいますよねぇ、」
「当たり前だ、ばかっ!!」
むすっとした顔も可愛くて、思わず笑みが零れる。
「…大丈夫かな、」
「大丈夫ですよ、」
俺もマスターも、ありとあらゆる場合を想定して、今日まで入念に準備してきたが、まだまだ不安は拭えない。
何事もシミュレーション通りにはいかないだろうし、きっといくつもの想定外が発生するに違いない。
「所長さんと正隆さんもサポートしてくれますし、」
「ん、そか…そだね!」
初めてあなたを目に映した日から今日まで、本当に悲喜交々いろんなことがありました。これから共に送る日々でも、きっと思いもしない出来事がたくさん待っていることでしょう。
でも大丈夫、俺たち二人ならきっとうまくやっていけます。
「んじゃ、…行こ?」
「はい、」
俺はマスターの手を取ると、不安と期待を込めて未来への扉を開いた。
「…あ、」
「どうしました?マスター?」
「カイト、部屋から出たらオレに触るの禁止だよー、」
「………俺、もう挫けそうです、(泣)」
終
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