ドンドンドン!ドンドンドン!

「うーん……」

その日、わたしは何かが激しく窓を叩く音で起こされた。

「な、な~に~……?」

『みっくみく!みっくみく!』

眠い目をこすりつつカーテンを開くと、はちゅねが必死の形相で窓を叩いていた。

「わ、どうしたの!?」

「みっくみ……みく?みくぅっ!」

眠気も吹き飛び窓を開くと、飛び込んで来たはちゅねは勢い余ってわたしの部屋を転がり回った。

「だ、大丈夫?」

「みくぅ……みくっ!みっくみく!」

「え?何があったの?」

このはちゅねはみっくみくとしか言えないが、わたしには言いたい事がわかる。困った事になったから、話の通じるわたしに助けを求めに来たらしい。
はちゅねはジェスチャーを交えながら、わたしに必死に訴えかけた。

「みっくみく!みく、みくみく、みっく、みっくみく!」

「ふむふむ……えぇっ!そうなの!?」

このはちゅねは野良ボカロでこの辺りの野良動物のボスになっていたんだけど、何でも急に現れた変な奴が彼女(?)の愛ネギを取り上げた上で戦いを挑み、その座を奪い取ってしまったらしい。

「卑怯な手を使うなんて……許せない!分かった、協力するよ!」

「みくみくー!」

そうと決まれば話は早い。わたしは急いで身支度を整えた。

「おはよう!そして行ってきます!」

「ちょ、ミクさん、朝ご飯は!?」

「ごめんハク姉後で食べるー!」

ちょっとだけ罪悪感を抱えながら私は家を後にした。
それにしても、なんでハク姉はいつもあんなに他人行儀なんだろう。一緒に住んでるのに、あれじゃ息苦しくないのかな……

「みく?」

「あ、ごめんちょっとぼーっとしてた。で、どっちなの?」

「みっく!」

「よし、分かった!」

肩に乗ったはちゅねに先導して貰いながら先に進むと、近所の空き地についた。

「ここは……」

はちゅねに聞くと、普段はちゅねが野良動物たちと集会を開いている場所らしい。
そして、その中心の木材の山の上には、怪しげな影が鎮座していた。

「あれは……たこルカ!?」

更に、そのたこルカは歴戦の戦士のような雰囲気を纏っていた。はちゅねのように野良化し、テリトリーを拡大してきた者、ということだろうか。
そして、たこルカの後ろにははちゅねの愛ネギが、「取り返してみろ」と言わんばかりに突き刺さっている。

「みく……みっく、みくみく、みく。みっくみくみく、みくみく」

「分かった……!」

作戦は決まった。はちゅねはたこルカの前に進み出る。

「みくみく……みくみくみくみくーみくみっくみくみっくみく……みくみくみくみくみくみく!!」

「るぅううぅぅぅかぁあああぁぁぁああああ……!」

両者の間に漂う険悪な空気。そして、ぶつかり合う火花がはじけて音を立てたかのように錯覚された時、戦いは始まった。 

「みくぅ!」

先に仕掛けたのははちゅねだ。木材の山より高く飛び上がり、全体重を乗せたドロップキックを繰り出す。

「るぅか!」

しかしたこルカもさるもの、どこから取り出したのか冷凍マグロを構え受け止めた……が、余りの威力に足下の木材の山が崩れ去る。

「うわっ」

もうもうと立ち込める砂煙の中で、尚も戦闘は激化していく。激しいラッシュで攻め立てるはちゅねに、たこルカは二本目のマグロを取り出して対抗する。

(でも、このままじゃ……)

一見はちゅねが押しているように見えるが、マグロの盾に阻まれ殆どダメージが通っていない。このままでは、はちゅねの体力が底を尽きてしまうだろう。

「……よし!」

わたしの出番だ。たこルカに気付かれないよう、身長に落ちているはちゅねのネギに近付く。

(もう少し……待ってて、はちゅね!)

そして、わたしの手がネギを掴んだ。

「やった!」

思わず歓声を上げてしまうわたし。その隙をたこルカは見逃してはくれなかった。

「るかぁ!」

「きゃあっ!」

「みく!」

たこルカの投擲したマグロが、わたしの前の地面を抉った。思わず転び、ネギを取り落とすわたし。
更にこちらに一瞬気をとられたはちゅねは、マグロの直撃を受け地面に叩きつけられてしまった。

「みぃ……くっ……」

「るかるかるかるか……」

倒れるはちゅねにとどめを刺そうと、不気味に笑いながらマグロを振りかぶるたこルカ。

(ここまでなの……!?)

