「カイト、それ6個目」
「う…」
オレ専用のクーラーボックスからモナカアイスを手に取ったら、シンクで洗い物中のメイコがこちらに背を向けたままそう言ったので、かなわん、と思いながらモナカを戻し、扉を閉めた。
アイスは1日10個まで、と定められているオレにとって、まだ午後3時の時点で6個目となるとあとがつらい。風呂上がりに3つは行くから。
「あーでも口寂しい」
「自分の指でも舐めてればいいじゃない」
「だからそれは」
諦めきれないオレをクスクス笑うメイコに苦言を呈していると。

「あっ、カイ兄だけずるい!めー姉リンもおやつ!!」
「お前さっきも食べてただろ」
「3時♪3時♪おやつの時間だわー!」
「聞けよ」
楽譜を放り出してメイコに突進してきたリンの後ろを、レンがため息をつきながら追ってくる。
「あら。じゃあいつもの棚に入ってるやつ、どれか1つだけね」
「はーい。…って、アレ。なんにもないよ」
「うそ」
「空っぽだよーほら」
リンに促され、オレもお菓子専用ひきだしの中を覗きこみ、頷く。
「空だね。めーちゃん買い忘れた?」
「えっ、ホントに?やだごめん。そんなに消費してると思わなくて」
「え?ええええええぇぇええ!!じゃあリンのおやつは!?」
「ごめんごめん。えっと、カイト、その1番上の棚開けて。平べったい缶があるから」
「え?でもそれって今朝ミクに持たせたやつじゃ」
「あっ」
メイコの時が止まる。
つまりこういうことだ。まさしくこんな時のために、日持ちのするお菓子をいつも棚の1番高い場所、すなわちオレしか届かない場所にこっそりと常備させてあった、さすがのメイコさん。
しかしそこにあったクッキー詰めの缶は、今朝久々にグミちゃんとミキちゃん女子高生組でレコーディングだとはしゃぐミクに、じゃあ休憩中にみんなで食べなさいとメイコが渡したのだった。

そんなわけで、メイコは顔面に「しまった」と書いたまま固まっている。
「えっ、ないの?なんにもないの?リンのおやつは!?」
「ご、ごめんねリン」
「いいじゃんたまには我慢しろよ」
「やだぁー!」
ぴゃああぁと泣き始めたリンをこんな事態には慣れているレンが「あーもー」と言いながらあやす傍らで、オレとメイコは目を合わせて苦笑するしかない。
「泣くなよ。お菓子がないなら買いに行けばいいだけだろ。めー姉、リンと買い物行ってくるから、ついでに夕飯の買い出しもしてくるよ。…って、こらリン!」
しっかり者のレンがそんな見上げたことを言うそばからリンはごろん!と床の上に丸まり、
「……リンはただいま燃料切れでうごけません」
涙目で頬をふくらませて、そんな駄々をこねた。
「お前なぁ…。じゃあもういいよ、俺1人で行ってくるから…ってうわ!」
呆れたため息をついたレンが立ちあがろうとすると、いきなりリンがレンの腕を勢いよく引っ張ったために、レンはバランスを崩して床に転がった。そのままリンに抱きつか…いや、巻きつかれている。
「ダメです。レンはここにいないといけません」
「なんでだよ」
「リンがさびしいからですー!!」
「こらぁ!」
またぴゃあぴゃあと泣き始め、そんなリンにしっかり絡まれて起き上がれないレンは、怒鳴りながらも頬が赤い。そりゃこんな生き物に縋りつかれたら色々とたまらんだろう。
しかしおやつが切れるとリンはこんなに情緒不安定になってしまうのか。知らなかった。
オレはクーラーボックスの中からとっておきの一品を取り出しリンに差し出す。
「ほらリン。オレのアイスあげるから」
「アイスは溶けちゃうもん!リンは溶けないのがいいんだもん!」
「ご、ごめん…」
…アイスの存在意義を全否定された。
「ごめんねリン。ほら、みかんあるじゃない。みかん食べて待ってて」
「みかんはみかんだもん!おやつじゃないもん!」
「す、すみません…」
床の上でレンを羽交い締めにしながら、非常に理不尽にプンプン怒るリンに、メイコがこうべを垂れて謝っている。なんだろうこの光景。

