2-5.
「あ、あのっ!」
息を切らせて、半ば叫ぶようにしてかけた私の声に、目の前の三人はびっくりしたようにこっちを見た。
その人は、二人の男の人と一緒だった。たぶん、友人なんだろう。三人とも制服は着てないから、神崚の生徒じゃない。
三人の視線に一瞬だけ恥ずかしくなる。でも、本当に一瞬だけて、それからはなぜか、あんまり気にならなくなった。
私がまっすぐにその人を見上げると、その人もすぐに思い出したみたいだった。
「君、この前の――」
隣りの二人が不思議そうにその人を見る。と、愛が私に追い付いてきた。
「未来、ちょ……っと、急に、走んない……で、よね」
愛は上半身を折ってぜいぜいと息をすると、目の前の人を見る。察しのいい愛は、それだけでピンときたみたいだった。その人達には聞こえないように、愛は私に囁く。
「未来、もしかして、その人が――?」
私は視線をその人から外さないまま、静かにうなずく。
「元気そうだね。あれから、なんともない?」
「はいっ、大丈夫です」
その人の言葉に返事をするけど、緊張していつも通りに振る舞うことができない。なのに、その人はすごく落ち着いていて、なんだか私は拍子抜けした。私はこんなに悩んでたのに、その人はそうでもなかったみたい。なんだか、ちょっとくやしい。
「なぁカイ、この子知り合いなのか?」
「海斗がこんなかわいい女の子と知り合いだったとはねぇ。そりゃ、研究室の女子に興味示さねーわけだな」
隣りの人にそう言われて、その人――カイトっていう名前らしい――は「ん~」と悩むような声を上げた。
「いや、まだ知り合いって言えるほどじゃないんだよね……。この前ちょっとあってさ」
細かい話は濁して隣りの人にそう言うと、その人はまた私に向き直る。
「それで――なにかあったの?」
そりゃあ、いっぱいある。
私は一瞬だけ、やけに冷静になってそう思ったけど、言うのは我慢した。
でも、いっぱいあるけど、なにを言ったらいいんだろう――?
思わず走り出して、とりあえず声をかけたのはいいけれど、それからどうしたらいいかわからなかった。頭がこんがらがっちゃって、どうすればいいのかわからなくなる。それに、こんなに人がいるのに、名前聞いたりアドレス聞いたりするのはなんだか恥ずかしい。
「えっと、その」
とりあえずなにか言わなきゃ。そう思った時だった。
きゅぅぅぅ。
……そんな間の抜けた音を鳴らしたのは、朝からなにも食べて無かった、私のおなかだった。
馬鹿……私の、バカ。
私はうつむいて、おなかを押さえる。恥ずかし過ぎて、耳まで真っ赤に染まってるのが自分でもわかる。愛が隣りで吹き出したのを軽くにらんだけど、愛は私のことなんてお構いなしだった。
その人は、そんなみっともない私を見て苦笑すると、隣りの二人に「悪い。また後からでいいか? 早めに研究室に戻るから」と聞いていた。
「かわいい女子高生相手じゃ仕方ねーよなぁ……」
「あのカイにもとうとう彼女がねぇ。しかも年下」
なんだが色々と誇張されているような気がしたけれど、私が口を挟もうとする前に、他の二人はどこかへ行ってしまった。
「あ、あの、すみません。気を遣わせてしまって」
その人は笑って「いいんだ」と手を振った。
「気にしないで。あいつらとは研究室でいつも一緒だから。それじゃあ……」
と言って、周囲を見回し、近くの店に目をつける。
「とりあえず、たこ焼きとか、焼きそばとかでいいのかな?」
その、どこかうまくいき過ぎているようにも感じるせいか、私は目の前の幸運にも、かくかくとうなずくことしか出来なかった。
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