赤い。
ここの印象はただそれだけだった。
地獄というのはふしぎなもので、いくら苦しめられてもそれに慣れることは決してない。肉体が無いので魂が永遠に苦しむだけだ。
ここに来た者は地獄の炎で焼かれて、魂がズタボロになって、自我が崩壊し、もう一度魂が復活して・・・罪を悔い改めるまでそれが延々と続く。たまに、といっても百年に一回のペースで極楽浄土のお釈迦様が、銀の蜘蛛の糸で地獄の罪人を救おうとしておられる。まあ、一回も成功したことはないのだが。
最近は地獄にくる罪人が多くなった。はっきり言ってこっちは非営利組織なのだから、あまり手を煩わせないで欲しい。
「ミク、ちょっと黒縄地獄手伝ってー」
「今無理だから」と、私はルカに答える。
私が今居るのは八大地獄の等活地獄の十六小地獄の瓮熟処だ。獄卒は罪人を煮ている。瓮熟処は動物を殺して食べたやつが入る地獄だ。ということは、人間のほとんどはここに入らなければいけない。そもそも等活地獄は生き物を殺したやつが来る所だ。たとえ害虫でも、ちいさなダニだって殺してはいけない。私の仕事はそんな可哀相な人に悔い改めさせる、という仕事をしている。作ったの誰だよ。
「あなたたちは命ある生き物を殺しました。きちんと感謝してたべましたか?あなたたちが殺したゴキブリや蚊、蜂、蛾。まだまだありますよね。その虫たちに謝りましたか?」
「すいませんでした。そんなこと考えつきませんでした。もう殺しません・・・」二十歳くらいの男性がそう謝った。
「いいでしょう。御浄土に行きなさい。そしてもう一度現世へ行ってその罪を洗って今度は真っ直ぐに御浄土へ逝けるように頑張りなさい」
「ありがとうございます」
私には人の心が見える。だからこの仕事に抜擢されたのだが、頑張って仕事して、罪人を転生させることができる権限を持つようになった。私は生まれは地獄の鬼と妖怪の間に生まれた子だから、小さい頃は閻魔様の側近として使えていたが、最近はルカと一緒に地獄を任されている。
私は立ち上がって地獄を歩いた。ここは私の故郷でもあり、永遠のすみかでもあった。
ここは地獄。罪人の悲痛な叫びのこだまする場所。人生を振り返る場所。生きることの大切さ、罪の重さが考えられる場所。
私は
ここが好きだ。
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