カーテンの隙間から差し込んでくる光に、私は目を覚ました。
ツインベッドの部屋。テーブルを挟んだ反対のベッドには、見慣れない金髪が眠っていて、私は一瞬混乱する。

えぇと…あぁ、そうか、彼が部屋を取っていないと言うから、一緒に泊まることにしたんだっけ…

一人納得して、私は大きく伸びをすると、ベッドから起き上がった。




…昨日、あの場はなし崩しに解散になって、私はそのまま行きつけの宿屋に向かおうとしていた。
そこで何気なく、被害者である金髪の少年に、どこの宿に行くのかと尋ねると(どうせだから護衛しようかと思ったのだ。とろそうだったし)、彼はなんと「宿を取っていない」と言いだしたのだ。
時刻は既に夜半に差し掛かり、商業国家で旅人や傭兵が多いこの国ではこれから部屋を取れるはずはない。
仕方なく、私は彼を宿に連れ帰って、シングルで取っていた部屋を無理矢理ツインに変更してもらったのだった。




一通り身支度をすませてベッドに戻ると、少年…もとい、鏡音レンと名乗った彼はまだ眠っていた。
ベッドの頭の方には窓があって、これでもかとばかりに朝日が降り注いでいるのに…何で起きないんだろう。

「うーん、でも起こさないとなぁ…よし」

一つ、気合いを入れる。まずは平和に、肩を揺さぶって名前を呼んでみる。

「起きて、鏡音くん。鏡音レンくん。かーがーみーねーくーん」

…反応なし。ここまでは予想の範疇だ。
ということで、ここからが本番。私は耳栓を入れると、杖を取ってまずは部屋中に防音の結界を張り巡らせる。朝が弱いメイコを起こすために編み出した、これぞ必殺!最強の目覚まし。

可聴領域ギリギリの高音を殺人的な音量で鳴り響かせる、初音ミク特製「朝の暴力試作第4号」!




リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ




「うわぁぁぁぁ!!?」




私が掲げた杖から響く異常なまでの高音の暴力に、彼は当然飛び起きた。
その瞬間に私は音を止め、耳栓も引っこ抜いて、呆然と当たりを見回す彼ににっこりと微笑む。

「おはよ、鏡音くん」
「お、はようございます…ミクさん」

腹の底から絞り出したような声であいさつをして、鏡音くんはぺこりと頭を下げた。




所は移り、メイコの働くお店、「ヘブンス・ダンス」。
朝ご飯を食べに訪れると、お店は朝も早くから大勢の客でにぎわっていた。
昨日と違うのは、皆一様に眠そうな顔をしているところ。お陰で夜よりも店の中は静かだった。

適当なテーブルに座った私達に、メイコが明るい笑顔を浮かべて近づいてくる。

「おはよう、ミク、レンくん」
「おはよう!ねぇメイコ、鏡音くんてメイコと同じ起こし方しないと起きないんだよ?」
「…そ、そうなの…」

何とも言えない顔をして目を泳がせるメイコ。昔、私に散々な起こされ方をされてきたから、この話題自体がトラウマみたいだ(知ってたけど)。
鏡音くんがギョッとした顔でメイコを見上げる。

「メ、メイコさんもあの起こされ方を…?」
「メイコの方がひどかったよー。倍くらい鳴らさないと起きなかったもん」
「ちょ、ミク!」

慌てた様子でぱたぱたと手を振ったメイコは、鏡音くんに「昔の話だからね!?」とよく分からない言い訳をして、「お水持ってくるから」と去ってしまった。
分かりやすい様子に思わずにやにやと笑っていると、鏡音くんは複雑な表情で、

「僕もいっつも寝起きが悪いって言われてましたけど…上には上がいたんですね…」

なんて、しみじみと呟いていた。




「…とりあえず、今日は質屋に行かないとね」
「はい!…なくなってたらどうしよう…」

へにゃりと眉を下げる鏡音くんに、私は苦笑しながら断言してみせる。

「大丈夫!メイコも昨日言ってたけど、質屋って朝遅く開いて夜は早く閉まっちゃうの。特にこの国の質屋はね。だから、今から行けば開店と同時にお店に入れるよ」
「そうなんですか」

不思議そうに首を傾げる鏡音くん。…それにしても、彼はどうしてこんなに可憐な容姿をしているんだろう。中性的と言うか、線が細くて顔立ちも男っぽくないから、女装したらそのまま女に見えそうだ。世馴れていなさそうな純粋な雰囲気も、どこかのお嬢様みたいでちょっと危なっかしい。
だからカモにされるのかなぁ、なんてやるせないことを思いながら、私は「つまりね」と言葉を続ける。

「ここは商業国家で、たくさんのお金が流通される国なの。だから当然、商人だけじゃなくてごろつきだったり泥棒だったり、色んな人がこの国には流れ込んでくる。そうなると、銀行とか質屋とか宝石店とか、お金や価値の高いものを扱うお店は警備が厳しくなるし、お店自体も安全な時間しか営業しないんだよ」

深夜と早朝。町から人通りが絶える時間は、ほとんどのお店が店仕舞いしている。そうでないと危なすぎるからだ。
古来より、盗みや殺しは闇を狙えというのは、世の鉄則である。

「そういうものなんですか…だから、今から行けば大丈夫なんですね」

成程、なんて感心したように頷く彼は、真っ先にその手のものに狙われそうだった。




ちなみに、朝食の代金の支払いに鏡音くんが金貨を出した瞬間、メイコが高速でそれを銀貨と銅貨に両替し、今後はあまり堂々と金貨を出さないようにと説教を始めたのは言うまでもない。

…本当、彼はどこの御曹司なんだろうか…

疑問に思いながら、朝ご飯を終えた私と彼は、指輪を取り戻すべく質屋に向かうことにしたのだった。




<NEXT>

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】Guild!!! 1-2

閲覧数:233

投稿日:2012/06/05 00:44:33

文字数:2,391文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    ターンドッグの旦那!
    ちゃうねんw
    きっとボカロ、もしくはランクがすごい騎士とかだったら、可聴領域が人間とは違うんや!
    それに高音だし、モスキート音みたいなもんじゃないのか?

    ↑きゃらが定まってないwww


    さ、指輪の持つ意味とは!ww こうご期待!

    2012/06/07 21:04:49

    • とうの。

      とうの。

      >しるるさん

      高音過ぎてもはや超音波みたいな感じ、とか…?(今一つ定めてなかったww

      指輪の意味に関しては、意表をつけるような意味をつけているつもりですので、気長に待ってやってください^^

      2012/06/08 13:16:31

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    ミクさん、あなた何ということをwwwww
    可聴領域ギリギリを大音量とか言ったら鼓膜がはじけますよ!?
    ちゃんと130デシベル以下に抑えてあるでしょうな?(説教うるせえよwww

    レン君危ないなぁ…。いろいろな意味で美味そうな獲物…おっとよだれが(ry

    2012/06/05 19:20:54

    • とうの。

      とうの。

      >Turndog?ターンドッグ?さん

      感想ありがとうございました!

      ミクさんもそのあたりは考えてますよ!だいぶ前にメイコさんで散々実験して(ry
      レンくんはどんどんヘタレで可愛くて世間知らずなお坊ちゃんと化していきそうです…確かに美味しそうですな…w

      2012/06/06 11:06:06

オススメ作品

クリップボードにコピーしました