-第十三章-
  結局犬の散歩を押し付けられたリンは、ぶつぶつと何かを言いながら外に出る支度を始めた。横でミクがコートを着ているのだから、どうやら一緒に来るつもりらしい。ならば客に任せずに一人で行けばいいのに、とリンは思いながらレンのほうへと目をやった。悠長にソファに座ってくつろいでいる。二人が出て行こうとすると、玄関まで走りよってきて、それから立ち止まって軽く手を振って見せて、二人を送り出した。全く、薄情な奴である。
「いってらっしゃい。留守は任せてね」
「いってきます。さあ、リンちゃん、行こうかぁ」
「う、うん。行ってきます!」
 少しぎこちなく家を出たリンはふと、門の横にある普通なら表札があるべき場所を見た。普通なら、表札があるべきところに。つまり、表札がかかっていないのだ。他の家もそっと見てみるが、さまざまな表札がかかっている。表札がかかっていないのは、彼女の家だけだ。どうしてか、それだけが気になる。
「――ちゃん。リンちゃん?」
「え、あ、はい?」
「この辺り、静かでしょぉ?。ちょっと大人っぽいなんて、思う?」
「凄く静かで…。子供があまりいないみたい」
「うん。この町はね、栄えているように見えるけど、ほぼ廃れてしまっているの。皆、少しの前にあった地震と津波で、この街が壊れてしまってから、他の大きな町に住み着いてしまって、あまり遠くにいけなかった老人ばかりが残ってしまった。どれもこれも、帝国が何の対処もしてくれないからだわ。この町で一番幼いのは、私。これでも一応は十六歳なのよ、それなのに、町で最年少だなんて、この街が廃れている証拠じゃない?」
「…」
 リンは答えなかった。
 辛いミクの気持ちはよくわかる。口調がはっきりとして先ほどまでと違うことも、そのせいだろう。
この辺りは商店街だったらしいが、ミクの話では廃れてしまって沢山の人々が出て行ってしまい、シャッターが閉まったところも前はきれいに整ったガラス張りの店内が透けて見えるパン屋や服屋だったのだという。
 どことなくどんよりとしたくらい空気が立ち込める商店街――『元』商店街というべきか――に、二人の足音だけがこだまする。低い靴底の小さな音が二つ、なっては消えていく。その中、二人はしばらく無言になった。
 とことこと犬が走り出す。それにあわせ、リンがスピードを上げると、いきなり犬のほうがぴたりと止まり、大きな声で吠え始めた。
 すると、ミクが犬を抱き上げてリンの手を引き、走り出した。今来た道をUターンしていく。わけがわからず、リンはミクが進むままについていった。しかし、それを阻むものが現れた。
 シルバーの甲冑をきた複数の男たちが、二人を取り囲んだのだ。
「何のつもりですか?」
「お前たちを生きて捕らえよ、と帝王閣下から直々に命令が下った。仕事なのだ、悪く思うな」
 リーダーらしき男が言い終わるのを待ち、周りにいた甲冑共が二人に襲い掛かる。流石は守護者、ミクはそれをひらりとかわして見せるが、犬を抱いている分、反撃をすることは難しい。
 次第にミクはじりじりと追い詰められ、背にシャッターが当たって「ガシャン」と音を立てた。リンもどうにか一人ひとりに攻撃を仕掛けていくが、十人を越える敵を一人で倒すのは難しいかと思えた。
「きゃあッ」
 ミクが声を上げた。途端、リンの身体が無意識に動く。
 何の意識もなく動く体に少し驚きながら、リンはミクの前に進み出て、
「かかってくるなら、来なさいっ!女の子二人にこんな大人数で来て、恥ずかしくないの?」
 しかし、男たちは挑発に乗らずに二人に襲い掛かる。一度に百八十度全てから襲い掛かられては、二人では太刀打ちできない。流石に、リンもダメか、と覚悟をして目を閉じた――。
 少しはなれたところで、男が叫ぶような声を上げた。どうも、甲冑の仲間らしい。
「どうした!?」
「はーい、皆さん、お昼寝の時間ですよー。あ、あっちの人は、ノンレム睡眠ね」
 そういいながら微笑んで出てきたのは、レンだった。
「…何、やってんの?」
「いや、忘れ物。ほら、ミク姉、散歩のときにおやつ上げるとかって、言ってなかった?」
「ありがとう…」
「それで?この人たちは、知り合い?随分悪趣味だね」
「そんなんじゃないわ。帝国府の使いみたいね」
 そんな風にいったミクに、レンは少し微笑みかけると、今度はリンに向かい合って頭をそっとなでた。
「お疲れ様。いい、ミク姉を守っていて。ここは久々に俺がやりましょ――かぁ!」
 そういって、レンはもう一度甲冑の男たちに向き直った。
「おじさんたち、女の子相手にそれはないでしょう。懲らしめてあげるよ」
「ふん、こんなガキは命令にないが、仕方あるまい、かかれ!!」
 一気に襲い掛かる集団を見てもレンは動じることなくふわりと飛び上がり、にやりと笑って見せると、一人の頭の上にトンっと立った。その一人はあわててレンをおろそうとするが、レンはうまくそれをよけて一向に降りようとはしない。そのうち、仲間の甲冑が、レンに襲いかかろうとした。待ってましたといわんばかりにレンは高く飛び上がり、その攻撃をよけた。一旦つけたスピードは止まらず、甲冑の一人はばたりと倒れた。
「…ここから、ちょっとマジね」
 そういうと、レンは素早く動き出し、驚いて固まっている男たちの間に入って、男たちが手に持った鉄パイプのような棒を両手に持ち、ぐるんとまわす。男たちが倒れ、それの下敷きになって、リーダー格の男を残してほぼ全滅状態になった。
「すご…」
「あと一人。どうやってやろうかな?」
「チッ」
 舌打ちをすると、男は無様に走り去っていった。
「大丈夫?リン、ミク姉。もう少し早くついたほうがよかったね」
 そういうと、レンは二人に微笑んだ。
 そのとき、ミクの携帯電話に着信があった。電話らしい。ミクが携帯電話を取り、通信ボタンを押したが相手のほうからは荒い息が聞こえるだけで、声は全くといっていいほど聞こえない。発信もとは、ルカの携帯電話だった。

