今回はルカミク 百合注意><
黒いハコから続いています………長いorz
ラジオから流れる歌声に、私は思わず手を止めた。
『いや~素敵な歌声ですね~。いやね、私初めて聞いたんですよ。今話題のウタヒメって言うの?顔を公開せずに歌だけを歌うって歌手。珍しいですよね。しかもこの色っぽい声!私も今日からファンの仲間入りですね』
『そうですね~。はい、今のは巡音ルカさんの「貴女に」でした。続いて…』
めぐりねるか。ふぅん。
私は見ても仕方ないラジオの本体から目を反らし、窓の外をみた。見ても仕方ないけど。なんとなく遠くを見ていたかった。
「めぐりねるか……他にどんな歌があるのかな………」
今聞いた歌が耳から離れない。
あいたい貴女は いま どこにいるのかわからない
蒼い空がどこまでも広がっていた。私は短い制服のスカートを翻し、なんだか楽しい気分で学校へと向かっていた。校則違反になるから学校直前までイヤホンで音楽を聞きながら。昨日夜中までかかって落としたのだ。今は少しでも長く聞いていたい。
「あいたい貴女は~♪」
初めて聞いたこの曲は一番初めにダウンロードした。それに一番聞いているからすぐに覚えてしまった。これは、本当に不思議な歌だ。私の解釈でしかないけれど、知らない人だけど好きで嫌い。名前も知らない「あなた」を探しに行く。
ああ、そろそろ学校についてしまう。それがなんだか嫌だった。今までちゃんと休まず通って来たんだし、今日くらいはいっか。そんな軽い調子で、私は行き先を変えた。行く当てなど無かったけれど。
私の心は巡音ルカさんに囚われているままなので、別に行き先を決めようなどとは思わなかった。とにかく静かなところ。車のエンジン音など、雑音が歌を邪魔しないところなら、どこでも。
どこでもいいと思いながらも、結局私は来慣れた公園に来てしまった。静かで時間を潰しても何も思われない都合のよい場所。錆びたブランコに指を挟まないようにゆっくり確認しながら座り込む。
すきよ 伝わる?
直接いえたらいいのに
まるで穏やかな眠りにおちるように、私は歌に没頭していった。声をなぞるように。歌詞を心に刻むように。この声で囁かれてときめかない人はいないだろう。「あなた」は、どんなひとなんだろう。巡音ルカさんは。
昨日調べて分かったのは、最近デビューしたばかりなのだそう。これがデビューソングではないが、まだ数曲しか歌っていない。もっと歌って欲しい。こんなに一人の歌手を気に入るなんてこと珍しい。
どこかでチャイムが鳴った。
学校が始まったんだな、と思った。
「よし。なんだか天気もいいし、私も探してみようかな」
学校が始まってしまった以上、駅に先生が立っていることもないし、もし警察とかに呼び止められても適当に答えられる。今は自由だ。
繰り返される歌に勇気を貰いながら、私は歩き始めた。そろそろ此処は子供にあふれることだろう。子供は好きだけど、遊んであげる気分じゃない。
電車に乗ったのは久しぶりだ。学校まで徒歩ですぐだし、そういえば最近は遊びに遠出することも少ない。従妹(いとこ)が中学に入りたての頃は何処でも引っ張り回されたけれど。最近は落ち着いてきたなぁ、あの子。
そういえば_____
歩いているだけだと、なんだか色んなことを考える。今度から何か考えたいときは散歩に行くことにしようかな。すっきりするし。
適当な駅で電車に乗り、適当なところで降り、また適当に歩き出す。一人なのが気にならないくらい楽しくなってきた。私たち世代だと車のありがたみとかないけど、でも車って便利なんだなぁと思うことができた。
さて、そろそろお腹がすいた。どこかで調達しないと。コンビニで買ってもいいけど何処か入ろうかな?でも今月あまり使いたくないしなぁ。辺りを見回すようになって、ふと、変わった形の建物を見つけた。いや変わっているというか、可愛いというか。駐車場もやけに広いし。
「なんだろ、ここ………」
そこまで気にならないけど、なんとなく興味がわく。じぃっと見ていると中から綺麗な人が出てくるのが見えた。息が止まった。
なんて表現するんだろう。ミニスカにスリットのはいった黒地に金の刺繍のスカート、それと同じ形の…なんだろ?まぁえっと、肩とかへそとかありえないぐらい出して、きっと私とかが着るとコスプレみたいになっちゃうんだろうなっていう大人っぽい服を完璧着こなしている。ものすごく長い髪をサラサラと流しながら、まっすぐ前だけを見ている。その顔の整っていること。遠目でも緊張してしまうのに間近だと多分呼吸困難にでもなっちゃうんじゃないかな。
なんて思っていると、なぜか彼女は私の方へ歩いてきた。え、ええ!?
