「んだてめぇ……!?」

 「この人数に一人で立ち向かおうってのかオラァ!!?」


 一人前に出るカイトに向かって、『黒猫組』組員の軍勢が叫びかける。

 それには一言も応えず、静かに男達を見据えて―――――


 (……卑怯プログラム発動。『脳内スキャン』!!)


 微弱な電子風をたたきつけ、組員全員の記憶を読み取る。


 「……ふむ。」


 そしてじっくりと内容を吟味していると、痺れを切らし始めた組員の一部がカイトに詰め寄ってきた。


 「てめぇなにシカトこいてやがる!!いい加減にしねぇと―――――」

 「あ―――――そこの君。」


 突如、カイトが一人の若い組員をびしりと指さした。


 「彼女がいるね?」

 「なっ!!?」

 「それも幼馴染、更には互いの両親公認で来年に結婚を控えている。……ところが!互いに貧乏で結婚式を上げる費用が足りない!!そこで大金が稼げると噂の『黒猫組』に入ったってとこかな?」

 「なっ、何故それを……!!」


 図星の様である。続いてカイトはその隣の男を指さす。


 「君はすでに結婚しているようだね。そして……ほほう、今奥さんが妊娠三カ月なのか!それはおめでとう。……だが、ああ何ということか、君はこの不況の波に飲み込まれ以前の仕事をリストラされてしまった。そこでさっきの彼と同じように金を稼ぐ手段を求め『黒猫組』に入ったというところだね。」

 「ば……馬鹿な……!!」


 またまた図星らしい。顔面蒼白になっている。

 そして次にカイトが定めた標的はその後ろの、筋肉質な中年の男だった。


 「そしてそこの君はすでに子供がいるんだね。息子さん2人に娘さん3人……5人兄弟か!にぎやかで結構。しかし君はこの間無能な上司をぶん殴って勤めていた建設業をクビになってしまった。そこで同じように教育費をひねり出すために『黒猫組』に入った。どうだい、当たってるだろう?」

 「う……ううっ……!!」


 一歩、一歩。静かに歩きながら、順番に指さしていくカイト。


 「君も……君も……君も……。成る程、『黒猫組』の組員にはこういった家族想いが多いのかな?いやいや、暴力団という反社会的組織にありながら心根は実に社会的でよろしい。」


 そして急に足を止め、不敵な笑みを浮かべて―――――言い放つ。

 まるでそれが、『運命《さだめ》』であるかのように―――――



 「―――――ところでもし。君達の大切なたぁいせつな彼女や家族が、このぼくの合図一つで吹き飛んでしまうとしたら……どうかな?」



 『なっ!!?』


 組員一同の顔が一斉に驚愕、そして恐怖に包まれる。


 「今から君達が僕に攻撃を仕掛けてきた場合、君達の大切な家族が消し飛ぶと思いなさい。それでも僕の首がほしい人は、どこからでもしかけてくるといい。」


 淡々と述べるそのカイトの言葉は、まるで死神が鎌を構えるかのような迫力を放っていた。

 だがそれでもなお。


 「は……ハッタリだ!!ハッタリに決まってらぁ!!」

 「ほほう、ハッタリだと思うかね?ではかかってきなさい。」

 「言われずともおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 数人の組員がカイトに向かって突っ込んでいく。

 カイトはその場から微動だにせず、軽く指を鳴らした。





 ――――――――――ドゥン!!





 「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」


 ―――――突然地面が爆発し、突進してきた組員全員の姿が―――――爆炎の中に消えた。



 『!!?』



 一瞬で組員の顔に恐怖が戻る。

 爆煙をゆっくりとくぐり抜け、前に出るカイトは笑っていた。優しい笑い方。だがそれでいて、凄まじいまでの恐怖を感じるような。


 「これがお手本さ。僕は物体を自由自在に爆破できる。今回は彼らだったが、次は君達の家族かもしれないよ?」


 もはや震えが止まらなくなっている組員もいる中で、また気丈に前に出ようとする組員がいた。さっき『彼女がいる』と指摘された組員だ。


 「だ……大丈夫だ!!どうせ家族のいる場所なんぞわからんに決まってる!ハッタリだ!!悪之介の兄貴の……仇いいいいいいいいいいいいい!!!」


 地面を強く蹴り、カイトに向かって突進。

 手に持つ短刀が、カイトに突き刺さらんとした時!!





