星のかなたからやってきて、怪獣を倒して活躍してくれる、頼もしいヒーロー、ウルトラマン。私たちを楽しませてくれるこのお話が、もし「現実」である世界があったら。そこでは、こんな親子の会話が交わされているかもしれませんね。
●どうして日本に怪獣が出るの?
「ねえ、カイトお父さん」
「どうした、レン坊」
「あのさ、ボク、いつも思うんだけど。このあいだも、神奈玉県に、怪獣が出たでしょ」
「ああ、出た出た。大きい、悪いヤツだったな」
「うん。でもさ、今度も、ウルトラマンが飛んで来てくれて、倒してくれたよね!」
「そうだったね。ウルトラマンは、いつも強いな。でも、それが、どうかしたのかい?」
カイトお父さんは、パソコンの画面から目を離して、居間の机の向こう側に座っている、息子のレン君の顔を見た。
レン君は、つづけた。
「あのさ。どうして、怪獣っていつも、ボクらのいる、日本にしか出ないの?」
「日本にしか?」
「うん。こないだも、学校で友達と話したんだ。怪獣が出るのは、ここ日本ばっかり。ぼくら、日本人って、何か損してるよね、って」
カイトお父さんは、パソコンの画面を閉じて、レン君の方を向いた。
「たしかにそうだね。で、レン坊はそれを、どう思う?」
レン君は、ちょっとほっぺたを膨らませて、怒ったように言う。
「ぼくたちの日本って、なんか悪いことしたのかな?それとも、呪われてるのかな?」
それを聞いて、カイトお父さんは、ははは、と笑った。
「呪われてる、なんて。そんなのはお前、“非科学的”っていうんだよ」
「ひかがく...?」
「まあいい。でもね、呪われてやしないさ。それに、日本は何も、悪いこともしていない」
●隕石が落ちたのが日本
レン君は、ちょっとムキになって聞いた。
「それじゃあ、どうしてここ日本にばっかり、怪獣が出るのさ。それにさ...」
「ん? どうした?」
「怪獣が出ると、いっつもあのカッコいい、ウルトラマンが来てくれるけど、でも、みんな『来て当然』って顔してるよ。まわりの外国でも、あまり騒いでいないみたいだし」
カイトお父さんは、おや、という目になっ、息子の顔を見た。
「うーん、お前はなかなか、冷静に世の中を観察しているんだな。大きくなったら、楽しみだぞ」
レン君は、かまわず続けた。
「それとさ、他にも不思議なんだけど、警察とか、全然、うごかないよね。軍隊とかも、出てこないし」
「日本には軍隊はないよ。衛自隊というのがあって、あと、カメリア国とも協力してる。でも、レン坊の言うとおり、怪獣が出た時は、衛自隊もカメリア国も、動かないね」
「でしょ。特捜隊というチームが、出動してはくれるけど」
するどい分析をするレン君に、ちょっと感心しながら、お父さんは答えた。
「レン坊は、この地球に、ウルトラマンが来てくれた時のことを、覚えているか?」
レン君は、目を輝かせて答えた。
「うん。もちろん。宇宙から、2つの隕石が降ってきて、地球にぶつかったんだよ。そのあと、はじめて怪獣の『ベムラー』が出てきて、おおさわぎになった」
「うん、うん」
「そしたら、ウルトラマンがあらわれて、『ベムラー』を退治してくれたんだよ」
「その通りだよ。その事があってから、なぜか定期的に、怪獣が出るようになったんだ。でもね、その隕石が落ちたのは、ここ日本だったんだ」
「うん、そうだけど...」
カイトお父さんは、息子の顔を見つめて続けた。
「それが日本に、続けて怪獣が現れる、理由なんだよ。つまり、怪獣はみんな、その隕石の中に、入っていたんだ。それが、衝突のショックで、日本にばらまかれてしまった」
「ええ、そうなの?」
「そうだ。政府の公式発表ではないけれど、世の中ではみんな、そう思ってるよ」
レン君は、話を聞いて、不思議そうな顔をした。
「でも、おかしいなあ。隕石の中に、あんなにたくさん、大きな怪獣が、つまっていられるかなあ」
「いやいや、なにもそのまま、何匹も隕石の中に入っていたんじゃないんだ。中に入っていたのは、その、つまり、怪獣になる“タマゴ”だったんだよ」
「タマゴ?」
「そう。ちょうど、カエルのタマゴみたいに。それが、地球、それも日本にバラ撒かれて、次々に孵化してくる」
「ふか?」
「タマゴから“かえる”ことだよ」
●1週間に1匹、怪獣が出てくるわけは?
