「特殊音波で筋肉を弛緩させたか…!だがそんな小手先の技にやられるようなあたしじゃないぜ!!」


 鬼百合を支えに、震える足で立ち上がるリリィ。そしてカイトをキッと見据えると、直前まで足が弛緩していたとは思えぬような踏込で突っ込んだ。

 そんなリリィを一瞬だけ鋭い眼で睨みつけ、カイトは漆黒に染まった手を突き出し、小さく叫んだ。


 「『卑怯プログラム』発動。『絶対バリア』!!」


 直後、カイトの目の前に青く輝くバリアが展開し、それは鬼百合をいとも簡単に受け止めた。

 更にピン、と指を弾くカイト。その瞬間、一瞬だけ膨れ上がったバリアは、リリィの手から鬼百合を弾き飛ばし、天空にかちあげた。


 「やべっ!!」


 ひどく慌てた様子で、リリィが跳躍し鬼百合を掴み取る。その様子をじっと見つめたカイトは、小さく笑って大きく振りかぶった。


 「『卑怯プログラム』発動―――!!」


 高らかに叫ぶカイトの手が青白い輝きを放ち始める。


 (何が来る…!?)


 思わずその手を凝視して構えるリリィ。そのリリィを見据えながら、カイトは力強く腕を振り下ろした。



 「―――『タライアタック』!!」



 ゴォォン!!と豪快且つ間抜けな音がして、上空から飛来した巨大なタライがリリィを直撃した。


 「ごはっ!?」

 「そらもう一丁!!」


 カイトの声と共に一回り大きなタライがリリィと前のタライを押しつぶし、それら三つはまとめて地面に激突した。

 唖然としてそれを見るルカたちの前で、いきなりカイトは笑い出した。


 「はっはっはっはっはっ!!手が光ったからと言ってそこから技が飛び出したり空から不定形が降ってくるわけじゃないだろう!!たまには物が落ちてくることもあるのさ!!」

 『フツー落ちてこないよ!?』


 リンとレンがマジツッコミしている最中、ぐらり、と二つのタライが傾いだ。と思った次の瞬間には、タライは真っ二つに割れて霧散消失し、土煙の中から怒り心頭のリリィが現れた。


 「んのやろおおおおおおおおおおお!!!!」


 怒り狂いながらカイトに向かって突進する。鬼百合でカイトの体をぶち抜くつもりだ!

 その時だ。

 ―――カイトがリリィの目前―――いや耳に息がかかる距離にまで接近した。

 そして思わず動きを止めるリリィの耳元で、カイトがそっとささやいた。



 『―――スキだよ。』



 「んなっ……!!?」


 あっという間にリリィの顔が真っ赤に染まる。


 「な…なな…てっ…てめ…一体何のつも―――」

 「―――――だから、」


 「『隙』があると言ってんだあああああああああっ!!!!」


 叫びながらリリィの腰と肩に手を添え、カイトはそのままリリィを思い切り放り投げた。呆然とした顔のまま、回転しながら吹っ飛んでいき、再び地面に激突した。


 「はははははははは!!『スキ』と一言にいっても色々な漢字があるじゃないか!!何をそんなに慌てているのかね!?」


 (卑怯だっ!!)


 その場にいた全員が心の中で全力ツッコミだ。

 おぼつかない足取りで立ち上がるリリィ。身体的ダメージというより精神的ダメージのほうが遥かに大きいようだ。


 「て…てめぇ…卑劣な真似をっ!!」

 『いくらでも卑怯卑劣と罵るがいいっ!!!!』


 突如響いたカイトの叫びに、その場にいた全員が一瞬身を縮ませた。

 そこにいたのは昨日まで仲間の後ろに隠れ、自らの無力さに打ちのめされていた気弱な男ではなかった。全てを背負い、全てを受け止め、全身全霊でリリィに、今は亡きマスターに、そしてこの世に応えんとする、一介の戦士だった。