メイコは困ったように笑いながらよしよしとリンの頭を撫で、立ち上がってエプロンを外した。
「じゃあ、私が今すぐ買ってくるからね」
「え、でも姉ちゃんも兄貴も夕方から仕事だろ」
「大丈夫よ。リン、何がいいの?」
「…ぶりおっしゅ」
「わかった。じゃあそれまでカイトの指でもくわえて待っててね」
むずがる駄々っ子を優しくいなし、お姉ちゃん然とした笑顔でそう言うメイコ。
だがその最後の言葉に、一瞬の間を置いて、オレを含めた3人がえ、と振り向いた。
「なんでカイ兄の指?」
「あ、そうそう。いいこと教えてあげる」
人差し指を立てて得意げに微笑んだメイコに、嫌な予感がしたオレは。

「カイトの指って舐めると甘いのよ」
「メイコオオォォォ!!!!!!!!!」

咄嗟に叫びながら飛び出し彼女の口を塞いだが、全然間に合わなかった。
しかも燃料切れのはずのリンが即座に喰いつき、ガバッと起き上がる。
「えっ!なんで?なんでカイ兄の指甘いの?わかった!アイスばっか食べてるからだ!」
「それならリンだっていつも甘いもんばっか喰ってるじゃん」
「リンはカイ兄みたいな変態っぽい食べ方じゃないもん」
一方メイコはオレに抑えつけられた口の手をどけようと、もがきながら睨んでくる。
……頭痛い。
「ちょっと何どいてよカイト」
「あのなぁ…そういうこと人前で言わない!」
「は?なんで?」
「なんでも何も!」
「あー恥ずかしいのー?自分の指が甘いってことー?」
「なにニヤニヤしてんの!?別に恥ずかしくないし!そういうことじゃなくて!」
「ねぇねぇカイ兄、ためさせてー?」
「えっ」
壁際でメイコと言い争っていると、いつの間にかリンが目をキラキラさせてオレを見上げていた。
逃げる間もなく、指をパクリ。
「…………………………。……おいしくない」
そしてペッと吐き捨てられるオレの指。哀しい。
「ぜんぜん甘くなんかないよーめー姉!」
「えーホントに?おかしいなぁ」
「ちょっ、メイ…!」
そしてまた逃げる間もなく、今度はメイコに指をパクリ。
もぐもぐもぐ。…頼むから味わうな。
視界の片隅でレンが額に手を当ててうつむいている。
あぁホントごめん。君は空気の読める子だよね。オレのメイコがホントごめんね。この人素なんだよ…
永遠のように長く感じられた数秒の拷問ののち、メイコが指から口を離し、
「私には甘いわよ?なんでかなぁ?」
そう言うと、リンと共に眉をひそめて首を傾げたので。

「めーちゃんもういいから!買い物行くよ!!」
「リン、こっちおいで。…一緒に待ってような」
オレ達は、それぞれの相方を責任もって自分の元へ引き寄せ、その場から逃げ出した。



帰ってきたら、リンがレンの指をくわえて満足げにしていたことは言うまでもない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】お菓子がないなら・2【レンリン】

まだ引っ張る兄の指は甘いに違いない編。
一応前作がらみではございますが単品でもそれなりにお召し上がりいただけます。
こんなんにカップリングタグ付けていいもんなのか…!

うちのレンくんはツンデレン成分含むイケレンです。
その実態は男前度で兄さんを遥かに凌駕する。
でも2人とも相方には地球が逆さになったとしても勝てません。


勝てません。

閲覧数:1,680

投稿日:2011/10/27 00:36:11

文字数:2,818文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • ファンタジア

    ファンタジア

    ご意見・ご感想

    面白かったです。前作も読んでみますね。

    2012/07/14 19:32:03

    • ねこかん

      ねこかん

      ファンタジアさん、お読み頂きありがとうございます!
      他のもお暇な時に読んで頂けると…恥ずかしいですが嬉しいです。
      メッセージありがとうございました!

      2012/07/15 22:35:32

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