 ―――――小さくカイトが嗤うと同時に―――――





 《―――――――――――――――ッッドオオォォォォンッッ!!!!!》





 ――――――――――町の彼方で、巨大な爆炎が上がった。


 「……え?」


 若い組員が愕然とした顔で振り返った。


 「お、おい……あれ、お前の彼女の家がある方角じゃ……!!」


 いやだ、信じられない。そんな面持ちで、カイトの方を向くと。



 カイトは嗤っていた。嗤う。ワラウ。

 鳴らした指を降ろしながら。





 「……ほら。君が仇なんてくだらないものを優先したから。君の大切な彼女が吹き飛んじゃったね……!」





 「う……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああミズキいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 まさに―――――蒼い死神。

 頭を抱えて泣き叫ぶ組員を見下すカイトのそのどす黒い笑みは、まさしく死神の嗤いだ。


 「さぁ!これでもまだ戦うかね?どこからでもかかってくるがいい!その度に…………君達の大切な彼女が……家族が……爆炎に焼かれ消し飛んでいくだろうな……!!くくくく……はははははっ!!!」


 この一言が決定的だった。組員たちは次々と得物を置いて、ひざまずいて許しを乞い始めた。


 「ひ……ひひっ……や、やめてくれぇ!!」

 「す、すまなかった!!やめてくれええええ!!」

 「あああああああミズキいいいいいいい……!!俺が……俺がああああああああ!!」


 泣き叫ぶ若い組員、そして次々と土下座し始めるその他の組員たちの様子を一通り見て、満足そうにうなずくカイト。

 そしてすっ……と腕を上げて…………。



 ―――――パチィン!と指を鳴らした。





 《―――――――――――――――フッ。》





 「……………え?」


 誰かが間の抜けた声を漏らした。


 消えた。周りの喧騒がすべて消えた。

 正確にいえば―――――カイトの後ろの地面から上がる爆炎と、彼方で天を貫いている爆炎、その他遠くから響く消防車のサイレン等々が、全て消えたのだ。

 そしてカイトの後ろで、数人の組員がむくりと起き上がり、辺りを呆けた顔で見回している。


 「……あ、あれ?俺達……?」

 「た、確か突然目の前で光が弾けて、そしたらいきなり足元が崩れて落とし穴に落ちたような……?」

 「い、いやいや、1億で買収されそうになったんだろ?」

 「へ?俺は宴会開かれて気を抜いたら後ろから不意打ちされたけど?」


 『……………???』


 何が起きたかさっぱりわかっていない組員たち。

 すると突然、『ハハハハハハハハ』と笑い声が上がった。カイトだ。




 「あは!あははははは!!馬鹿だねぇ今までのは全部幻影だよ!!映像映像、ヴィィジョンなのだよ!あはは!!安心しなさい、君の彼女はちゃんと生きてるよ!ははは!いやぁそれにしてもあんなホラに簡単にだまされるとは思わなかったよ!!君達の泣き叫ぶシーンもちゃんと録画できたし、これを君達のアジトに送りつけてゆすっても全国放送で流しても面白いかもね!ははっ!」




 騙された恥ずかしさと、バカ笑いを続けるカイトに怒りが頂点に達したのか、一度は取り落とした得物を再び持って、組員たちがカイトに襲いかかる!


 「このヤロオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」




 「あ、そうそう―――――」




 再びカイトが指を鳴らすと――――――――――





 《――――――――――ズドドドドドドドドドドドドドドンンッッ!!!!》





 ――――――――――今度はあたりのコンテナが全て爆発した!!

 そしてその破片が次々と組員たちにぶつかり、思わず「ひっ」と声が上がる。


 「ああ、そうそう……別の本物の爆破ができないわけじゃないからね?この町全てを焦土と化すことだってちょっと無理すればできなくもない。例え正確な場所が分からずとも、君達の動き次第では大切な人たちが全て跡形もなく消えるだろう。」


 そして一歩前出て、ガタガタ震える組員たちに向かって親指と中指を合わせた右手を指し――――――――――



 「さぁ!!どうするのかな!?」



 『ひ……ひあええええええええええええええ!!!!』


 情けない悲鳴を上げて、組員たちは全速力で逃げて行った。

 その後ろ姿が見えなくなった後、カイトは組員たちに向けていた指を―――――そのまま軽く鳴らした。

 途端に―――――




 《―――――――――――――――シュン!》




 軽い音がして、周りの爆炎が全て消えた。爆破されたはずのコンテナはすべて無傷のままそこに存在しており、組員たちがいた場所には指の先程度の小石が数十個転がっていた。

 突然、カイトが天を仰ぎながら高笑いを始めた。


 「はっはっはっはっはっは!!!これぞわが卑怯プログラム最強の卑奥義・『カイト・イリュージョン』!!ありとあらゆる幻影を生みだし、実体化させることすらも容易に行い、サイズ等々の規模にも限界のない究極の卑怯技だっ!!くくくく……しかしどうしたんだろうねぇ彼らは!ただ小石をぶつけられただげでビビったり、幻影を解除してあげようとしただけで逃げだしたり!!あんなのが暴力団か!面白いねぇ!!あはは!!」


