王はなんて物持ってるんだと言いたげに姫を見ます。姫はすぐに否定しました。
「な、なにそれ? 武器なんて一つも持ってない」
「いんや。あの時は持ってたぞ。高々と振り上げてたじゃないか」
姫は必死で記憶を手繰ります。
「高々と・・・振り上げる・・・」
ぶつぶつとつぶやいたあと、ようやくその言葉に当てはまる記憶を思い出しました。
「あぁ! もしかして薪割りじゃない? あの家に行く前に手伝ってたのよ。暇だったから」
「薪割り・・・・・・?」
鏡は言葉を失いました。そんなはずはないと言い返します。
「は、刃物も振り回してたじゃないか!」
「刃物・・・・・・。それならあれかしら。あの家でご飯を作ってたら虫が寄ってきてね。うっとうしかったから持ってた包丁で一発」
「そういえばナイフ類扱うの得意だったよね、姫は」
王は納得したように頷きますが、鏡は納得できません。
「じゃあ、なんであんなに殺気がこもってんだよ!」
「それ癖なのよね。気をつけてはいるんだけど、なんかこう、血が騒ぐというか」
姫は手の平を握ったり開いたりしながら言いました。
「物騒すぎるよ、姫。周りから見れば殺されるんじゃないかってぐらい、空気がピリピリするらしいんだ」
王がまたたしなめます。今度は姫も文句の言いようがありませんでした。
その会話を聞いていた女王は呆然と座り込んでしまいました。真実を自分で確かめもせず、勘違いしていた鏡を信じ込んでしまっていたのです。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
女王は絞り出すように言いました。
そのかすかな声を聞いた姫は女王に近寄り、しゃがんで言いました。
「別に良いわよ。元はといえばあの鏡が悪いのだし。それに、女王だって必死だったのはわかるわ。だって・・・・・・」
姫は女王にささやくように言いました。
「王に嫌われたくなかったんでしょ?」
ボフンッと音を立てて顔を真っ赤にする女王。ニヤニヤした顔の姫はさらに言い寄る。
「知ってるよ~? ”あの時”から女王はさらに強くなろうとしてたもんねぇ」
王と姫が来てしばらくが経ち、女王が王に好意を寄せ始めた頃、王がふと言いました。
『女王ってすごく強いね』
それに対して女王は頬を少し染めながらもつっけんどんに言い返しました。
『なんなの急に。もっとしおらしくしろってこと?』
『ううん。そのままがいいよ。僕は強くてかっこいい君が好きなんだ』
王は両手で頬杖しながら、幸せそうに笑って答えます。女王は真っ赤にした顔をうつむいて隠し、
『・・・そ、そう・・・』
と、返すのが精一杯でした。
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