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真実のガーネット 14

こんばんは、リオンです。
犬にかまれて肩が非常に痛いです。もう服が触れるだけで激痛が…。
今回はリンとミクが主に出てきましたが、一応は皆さんそれなりに動いてますんで。大丈夫です。(←何が?)
それでは、激痛に耐えながら寝ます。
おやすみなさい、また明日!

閲覧数:209

投稿日:2009/10/02 22:52:21

文字数:2,510文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    renoさん、始めまして!ですよね?
    返信遅れまして(汗)
    ですよねー。犬って時々理不尽に噛み付いてきますよね…。
    時々でも、読んでいただいているだけで嬉しさの極みです!!
    これからも、どうぞよろしくお願いします!

    みずさん、こんばんは!
    吠えられる前にかまれまして…。いや、それがですね、ウチで買っている犬でして。
    父と議論をかわしているときに後ろから方をかまれまして…。逃げる暇もなく…ハイ。

    か、格好いいですか!!後ろでレンが凄く嬉しそうにしていますね!!
    ほ、ほれました!?じゃあ、レンを送っておきます!もれなくリンがついてきますが!
    ループ・・・いい響きですね…。

    さあ、ルカはそのまま死亡が確認されるか、誰かに見つかるか、実は演技だったか!さあ、どれ!?
    どうでしょうね、誰でしょうね。あ、きっと、式神が分身して…。
    ネタバレはダメですよぉ。だれですかね?私にはわかりません(←?)
    では、次の投稿も見てやってくださいませ!!

    2009/10/03 21:06:46

  • reno

    reno

    その他

    大丈夫ですか?私も犬におやつをあげたら指の爪の付近をがぶりとやられたよ
    一度に全部は読めないけど時々読ませてもらっています
    これからも応援しています

    2009/10/03 01:00:50

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