 完全に自分の世界に入っている。もう誰も止められない。

 そんなカイトを、ずっと蚊帳の外だったルカ達は呆れかえった顔で眺めていた。


 「……卑怯だ。」

 「……うん、卑怯だね。」


 レンが呟き、リンが声を絞り出す。それしかできないほどの謎の衝撃を覚えていたのだ。


 『お……おい、ルカ……。』

 「な……なに?ロシアンちゃん……?」

 『カイトは……あんなぶっ壊れたキャラだったか……?』

 「……潜在音波が覚醒してから……何だが調子づいちゃったらしくてね……。こんなことになるのがめんどくさかったから今までわざとぞうきんな扱いしてきたのに……。」


 中でも一番呆れていたのは、カイトが潜在音波を手に入れたことを知らなかったロシアンと、さっきまで怒りが爆発していたルカだった。

 頭を抱えるルカに気付いたカイトが声をかけてくる。


 「おやぁ?どうしたかなルカちゃん?」

 「カイトさんのせいでしょがっ!!」

 「……くく、笑った。笑顔が戻ってきたねぇ?」


 はっとしたルカが自分の顔を触ってみると、確かに思わず笑っていた。さっきまで怒りに心を支配されて、醜く歪んでいた顔が、呆れた笑みに上塗りされていた。


 「……僕らがこの旅行で一番望んでいたものはなんだと思う?」

 「え……?」

 「……一カ月もの休暇で、海まで来て、君の怒り狂う姿を見たかったと思うかい?僕らは仕事のことも、敵のことも忘れて君の楽しんでいる笑顔が見たくて旅行に来てるんだ。例えどれほど辛く苦しいことがあったとしても、そのことを忘れちゃいけないよ。いいね?」


 卑怯にも深いその言葉は、ルカの心にずしりと響く。


 「……分かりました。ありがとね、カイトさん。」


 小さく笑ってから、だがきっと目つきを鋭くして、伸びている悪之介を掴み上げた。


 「でも今だけ……この事件が終わったら絶対笑うから……今だけは勘弁してね……!!」





 その後、八又町警察署に向かうまでに、すでに満身創痍だった悪之介は更に数か所の骨を折られることになるのであった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行 Ⅸ~見せてやろう、卑怯の雷を!~

ムスカイト「私はムスカイト大佐だ」

ムスカイト「跪け!命乞いをしろ!!」

ムスカイト「三分間待ってやる!!」

ムスカイト「時間だ!答えを聞こう!」

ムスカイト「死ねー!!」(ずどおおおおおん)

ムスカイト「見ろ!人がゴミのようだ!」

ムスカイト「素晴らしい!最高のショーだとは思わんかn」


めーちゃん『バルス!!』(きあああああああああああっ)


ムスカイト「ぐああああああ!!目が……目がああああああああああああああ!!!!」


~天空の城ラピュタ・ムスカ大佐その他のセリフより引用~


大変見苦しいバカイトがうつったことをお詫びいたしますwww
こんにちはTurndogです。

うろたんだ―動画であったんですよ、敵の子供を人質にとっちゃうネタ。
勝手ながら使わせていただきました。
その動画がこちらです
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8242892?watch_harmful=2

今まで家族にもお荷物扱いされていたカイト。
そんなカイトがこの新しい力を奮いたがらないわけがない!
というわけで卑怯にも大活躍していただきましたwww
最後まで卑怯でしたね。いい意味でwww
関係ないけど、多分めーちゃんは上でバルスと称してメイコバ―ストを撃ってると思う。
それでダメージが目だけとは卑怯だ!

ムスカイト「私は滅びぬ!何度でも蘇るs」
えーからもう沈んでろや!!

次回!ルカさんはついでに大物捕りにかかる!

閲覧数:497

投稿日:2013/03/22 15:50:29

文字数:5,069文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    ねぇ、いつからカイトは、焔の錬金術師ロイ・マスタ○グになったの?www
    指パッチンで、どーんww

    まぁね、あまり人でなしだと、卑怯というより、ただの悪役だからねぇww

    2013/03/23 00:21:56

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    実はターンドッグさんが個人コメントをくれる前から読んでブクマしていた雪りんごです←

    『「ほら……。君が仇なんてくだらないものを優先しちゃったからry」』のところらへんで、
    「え、この爆発、幻だよね?w だって兄さんがこんな、カッコよく……!」と悶えておりましたww我々の業界ではご褒美です!(((
    というか、「ミズキ」ってもしかしてVY1? それじゃあその彼女がいる人って……勇馬でVY2?

    兄さんの卑怯の神髄素敵すぎました!
    兄さん=卑怯=正義!=イケメェン!!=ry

    今頃気づいたんですが、タグがwwww
    「蚊帳の外の皆さん」ってwwさすがにそれは略しちゃダメですよ略しちゃwww
    しかも今回ミクさんが不参加でしたね。めーちゃんはかろうじてキャプションで出ましたがw

    それでは、続きを楽しみにしております!(`・ω・´)ゞ

    2013/03/22 22:52:23

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      なん…だと…!!

      えーぞうきんのカイトが人を殺せるわけがないじゃないですかぁ―www
      因みになぜ自分でもミズキにしたのかわからんですwwただオリジナルの名前つけるぐらいならボカロ関係でつけようと思ったぐらいでwww
      わかい組員についての情報は本文に書いたこと以外一つもありません((

      卑怯?ありがとう、最高の褒め言葉だ☆

      だってみんな最後まで蚊帳の外だしwww
      ミク『……『Solid』!!』
      ぎゃああああああああああああああああああああああああ(((

      2013/03/22 22:58:09

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    「あ、そうそう」が、某ノーサイドさんを連想させて切ない……ww

    そして、卑怯過ぎる。www

    2013/03/22 19:03:18

オススメ作品

クリップボードにコピーしました