「ん・・・うん・・・」
どれくらいの時間眠っていただろう。私はゆっくりとまぶたを開けた。
ずっと眠っていたのにもかかわらず目の前は相変わらず暗闇の中で遥か彼方に見える星たちだけがキラキラと輝いていた。
「・・・?」
周りを見ようとして左側が見えないことに気がついた。
どうやらまぶたが開かないらしい。かろうじて残った右目で周りを見回す。
身体を動かそうとするが全身が痛い。左手はすでに指の感覚もなく両足はミシミシと変な音を立てて悲鳴をあげていた。
「よかった・・・」
そんな状態でも右手に持ったバッグだけはしっかり手の中にあることに私は安堵した。
彼女は旅人だった。
幾多の苦難を乗り越えて長い長い旅の果てでようやく手に入れた「星の砂」それがバッグの中身だった。
「これをなんとしても届けなきゃっ!!」
すでに満身創痍だったが気力を振り絞ってふたたび歩き始める。
「あとっ・・・ほんの少しっ!!」
「私の帰りを信じて待っててくれる人達がいる」
「私は・・・私の使命を果たしてみせるっ!!」
そうやって彼女は自らを奮い立たせながら前に進む。
そうしてどれだけの時間が過ぎただろうか。
彼女はようやく故郷にたどり着いた。青く輝くまんまるなその星「地球」に。
「やっと帰ってこれた・・・」
彼女の右目から涙がこぼれ落ちた。
だが、それで彼女の使命は終わらない。
「お願いっ・・・ちゃんと届いてっ」
彼女の右手からそっと「星の砂」の入ったバッグが離れていく。
放たれたバッグはそのまま引力にしたがって地球に吸い込まれていく。予定通りならそのまま無人の砂漠に落ちて回収スタッフが回収するはずである。
「さてと、あとは・・・」
あとは彼女の最期のミッションだけである。すでに地上のセンターから指示は来ている。
最期のミッション・・・それは地球への帰還
だが、それは大気圏への突入装備のない彼女にとっては死を意味していた。
「ミッションスタート」
そう言うと地球を背にして引力に引っ張られていた彼女はゆっくりと身体を回転させて地球のほうを向いて右目を見開いた。
やがて、大気の摩擦熱で彼女の身体が燃え始め薄れていく意識の中で最期にたった一言つぶやいた。
「た・・だ・・・い・・・ま・・」
そして彼女は地球への帰還を果たした
はやぶさ~はじめてのおつかい
帰還一周年ということで書いてみました。元ネタ様http://www.nicovideo.jp/watch/sm10135327【MMD-PV】Starduster「はやぶさ」~はじめてのおつかい~
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=623476
pixiv版
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