「ちょっと、遅いわよ」
「え?え??」
「待ってたわよ。早く行きましょ。時間もないし」
「え、ちょ、どこに?」
「ほら」
彼女の顔にどきどきしているうちに手を取られる。え、やばい。顔熱い!会話の意味も分からない。でも手を捕まれたことと彼女の言葉遣いにもドキドキしているうちに、なぜか私はあの建物の中にはいることになったのだ。
「おー、来たねぇ」
「ルカちゃんとは初めてだから緊張してるんじゃない?」
「まぁまぁ、リラックスしてねー」
中に入ると、色んな人が私を歓迎してくれた。でも、なに?間違って歓迎されていることを知っているのですごく罪悪感…でもこの人の手を振り払うのだけは嫌だ……。
「そういえば貴女、名前は?」
彼女が思いついたと言わんばかりに尋ねた。しかもぞんざいに。私は萎縮しっぱなしなので小さく名乗った。やっぱり彼女は「ふぅん。そう」と興味なさそうにしか答えなかった。
そのまま連れて行かれたのは、なんていうか変な部屋。広い部屋の隅っこをガラスで仕切ってあるし、難しそうな器具ばかりがひしめいている。ななななんだか間違いですってとっても言いにくいことになってきたぞ……
「じゃあとりあえずリラックス!適当にあわせてみようか」
「はい」
「はい?」
ガラスで区切られた部屋を指される。え、中に?彼女はとっとと入ってしまい、私まで入らないといけない気がして、後に続いた。
「覚えてきてるでしょ?ま、間違えないでよね」
「は、はぁ」
「……さっきからやる気ないわね。なめてんの?」
「い、いえ!頑張りたいです!」
なにをだ。
「あっそ。そういえば楽譜は?今なら持っててもいいのよ?」
「あ、その、それが…」
「忘れたの?いいわ、これ貸してあげる」
楽譜を渡された。色を塗ってあるのとないのとがある。きっと塗ってない方だろうと必死になってよんだ。とりあえずこれを覚えればいいんだ!
ガラスの壁の向こうでは、なにか話をしていた。数人かが驚いた顔をして、一人がどうしようか、なんて顔をしていた。声か聞こえないけれど。でもなんだか話は纏まったらしく、みんなバラバラに頷いていた。
「覚えた?というか当日になっても覚えてないのって論外よ」
「すみません………」
彼女は適当に怒っているきがした。きっと呆れているんだろうな。間違いできちゃった私じゃなくて、本当に此処にいる人だったらきっと、楽しく歌うことができたんだろう。
「此処。此処のはもり注意して。そうね。とりあえず音楽流してもらいましょうか」
「………お願いします……」
なんだろう………すごい静かな曲だった。ふと、こんな曲を巡音ルカさんに歌って欲しいなぁなんて思った。譜面だって綺麗な詩が連なっているし。
ん?違和感を感じた。
「~~~~、~って感じに、」
! あ、あれ、この声…
「此処。それに此処。いい?」
楽譜に彼女の白くて長い指が降りる。さっき少し歌っている声が巡音ルカさんに似ている気がした。でもまさかね。そんな都合のいい…
教えてくれたことは全然頭に入らなかった。でもどうしてこんなに細かく教えてくれるんだろう。此処は歌をとるとこだって分かった。彼女はプロなんだってことも。でもだからこそ、此処でレッスンなんてどういうことだろう。
「付き合わせて悪いけど、お願いね」
「はい。え?」
「なんでもないわ。ほら、とにかく歌うわよ」
「あ、はい。がんばります」
歌ってみた。
歌のイメージはつかめていたのに、なぜか彼女と同じ音だった。歌うところを間違えたらしい…あれ?でもこれ彼女の楽譜でしょ??
「………私が悪いのよね。貴女の音はこっち。色のついてるほうよ」
「すみません………」
「いいわ。貴女、のみこみはやいし」
「?」
彼女はそっけない。それに私のあずかり知らぬところを知っているようだし。でもそれを聞きたいと思う余裕はなかった。今は彼女と、歌を歌いたい。
今日を除けば大概まじめに学校に行ってまじめに勉強してきた私は、とりあえず楽譜を読むことができた。まぁ簡単なやつだったし。それに彼女の教え方が上手いのもあってすぐに歌えるようになった。
「~~~~~~♪」
「………いいわ、その調子」
「~~~♪」
褒められて嬉しいと感じたのは久しぶりだ。
しばらくして、彼女は「そろそろとりましょう」なんて言い出した。私はそれが嬉しくて、なんだか試験に合格したみたいな気分だった。
ガラスの向こうにいるひとになにか伝えて、BGMとして流れていた曲が止まり急に静かになる。彼女はイヤホンを装着。私も見習った。マイクに向かって歌えばいいのか。
「合図されたら、曲が流れるから。一応とるけど、取り直しできるから気を楽にしていいわよ」
「…はい」
合図が、見えた。
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