――――――――――#13

 建物内に入る。気が付くと、鹵獲した装備はほとんどどこかへ落してしまった。着ているクリフトニア陸軍の戦闘服と、元から持ってたトーラス・レイジングブルだけがテトの持ち物だった。

 「弱装弾でよかったー」

 一応は50口径だが、テトに用があったのはくそ重い2キログラムの銃そのもので、威力は弾さえ出ればいいとか、かなり舐めた理由で選んでいる。なので弾も5発しかない。

 VIP四天王の同僚で波音リツというのがいるが、テトに対抗したつもりか、S&WのM500をオーバーロードで使用している。奴は質量が25tという意味不明な化け物で、蒼音によると「VOCALOID」になった時に能力の一部が暴走し続けているのだそうだ。だから反動など気にせずに威力だけで銃を選べる。白兵戦演習でボコボコにしてやったが、火力はそこそこ強い。だが、コントロールが無茶苦茶になるし、銃の負担も強い。あいつ以外には扱えないからと、あいつの行く先で何丁もM500を運んでいっているようである。

 あれには『歩く劣化ウラン弾』という渾名が付いたが、残念ながら四天王の中では最弱でありイジられ役だった。現在、波音リツは同盟国に支援将官として派遣され、コードネーム「SeeU」という、UTAUでは蒼音以外に詳細を知らない外交絡んだ最重要機密扱いの「VOCALOID」と組んで、海戦で生き生きとしているらしい。

 銃なんぞ、狙ったところに当たらなければ意味が無いのだ。弱装弾にしてるのも、威力が低くても確実でないと、色々と困るからだ。あのパワー馬鹿はその辺の機微が理解できなくて演習でイジメ食らってたのだ。演習だけで。多分。

 あの状況では、きっと波音リツは鏡音レンに負けていた。だから最弱なのだ。とばされかけるし、自分で納得して書いた転属願いもすんなり通るのだ。その判断はとても賢いし正しかったけれども。

 「お姫様はどこかな?」

 不気味な程に、警備の兵士がいない。単純な構造の恐らくは病院だろう、この戦場病院の上位互換みたいな、白い漆喰で壁を塗り深緑色のリノリウムで床を覆ったデザインは、血を見逃さない病院の最強コスパのデザインだ。そして廊下の天井に走る色彩りどりの3本とか4本の配管は酸素とかだろう。あれを1本ずつ色分けする建築物は化学兵器工場か病院しか知らない。

 推理ごっこはそこそこにして、交戦中に拾ったエコーで測った場所に辿り付いた。今まで通ってきた場所と変わらない、3階の一室である。

 KASANETETO――――――――――I’m The Hermit.

 「誰ですか」

 今見ている扉の向こうから声がした。

 「重音テトの救出作戦に仕向けられた艤装を助けに来た、重音テトだ」
 「ひっ」

 ちょっと何秒か、沈黙した。ふと廊下から外を眺めると、鏡音レンを見つけたらしい兵士が向かってきている。ドアをぶち破る可能性を考えた。その時、金属音がした。

 「重音テト、さん……。ですか」
 「うん」

 スライド式のドアを開いて、そいつが顔を出した。緑色の髪をした、やたら痩せた若い女だった。

 「私を、助けるんですか」
 「うん。一応はその積もりで来たんだけれども」

 テトはそいつを味方だと認識しなかった。この迷った目、やはりやられたかと、思わざるにはいられなかった。

 「……はい」
 「何が?」

 こいつ聞いてやがる。気持ち悪さと共に、使えると思ってしまった。なので、考えずに言葉を紡ぐ。

 「お前は何を迷う。この世界で全ての人間を幸せに出来ないなら、人間じゃないか。さもなくば、お前は人間じゃない」
 「はい」
 「そして私は神じゃないし、人間でない何かではない、人間でない何かになりそこなった人間だった何かだ。私は自分で何を言ってるか分からないが、お前と違う何かではない」
 「はい、はい」

 テトは自分が何を言ったか、本気で覚えていなかった。記憶すら追い付かないくらい、何かを思考して喋った。

 「はい」

 女が返事をした瞬間、テトは短い間だが記憶を失っているのを自覚した。咳払いするが、女は動じない。

 「話がある」
 「はい」
 「はいしか言えないのか」
 「すみません」
 「状況は分かっているな。手短に済ませるから、すぐに決断しろ」
 「はい」

 何かを忘れているのを自覚しているとか、意味不明過ぎる。極端に訳の分からない状況で、何故かレンとリツが戦ったらリツが負けるなとか、一体何があったのか自分でも良く分からない。多分、意図しないトラブルで記憶を失っているのだろうとは、推測できた。

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  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」 3章#13

私も記憶を失いそうですか?(疑問系)

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投稿日:2013/01/23 00:33:48

文字数:1,930文字

カテゴリ:小説

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