レン君は目を丸くした。
「えー? じゃ、怪獣ってみんな、カエルなの?」
カイトお父さんは笑った。
「いや、それはただの例えだよ。ところでレン坊は、怪獣の大きさを知っているかい?」
「うん。それは、怪獣によってばらばらだけど、30メートルとか、50メートルとか。なかにはもっとどデカいのとか、ものすごく小さいのもいるよ」
「そうだね。でもだいたい、ぼくたちの町のビルを壊したり、そのくらいの大きさで、統一感があるだろう?」
「うん」
「それはね、みんな同じタマゴから生まれたからなんだよ」
「へえ、そうなのか。でもさ、それならみんな、同じ姿をしてるはずでしょ。カエルたちみたいに」
「ああ、それはね、孵化して育つ過程で、地球の生き物を食べた時に、その影響を受けるのだ、というのが、定説になっている」
なんとなく、納得がいかない様子のレン君だが、熱心に耳を傾けている。カイトお父さんは続けた。
「そして、タマゴの中身同士で、連絡を取るわけじゃないだろうけど、だいたい1週間くらいの間隔で、孵化して怪獣が現れるな」
「そういえば、ウルトラマンが退治してくれるのって、そのくらいの間隔だね、1週間に、1匹ずつくらい」
「そうだろ。突然、一度に10匹も20匹も、一度には出てこない。それは、餌の問題、共生の問題かもしれないけどね」
「共生?よくわからないけど」
「怪獣同士が、ともに、生き延びるためだよ」
「ふーん。じゃ、警察とか、国の偉い人は、怪獣が出るのは、予想しているの?」
「多分、ね。もちろん、完全には予想できないだろうけど。で、出てきたら、まず、特捜隊だ。そして無理だとなると、ウルトラマンにまかせるんだ」
レン君は、目を輝かせて言った
「特捜隊は、カッコいいなあ。ボク、大きくなったら、絶対に特捜隊に入るんだ」
「うん。それもいいだろうね」
●ウルトラマンのお仕事は!?
「でも、どうしてウルトラマンは、ボクたちを助けてくれるの?」
「うん。それはね、助ける、というより、駆除する、ということなんだろうね。怪獣を」
「くじょ?」
「そう。害虫を取り除く、駆除、なんだ」
「じゃ、ウルトラマンは、保健所の人なの?」
「いやいや、ウルトラマンは、宇宙のかなたの、ヒカリの星の人だよ。でもね、ホラ、地球、それも日本に、事故とはいえ、タマゴをばらまいてしまった。だから、取り除く仕事をしてるんだ」
レン君は、感心して言った。
「そうかあ。ウルトラマンって、すごく責任感が強いんだね」
「それもあるだろうけど、大人の約束というのも、あるかもしれないよ」
「どんな約束?」
「ヒカリの星と、日本の政府、またはもしかしたら国連とかとの、約束、つまり契約だね」
「......」
「つまり、“もし、地球に怪獣が出たら、きちっと退治します”という約束だよ」
「そっか。じゃ、ボクの学校の校長先生がいつもいう、『散らかしたら、片付けましょう』ってやつかな?」
「そうだ、そうだ。レン坊も、遊んだらちゃんと、後片付けをするんだぞ」
レン君は、にっこり笑って言った。
「そうかあ。ウルトラマンが約束を守って、怪獣を駆除してくれるから、日本は無事なんだな。さすがだな、ウルトラマン。でも...」
かれはふと、不安な表情になった。
「つぎつぎに、怪獣が出てくるけど、いつの日か、ウルトラマンより強いヤツが出てきちゃったら、どうなるんだろう。そして、もし、ウルトラマンでもかなわなかったら」
カイトお父さんは、ちょっと考えて言った。
「大丈夫。その時は、きっとヒカリの星から、ウルトラマンの上司の人が、来てくれるよ。それに、もしかしたら、本気を出せば、僕たち地球人だって、怪獣を倒せるかもしれないよ」
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