目の前の光が晴れると、目の前には見慣れた日本の街並みが広がっていた。

「……うおっと」

若干バランスを崩し、踏みとどまる。アスファルトの地面が酷く懐かしく感じられた。

(ここは……)

俺が今いるのは大通りに繋がる細い袋小路のようだ。大通りに出て右に少し行けばピアプロにつく、という生前(?)の俺が知る筈のない情報が脳内に浮かび上がる。

(やっぱ人造人間って事だな……)

全身の動作にも違和感を感じないが、そういう所で普通の人間とは違うと理解できる。

「ん?」

と、ズボンの右ポケットが振動した。取り出してみると、携帯電話に着信が入っている。相手の名前は『Dr.M』と表示されていた。後でびんぞこに変えておこう。

『久々の娑婆の空気はどうかね?』

「お前の声で色々台無しになったよ……つうか普通に通信手段あるじゃねえか。必死で質問しちまったぞ」

『あああれね、理由だけど、その方が悪役っぽいじゃん?』

「うすうすそうじゃないかとは思ってたよ……」

引っ張った割には本当にどうでもいい理由だった。

『おっとそうだ本題に入ろう。実はさっき幾つか伝え忘れたことがあってね?』

「なんだ」

『まずキミの名前だ』

「名前か……」

確かに戸籍上では死んでいるであろう人間の名前を名乗りつづけるのはよくないし、第一にボカロっぽくない。

「変なのは勘弁してくれよ?」

『安心しろ、コレについては自信がある……キミの新たなる名前、それは語音(かたりね)シグだ!』

「はい厨二おめでとー」

なんだよ語音って。俺に何を語れと?
そしてシグ!なんて素敵な響き!……はぁ、こんなんが俺の名前なのか……

『ち、厨二であろうと任務に支障は出まい。次に、左ポケットに入っている財布の中にキャッシュカードがあるが、それの口座は買えるなよ。作戦資金や給料が振り込めなくなるからな』

「収入あんのか……」

いやありがたいが。俺の抱く悪の組織とは随分イメージが違う。

『仕方あるまい、団員にストライキを起こされるよりはましだ。最後に一応忠告しておくが、くれぐれも任務をほっぽりだしてどこかに行こうとは思うなよ?そうした場合キミの身分を証明するものは何もないんだから』

「あーわかってるよ畜生め。他にはなんかあるか?」

『いや。検討を祈る』

「はいよ。……やれやれ」

携帯電話をポケットにしまいながら俺は嘆息した。我ながら妙な事に巻き込まれたものだ。

(でかいな……)

ピアプロに向かった俺が最初に抱いたのはそんな印象だった。小さな町くらいの敷地に沢山の建物が立っている。
中でも目を引くのが、中央の一際大きいビルだろう。壁面には巨大なモニターが設置され、現在は初音ミク量産化計画に関する情報が流されている。

「あれがセントラルビルか……よし、行くか」

誰に言うでもなく呟き、俺はビルに向かう人の流れに身を委ねた。

「ピアプロにようこそ!まずはこちらの紙にお名前をお書き下さい!」

営業スマイルを浮かべるお姉さんの指示に従い、俺は名前を書き込んだ。危うく生前の名前を書きかけ、なんだか複雑な気分になった。

「語音シグさんですね?お話は伺っています。こちらにどうぞ」

(お話?)

恐らくはびんぞこが話を通しておいたのだろう。妙な所で用意周到な奴だ。
そのまま案内され、俺は簡素な部屋に入った。

「語音シグさん、この度はピアプロ会員仮登録ありがとうございます。これより本登録を行いますので、こちらの椅子におすわり下さい」

俺がパイプ椅子に腰かけると、お姉さんはコードのようなものを取り出し、一端を俺の頭部のヘッドフォンらしきものに、もう一端を持っていたパソコンに繋いだ。

「……はい、完了しました。これで語音様は正式にボーカロイド亜種キャラクターとして活動する権利を得ました」

なんだか良くわからないが済んだらしい。

「語音様はピアプロ内での生活をご希望との事なので、宿舎に案内させていただきます」

(宿舎か……)

ボーカロイドが暮らす部屋とはどんなものなのだろうか。俺は少しワクワクした。

「こちらになります」

(あれって……)

しかし、お姉さんに案内された建物は、思ったより大したことはなかった。普通のマンションと言った感じだ。しかもちょっと古そう。

「ここの203号室が語音様の部屋となります。大変申し訳ないのですが、部屋不足の為にほかの方と共同で使う形となります。こちらが鍵となります。それでは」

要件だけ伝えると、お姉さんはさっさとセントラルビルに戻っていった。
なんだか拍子抜けな気分のまま、俺は扉の鍵を開けた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説【とある科学者の陰謀】第二話~潜入~その一

久々の更新、第二話開始です。
結局企画に関しては諦めて話を進める事にしました。

同居人についてはあのキャラを使おうと考えておりますが……許可とか取った方がいいんでしょうか。ちょっと不安です。ダメなら消して書き直します。

閲覧数:206

投稿日:2011/05/17 12:04:09

文字数:1,939文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 絢那@受験ですのであんまいない

    はいびんぞこ、厨二乙です!ま、私も微妙に厨二ですがwww

    ぬおぅっ、知らない間にうpされてただと…あっ、コメ重なっちゃうと思いますが済みません。毎回書きたい性分でしてwww

    語音シグ…うーん、何を語れと? まあ可愛い名前だから許しちゃいます((←厨二乙
    VOCALOIDが実体化ですか…いいですね。実体化されたら全キャラ借金しても買います!

    2011/05/18 21:35:19

    • 瓶底眼鏡

      瓶底眼鏡

      おお、チミーさんも厨二入ってますか。自分も勿論厨二です!仲良くしましょう!←

      いえいえ全然構いませんよ、むしろわざわざありがとうございます。

      名前の由来としては、語音はこの小説の語り部なのでそこから、シグは完全に響きでつけました。溢れる厨二魂をつぎ込みました!←
      ボカロ実体化は全ボカロファンの夢ですので!自分も最低何があってもハクだけは手に入れる!←

      2011/05/18 23:06:22

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