次に眼前に広がる光景を想像し、わたしは思わず目を閉じてしまった。

「ミク!」「ミクさん!」

そのとき、空き地によく知った声が響いた。

「マスター!それにハク姉……どうしてここへ……」

「それは……きゃっ!」

「ハク姉!」

急にたこルカがハク姉に飛びかかった。
もがくハク姉にたこルカが絡みついてゆく。

「は、離してっ……あ、駄目っ、そこはっ……!!」

「ハ、ハク、今僕が助けっ……ぶぼはぁっ!!」

助けようと近づいたマスターは盛大に鼻血を吹き出して倒れた。こういう時くらい役に立って欲しい。

「みく……みくみく!」

死力を尽くし再び立ち上がったはちゅねが、わたしに呼びかける。

「分かった!受け取って!!」

「みくみく!」

再び掴んだネギを投げ、それをはちゅねが空中でキャッチした。

「みくぅみくみくぅー!!」

「る、るぅか!?」

地に降り立ったはちゅねはそのままの勢いでたこルカに切りかかった。
たこルカは慌ててマグロを構えるが、はちゅねのネギはやすやすとマグロを両断し、ハク姉の上からたこルカを吹き飛ばした。

「るぅ、か……」

そのまま壁に叩きつけられて、ついにたこルカは気絶する。

「やった……!」

「みく……!」

「ひ、酷い目にあった……」

ハク姉も息を荒げたまま立ち上がる。

「たこルカ~?って、こ、これは……」

すると今度は、女の人が空き地に姿を表した。

(巡音ルカさん……?)

目の前の光景を見てルカさんは一瞬驚いたけど、ボロボロのわたしとはちゅね、気絶したたこルカ、今も顔を赤くしているハク姉、鼻血を流して倒れているマスターの姿を見て何か理解したようだ。
たこルカを抱えるとペコペコと頭を下げ始めた。

「す、すみません、家のたこルカが迷惑をおかけしたようで……ああ、この方はまだ血を流されているようですが……」

「あ、大丈夫ですその人は別件ですから」

「みくみく」

「そ、そうなんですか……」

ルカさんはオロオロとマスターの顔を覗き込んでいたが、わたしの言葉でこちらを向いた。

「ほ、本当に申し訳ありません……今度必ずお詫びします!これ連絡先です!」

わたしに連絡先のかかれたメモをわたし、ルカさんは小走りで去っていった。

「巡音ルカ、か……」

そこで漸くマスターが起き上がった。

「気がついてたんですか?」

ハク姉の問いかけに、マスターは悔しそうな表情をする。

「ああ……しかし、惜しかったな……」

「何が?」

「いや、もう少しでスカートの中が見えそうだったんだけど……」

その瞬間、わたしとハク姉の気持ちが一つになった。

「「とんでいけぇぇえええぇぇぇぇえええええ!!!!」」

わたしとハク姉が完全に同じタイミングでアッパーを繰り出した。
マスターは綺麗な放物線を描き空を舞う。

「みっくぅー!!」

そして飛び上がったはちゅねが、マスターの上からネギを振り下ろした。

「ぐはっ……我が人生に……悔い、なし……ガクッ」

「……よし、ではミクさん、帰って朝ご飯食べましょうか」

「うん。わたしお腹減っちゃったよ……あ、はちゅねも来る?」

「みくぅー!!」

ピクピクと痙攣するマスターを残し、わたし達は家にむかったのだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

短編2~初音ミクは見た!空き地の決戦~

今度は初音ミク視点で短編を書いてみました。一応前の短編とつながっています。はちゅねとたこルカが人語を話していないのは仕様です。ネギやマグロは武器です異論は認めます←

ハクさん、酷い目にあわせてすまん……でも、たこルカGJ!!←

閲覧数:239

投稿日:2011/05/09 22:25:19

文字数:3,197文字

カテゴリ:小説

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  • ピーナッツ

    ピーナッツ

    ご意見・ご感想

    あはは、面白かったww

    あ、すみません、初めまして、ピーナッツと申します。

    面白かったです。文章達者ですね。
    ハクの弱々しさとマスターのカッコ悪さがグッドです。

    2011/09/11 02:23:22

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