5

 結局そのまま一人で帰ってしまい、部屋で一人私は悶々としていた。渡せなかったチョコレートが、机の上に転がっている。
「はぁ……」
 ため息をつきながら、今日のことを考える。あの初音ミクと名乗った少女。あの子が言っていたことが本当のこととは限らないのは、家に帰り落ち着いてから思い至った。あの時は頭が混乱していて全部本当だと思ってしまったが、カイトに想いを寄せる彼女が私の存在を聞きつけ釘を刺しに来たのだと考えれば筋が通る。というかそう考えたい。
 でも、本当だったら……?という疑念が私の心から離れない。本当に迷惑がられていたら、嫌われていたら、と、どんどん考えが悪い方へと転がっていく。
 長年一緒にいたカイトが揺らぐ。私の知っているカイトはそんなこと言うはずもないけど、でももしかしたらという疑念が拭えない。カイトが分からなくて、見えなくて、なんだか泣きそうになった。
 とりあえずチョコは、渡さないことに決めた。

 次の日。
(カイトを避けてしまった……)
 朝の待ち合わせより先に家を出た私は、出来るだけカイトに会わないように教室から出ないで一日を過ごしていた。が、
「お弁当忘れた……」
カバンを覗いてがっくりと肩を落とす。今朝の私はよほど動転していたらしく、お弁当をカバンに入れるのを忘れていた。
 仕方なく学食へ行くと、またお昼を買いに来たらしきリンに出会った。
「あ、メイコ先輩!」
 こちらに気づいて手をぶんぶんと振り回すリンに苦笑しながら私はそちらに向かう。
「もー、メイコ先輩、今日はどうしていらっしゃらなかったんですか!私、せっかく早起きしたのに……」
「え」
 思わず動きが止まる。リンはそれに気付かないかのように続けた。
「レンもびっくりしてましたよ?メイコ先輩とカイト先輩が一緒にいないなんて珍しいって」
「い、色々あって……」
「もしかしてカイト先輩にフラレでもしました?」
「!?」
 今度こそ絶句した。私のその様子を見て何かを悟ったらしいリンが、やっぱり、と頷く。
「……でもおかしいなぁ、カイト先輩もメイコ先輩のこと好きだと思ってたのに……」
 なんだかブツブツ言っている。
「でもそういうことなら付き合いますよ!やけ酒飲みましょ!」
「……ううん…………」
「ん?」
「少し違くて……」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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君の音楽 #5

次の日。

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投稿日:2013/09/17 02:46:32

文字数:969文字

カテゴリ:小説

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