 「…卑怯卑劣と罵るがいい。何のために俺がこんな卑怯な真似をしていると思っている。全ては背負った仲間の想いのため。『マスターへの想い』という、何よりも強き想いのためだ!!それを守り抜くためならば…俺は君にも仲間にも蔑まれようとも構わない!!そして自らの信念『守るべきもののためならば手段を選ばない』!!この信念にも二度と背かぬためにも!!ここで迷ってはいられんのだ!!」


 いきなり天空に左手を掲げたカイト。その左手が蒼い輝きを放ち、辺りの空間が揺らぎ始める。


 「『卑怯プログラム』発動!!出でよ!!『うろたんロボ軍団』!!」


 澄んだ、しかし力強い声が天に轟いた瞬間、カイトを取り囲むように巨大なロボットの軍団が現れた!!以前暴走したリンを止める時に使った『卑怯マシーン』によく似た、しかしずっと戦闘型のフォルムのロボットが、ざっと2000体―――。


 「うろたんロボ2000体!!容赦はいらん、この精神的にボロボロなリリィを徹底的に叩きのめせ!!」

 『なんつー卑怯な!!』


 再び全員がツッコミするも空しく、2000体のロボットは一斉にリリィに襲い掛かる。


 「く…くそ…!!」


 重い足音を立てながら突っ込んできたロボットと距離を取ったリリィ。上空から力強く切りかかった。

 ―――が、ロボットを両断するかに思えた鬼百合の刃は、そのままロボットをすり抜け地面を割った。


 「なっ!?」

 「かかったなリリィ!!そのロボットは敵の攻撃はすり抜けるが自分の攻撃は威力三倍増しで当たるというスグレモノな幻影だ!!」

 『……………………………。』


 もはや誰も突っ込まない。…否、正確に言えば、ルカたちはそんなアホらしいことを突っ込んでいるような気分ではなかったのだ。

 そう―――カイトがリリィを追い詰めている。マスターノートに、王手がかかっていることを思いだした。


 「カイト…!」


 メイコが拳を握りしめる。

 その時、カイトがぼそりとつぶやいた。


 「…頃合いだな。」


 突如、左手を天に向けて掲げ、指を鳴らした。

 その瞬間、リリィを取り囲んでリンチのように攻撃を加えていたロボット軍団が掻き消えた。

 鬼百合を杖代わりにして立ち上がるリリィの前に仁王立ちするカイト。その眼は、リリィの何を見ていたのか。射すくめるように見つめて、そして小さく笑った。


 「…リリィ。ありがとう。」

 「…あ?」

 「君はマスターノートを僕らの元に連れてきてくれた。そして僕に、大切な信念と、最愛の人の笑顔を思い出させてくれた。そんな君に敬意を表して、最後は卑怯な手など使わずに、正々堂々、剣と剣の戦いといこうじゃないか。」


 すっ、としゃがむカイト。地面に手を当て、静かに目を閉じた。

 そして――――――――――



 「『卑怯プログラム』発動!!来い!!『エクスイカバー』――――――――!!!!」



 その瞬間、カイトの手の周り半径1メートルほどの地面が青白く輝き、それが氷に変わった。

 カイトの拳がその氷を砕き、中から表れたもの―――



 紅い刀身、緑の鍔、木製柄の柄―――――



 それは―――カイトの大好きなスイカバーの形をした、巨大な剣だった。

 スイカバーなどという超脱力系のデザインでありながら、禍々しいまでに紅く輝く刀身に、ルカたちは圧倒されていた。


 「…紅き剣を携えて、蒼き卑怯戦士が行く―――――」



 ―――蒼紅の―――卑怯戦士…!!



