「お疲れ様でした!雑誌の方は来月お届けしますので、楽しみにしていてくださいね!」
『お疲れ様でしたー!』
雑談などで盛り上がって、帰る頃にはもう辺りは薄暗くなっていた。
「あー・・・寒」
くしゅんっと、可愛くもないくしゃみをする。
昼間はそんなに寒くなかったせいで、私はコートを着てきていなかった。
「巡音さん!」
後ろから、声を掛けられた。
「氷山さん!」
キヨテルさんが手を振りながら、こちらへ向かって駆けて来た。
「どうしたんですか?そんなに急いで・・・」
「め、巡音さんが・・・いた、ので・・・」
よほど急いで来たのか、キヨテルさんはぜーぜーと息を荒くして、やっぱり若い頃のようにはいきませんねと笑った。
「なんで、私を?」
「いえ、昼の・・・」
あ!
（そういえば、誘われてたんだっけ・・・）
「お話ですか?」
私、キヨテルさんとは今日会ったばっかりだし、話すことも無いと思うんだけど・・・
「あ、はい・・・時間、ありますか?」
「はい、全然」
「では、お付き合い願います」
キヨテルさんはにっこり笑うと、私の前を歩いていった。
私もそれについて行った。
「くしゅんっ!」
500mくらい歩いた所で、本日二度目のくしゃみをした。
キヨテルさんがくしゃみに気づいて、私のほうを振り返る。
「寒いですか?すみません・・・」
「いっ、いえ!大丈夫です」
「あ!これ・・・」
キヨテルさんは、着ていたスーツを私に羽織らせた。
「これじゃあ氷山さんが寒・・・」
「僕は男ですから大丈夫です!それと・・・」
頭を優しく撫でられる。
「キヨテル、でいいですよ」
「!」
ドキッ!!
思わず顔が赤くなる。
「あ!馴れ馴れしかったですよね・・・すみません」
キヨテルさんは、私の頭の上から手をどかせた。
（び、びっくりした・・・）
がくぽにも、あんな風にされたのいつだったか覚えてない・・・
私たちは駅まで歩き、ベンチに座った。
「ルカさんは、メイコやカイトと同じ職場で働いてるんですよね?」
「はい」
「どうですか?二人は」
「普通に仲良しですね・・・よく、がくぽから私を守ってくれます」
ははっと、キヨテルさんは笑った。
「神威ですか・・・あ、お付き合いなされてるんでしたっけ?」
「え?あ、はい・・・なんで、それを?」
「メイコから昨日聞きました」
あ、そっか!
キヨテルさんは、メイコとカイトとがくぽの同級生なんだっけ・・・
「いやぁ、メイコとカイトにはひどい目に合わせられましたよ・・・僕がやきそばパン食べてるじゃないですか。それで、僕トイレに行ったんですよね。したらやきそばパンが無くて、カイトとメイコの口周りに紅しょうがついてたりね」
「あはは!やりそ～!」
そんな昔話を聞いているうちに、終電が来た。
「あ!私、終電・・・」
今日はありがとうございました・・・と、言おうとすると。
「!」
『ドアが閉まります。ご注意下さい』
ゴォォォォォォォ・・・・
突風と共に、電車は走り去っていった。
「あの・・・?」
「・・・」
私は終電に乗れなかった。
なぜかと言うと・・・
「ルカ・・・さん」
キヨテルさんに抱きしめられていたから。