5.新しい名前、新しい生活
「トラボルタぁ、私の義足作ってくれよー。とびっきりいいやつ」
次の日から、シンデレラはリハビリを開始する。
それは、過酷極まるものだったが、彼女は辛い顔ひとつ見せず、いつでも笑顔のままだった。
その傍らには、いつもクミがいて、いつまでも離れることなく、その様子を見つめていた。
「なあ、トラボルタ。私たちって世間的には今、どうなってるの?」
リハビリのためのメニューをこなしながら、シンデレラは尋ねた。
「お前さんは、現在行方不明ってことになっておるの。
わしも忙しくて、そこまで気が回らんかったの。どれ、国の皆に知らせてやらんとな」
懸命にメニューをこなす、シンデレラを見ながら、トラボルタが答えた。
すると、少し喰い気味にシンデレラが話を始めた。
「いや……、そのままでいい。行方不明のままで」
「何を言っておるんじゃ。おぬしが戻って来たとなれば皆喜ぶぞ?」
突然の提案にトラボルタは面喰った様子である。
「いや、その方が何かと都合がいいんだ。この子を守るためにも……。
いっそ、死んだことにしてくれた方がいいくらいだ」
クミを狙っている者が、あきらめているはずはなく、その正体も依然として知れないまま。
少女を守るためには、このまま世間的に行方不明のまま放置しておいた方が
もっともいいだろうという判断だったが、あえてその真意までは、彼には伝えなかった。
「む……、まあ、お前が言うのなら仕方あるまい。しかし、これからどうするつもりじゃ?」
少し納得できないという顔で、トラボルタが聞いた。
「それは、もう決めてあるんだ。ねー、クミ」
シンデレラは、にやにやしながら嬉しそうに話をした。
「そうだ、私たち、死んだことになるんだし、新しい名前を考えないと」
なにやら物騒な話ではあるが、どこかわくわくした感じはなぜなんだろうか。
しばらく、悩んだ末
「そうだな、私はメイコって名前がいいな。それで、クミは……」
「ちょっ、お前のセンスでつけたら、この子の人生に関わる重要な……」
トラボルタが慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。シンデレラの口は止まらない。
「ミク! ミクがいい。私に未来をくれたから、ミク」
「なっ、クミを反対にしただけじゃないのか? お前。また適当に決めおって……」
「そんなことないって、いい名前だよな? どうだ?」
シンデレラ改めメイコとトラボルタは、同時に少女の方を見る。そして少女の返事を待つ。
少女は、コクリとうなずいて、返事をした。
「今日から、私たちの新しい生活が始まるんだ。なー、ミク!」
テーブルにもたれるように、メイコとトラボルタが座っている。
部屋の片隅では、小さな寝息をたてて、ミクが眠っている。
「あれから、色々あったのー。じゃが、あっという間じゃったな」
老人は、手にとった水をぐびりと飲み干してた。
「私たちも歳とったよね……」
老人の耳に、メイコの声が入ってきた。
「そうじゃな……、月日が経つのは早いもんじゃて。あの子も大きくなった……」
トラボルタは、じみじみとした様子で答えた。
「私たちも歳とったよね……」
再び、老人の耳に、メイコの声が入ってきた。
「そうじゃな……、月日が経つのは……、ん?」
先ほどから、同じ問答が続いていることに気付いた老人は、ふとメイコに目をやった。
「私たちも歳とったよね……」
その言葉を何度も繰り返し喋りながら、彼女は完全に意識を夢の世界へと旅立たせていた。
「なんじゃ……、もう寝てしまっとったんか。そうか、ひどい奴じゃ……、ひど……い」
そう言ったきり、トラボルタもテーブルに伏せたまま、眠りへと引き込まれていった。
ふわりといい香りが鼻をつき、メイコはゆっくりと眠りから覚めた。
ズキリッとこめかみに強烈な痛みが走る。
「あ~ぁ、完全に二日酔いだ……」
頭を押さえながら、ゆっくりと起き上がり、ふらふらといい香りに誘われてキッチンの方へ。
そこでは、ミクがなにやら料理を作っているようだ。
「ふぁ~、おはよー、ミク。何作ってんだい?」
あくびをしながら、メイコはキッチンに向かって料理しているミクに聞いてみた。
「お味噌汁……、頭、痛いんでしょ? これ飲んで……」
どうやら、メイコのために、小さな鍋で一人前の味噌汁を作っていたようだ。
「うぅ、ありがと、ミクは優しいねー。 つっ」
感謝の言葉を口にしたが、二日酔いは相変わらず彼女を苦しめていた。
「おーい、ミク。出発するぞぃ」
玄関の方から、元気な老人の声が聞こえてきた。
ゆっくりと、メイコは玄関の方へと向かう。その後ろから、ミクもゆっくりとついてきた。
「なあ、どこに出かけるんだよ? 何かあったっけ?」
トラボルタを玄関の所で見つけるなり、メイコは質問を投げかけた。
「なにを言っとるんじゃ? 今日はミクのギルド初仕事の日じゃろうが……」
あきれた様子で、トラボルタは彼女の質問に答えた。
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6.
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