 「行くぞ!!リリィ!!」


 鋭く、そして威勢のいい声とともに、カイトが地を蹴り、一瞬でリリィの目前にまで突っ込んだ。

 そして紅い輝きを放つエクスイカバーを猛スピードで振りおろす。リリィは咄嗟にそれを受け止める。

 鋭い金属音を上げながら、鍔迫り合いが始まった。一歩も引けを取らない競り合いが、しばらく続いた。


 「い…潔いのは結構だが…諦めな。刀の戦いで、このあたしに勝てる者はいねぇ!!」

 「確かにね…このままなら俺は負ける。だがまだ手は残っているのさ!!『卑怯プログラム』発動!!『刀映』!!」


 その瞬間、エクスイカバーが赤い光を放ったかと思うと、徐々にその形状を変え始めた。

 刀身の幅は均等に、そして一回り、二回りとさらに巨大化する。エクスイカバ―の形は―――鬼百合のそれと全く同じものになっていた。


 「なっ!!?」


 驚愕の声を上げるリリィに対し、カイトはどこか誇らしげだ。


 「卑怯プログラム『刀映』とは!!相手の刀の能力を、エクスイカバーに写し取る能力さ!!つまり今エクスイカバーは、君の鬼百合と同じ能力を持っているということだ!!」

 「は…はっ!!だからなんだよ!?鬼百合はあたしの声に反応して力出すんだぜ!?いくら鬼百合の力をコピーしたってどうにかなるわけ―――――」


 そこまで言って、リリィの目が見開かれ、みるみるうちに顔から血の気が引いていく。

 気づいたのだろう。自ら自分に死刑宣告を言い渡してしまったことに―――。


 「気づいたみたいだね?つまり君が鬼百合の力を発揮させるとき、こちらの刀も全く同じように力を発揮するということさ!!」


 僅かにリリィの手が震えだす。しかしそれでも、気丈に声を張った。


 「だ…だがな!!忘れんなよ…あたしにはまだサウンドマッスルが―――――」

 「それも関係ないさ。なぜなら君を倒す必要はないからね。」


 『へ!?』


 ルカたちが素っ頓狂な声を上げる。カイトは小さく笑って、エクスイカバーを持つ手に力を入れた。


 「つまり……こういうことだ!!」


 叫んで、一気にエクスイカバーを振り上げた。弾けるような音がして、鬼百合がリリィの手からもぎ取られ宙を舞う。


 「しまった!!」


 慌ててリリィが鬼百合を掴もうとして跳ぼうとする。だが―――


 「『筋弛緩砲』っ!!」


 カイトの凛とした声とともに、蒼い波導がリリィの体を包む。ぐにゃりと曲がった体は、そのまま地面に落下し、鬼百合はその遥か後方に突き刺さった。

 全身の力が抜けてへたり込むリリィに向かって、エクスイカバーを振りかぶったカイトが飛び掛かる―――!!


 「や…やああぁあぁああぁあっっ!!!!」


 可憐な少女のような悲鳴を上げたリリィは思わず目をつむった―――



 ―――が、痛みも何も感じない。そっと目を開けてみると―――リリィの目の前には、エクスイカバーの切っ先が突きつけられていた。

 少しずつ視線を上げるリリィ。そこには、少し人懐っこそうな笑顔を浮かべた、カイトの顔があった。


 「…勝負あり、だね。」


 その一言でリリィがまるで普通の女の子のようにぺたんと座り込むのと、リンとレン、そしてミクが嬌声を上げるのは、ほとんど同時だった。



 「ぃやっっったああああああああああああああああああああぁあああああっ!!!!!」



 泣き笑いの表情で次々カイトの胸に飛び込んでくるミクたち。ルカやメイコは飛び込みはしなかったものの、目にいっぱいの涙をためて微笑んでいる。

 カイトはミクに目を向けて、少し申し訳なさそうな顔で笑った。


 「…女の子の心弄んでまで勝とうとするバカな兄さんで、ゴメンなミク。」

 「そんなの気にしない…気にしないよ…!…ありがと、カイト兄さん…!!」


 ひとしきり抱きつかれた後、カイトはへたり込んでいるリリィに向き直り、近づいた。

 その時だ。


 「…何でわかった?」

 「え?」

 「わかってたんだろ…?あたしが…鬼百合を手放しちまったらまともに戦えないって…。」


 カイトはため息を一つついて、話し出した。


 「…最初に不思議に思ったのは、昨日の戦いの時だ。あの時、リリィはミクを素手で昏倒させた。それほどの攻撃力を持つにもかかわらず、即座に鬼百合の元に戻っていた。ミクを素手で倒せるなら、他の皆だって素手で倒せそうなのにね。次に不思議に思ったのは…これはルカちゃんから聞いた話なんだけど、僕が暴走してた時のこと。僕の音波で鬼百合にヒビが入ったとき、すごく気弱な言葉を吐いたそうだね?たったそれだけのことで弱音を吐く…ここで大分僕の仮説は確かなものになっていた。そして極めつけは、さっき絶対バリアで鬼百合を弾き飛ばした時、ものすごく慌てていたね。それで確信を得たのさ。リリィの根は、鬼百合なしでは歩くこともままならないほどの臆病者だってことにね。」


 カイトの説明を、呆気にとられて聞くリリィ。その表情を見る限り、外れているところはないようだ。


 「…言ったろう?守るべきもののためには手段を選ばないと。これが…僕の覚悟であり、僕の正義さ。」





 リリィが自らの負けを認め、『マスターノート』を渡すと約束を交わしたのは、その1分後の事であった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

蒼紅の卑怯戦士 Ⅹ~決戦!!VSリリィ②卑怯戦士の猛攻

バカッコイトですね、わかります!こんにちはTurndogです。

つーことで!!ビバ卑怯。
…なんて簡単に言ったけど結構難しいよ卑怯って!!うろたんだーファンの皆さんは良く思いつくね!!

『卑怯プログラム』。一言で言えば『卑怯なプログラム』。もう少し詳しく言えば『何でもできる卑怯なプログラム』。詳しくはまたデータファイル作って言いますよ。

ん?「エクスイカバー」って何かって声が聞こえてくるよ!
…えーっと、ニコニコ大百科でも読みなさい!(おい無責任

なんにせよ蒼紅の意味がこれで分かったでしょう。蒼はカイト、紅はエクスイカバーのことだったんですな。
蒼と紅の対比…!美しいはずなのにカイトだとなぜか無条件で笑えてしまうのはなぜだっっっ!!!!wwwww

因みに、最後のカイトからミクへの謝罪は、Turndogから全国の女性の皆さんへの謝罪です。『好き』という重い言葉を弄ぶような真似してごめんなさい。女心弄ぶような卑怯技出してすみませんでした。皆さんはこんなバカッコイトには引っかからないように!

次回、リリィ去りゆいて、マスターノートの内容が明らかに!

閲覧数:666

投稿日:2012/07/10 14:59:31

文字数:5,288文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    む~(・へ・)
    リリィかわいそ…
    負けたこともそうだけど…すごくうぶなのに!

    しかも、リリィ去るの?!
    そっか…傷心だもんね…うちにおいで(>_<)
    なでなで

    ささ、空気になったグミと共に、いずれ復讐しようね
    しるる、次回作「グミ&リリィの復讐」←?

    2012/07/17 21:20:35

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      文句はTurndogを通じでバカッコイトに!!

      ちょっと待てリリィ!鬼百合構えて何するつもり!?
      リリィ「え、うちにおいでって言われたから、てっきり挑戦状かと…違うのかい?」
      当たり前だああああああああ(汗)

      まさかのコラボ作品!!!?…いっそのことほんとにパラレルワールド的展開でコラボしてみます?www

      2012/07/18 10:59:47

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    ちょっとちょっとturndogさん、ウチⅤのときにリリィの弱点言い当てましたよね……?!(((実際は少し違うが なんであのとき言ってくれなかったんですか;;(黙

    それはともかく← 、ブクマ頂きます

    2012/07/11 22:23:43

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      えぇ?だってぇ?そこであってるとか言ったら全力で面白くないじゃないですかぁ?
      楽しみは後に控えておかないと…ね?(キモい

      ありがとうございます!
      …ところで前から言おうと思ってたのですが。
      私は神ではありません。紙です。もしくは髪です。多分。

      2012/07/12 09:00:35

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