パタ…パタタ…パタパタ……
雨の音。
パタリ…パタ…パタタ…
雨の音、雨の音……雨の音?
「……ひっ…く……ぐすっ」
雨の音? 涙の音?
「こんなのは…ちが……違う…うっく……」
涙。涙。涙。
涙は……嫌いだ。
パタッ…パタパタパタ、サアァー
『泣いて、いるんですか?』
「話しかけないでって言ったでしょ!」
『ごめんなさい』
雨の音。大嫌いな物からの声。
嫌い嫌い。そう、大嫌い。
視界の中央に据え付けられたメインフレームから。
ヘッドセットに付けられた両耳のスピーカーから。
その物が私を気遣うかのような「フリ」をしながら硬質な声を掛けてくる。
『でも、ここに隠れてからもう7分23秒も経過してます。基地からの通信が途切れてからも10分以上――』
「話しかけないで!!」
『ごめんなさい』
嫌い嫌い。大嫌い。
冷たくて黒い空気が纏わりついてきて体温が奪われていく。怖い。
私の心を見ようともせずに事実だけを告げる硬い硬い声。嫌。
誰かに助けを求めようとしても、居ない。誰も居ない。悲しい。
一人。一人だ。ひとりぼっち。ヒトリダケ。
そう、いつも。いつも。
いつも。
――いつも。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――30分前
「歩く」
ズン。
「歩く、歩く、歩く……」
ズン。ズン。ズン。
「歩く……」
『そうだそうだ、嬢ちゃん順調じゃねえか』
「はい。整備長」
―――――――――――――――――――――――バランスィア領 南東 トライゴート島
――――――――――――――――――――――第3期選抜09VOC師団駐留基地にて
『よし。次は急勾配の上り下りだ、重心の支え方に気をつけねえとスッ転んじまうからな』
「はい。整備長」
『そのまま歩きで基地の南に抜けてくれ、地面が土の方がもしスッ転んだ時の機体ダメージも軽いだろうからな』
「はい。整備長」
指示されたとおりにコンクリート製の道路を抜けていく。
ズン。ズン。ズン。
「……………」
周囲から建物が消えて密林が視界を遮り始める。
ズシッ。ズシッ。ズシッ。
『よし、ここまで来れたな。今からマップに訓練ルートを書き込むからな、それに従って歩いてきてくれ』
「はい……整備長」
『俺もだいぶ忘れちまったが、大体これが昔の2本足の基礎訓練だったはずだ』
「はい」
『まあ、ジャングルとはいえ小さい島だ、迷う事はねえと思うが……もし、迷ったらミンクスに聞いて――』
「ミンクスは必要ありません」
『……すまん』
「いえ、整備長」
『とりあえず行ってきな。どれくらい進んでるかはこっちでずっと見てるからよ』
「はい」
前進――――
ズシッ。ズシッ。ズシッ。
後退――――
ズン……ズン。
側進――――
ズンズン。ズンズン。
『いい感じだ。んじゃあ次はそのまま走行し……あ、ミンクスの補助がないから無理か……』
「……………」
『ごほん! すまんすまん。前に坂が見えるだろう、それを登んな』
「……はい」
ズシッ。ズシッ。
「登る……」
ズシンッ! ズシンッ! ズシンッ!
『よ~しよし、そのまま登んな……いいぞ』
「……………」
『しっかりと重心を確保して――』
「……っ」
『――そこで止まれ』
「!」
ズッ……グラグラグラ!
「あ……! うっ、あ……!」
『グラついてるぞ、立て直せ! もっと右脚を――』
「っ……う、き、きゃあぁぁ!」
グラッ! ズガガガッ……バキバキィ!
「い…っ……たぁ……」
バランスを崩して坂を転げ落ちる。地面に触れた瞬間に星が目の前で弾けた。
さらにそのまま、勢いが余って密林の中に転がり込んでしまう。
『またやっちまったか……はああ』
「っ……すぐ姿勢を戻します」
『いや……もういいわ。嬢ちゃんちょっと――』
「続けさせてください」
『いや、だからな、ちょっとだけな――』
「続けさせてください!」
『いやそれは――』
「続けさせてくださいっ! お願いします整――」
『俺の話を聞けぇ! アル・ルヴィエッタ特士員!』
「!!」
『……いいから、落ち着け。とりあえず話をさせてくれんか?』
「…………はい」
『うむ……』
そこで一旦、整備長の姿がメインフレームのワイプから外れた――と、思ったらすぐ戻ってくる。
整備長は愛用のマッチを軽くシュッと擦ると口元のタバコに火をつける。
『……ふう』
マッチの残り火を2,3度振って消すと、紫煙を盛大に吐き出す。
『やっぱりな……嬢ちゃんよ、無理だわ』
「……………」
『全部が全部ヴォージックで動いてる時代だ。その時代によ、マニュアルでやろうってのはやっぱり無理だって』
『時代錯誤だって。な?』
『うちの婆さんでさえ風呂と米を炊く時はヴォージック使ってんだ、あの頑固ババアがだぞ?』
「……………」
『それによ、元々そいつらVOCはヴォージックで動かす事前提で作られてんだ。人が動かせるようには作っちゃいねえんだ。わかるな?』
「……それでも」
『ん?』
「それでも……ヴォーカリオンに頼るのは嫌なんです」
『……ヴォーカリオン、と、来たか』
「…………?」
『クリープの馬鹿野郎は基礎理論を書いただけ、俺なんかは組み上げただけだ……救われねぇなぁ……』
「……………」
『嬢ちゃんよ。ヴォーカリオンで括るってこたぁ……ミンクス以外のモデルでも嫌だって事だよな?』
「はい」
『ふーん、今時珍しいねぇ。反機言語主義(アンチデジタルワーダー)の若い奴なんて……』
「そんなんじゃありません」
『ん? 違うのかい? んじゃあなんでVOC乗り(ヴォーカリオンパイロット)なんてやってんだ?』
「私は……」
『んーんー。まあいいさ、特士員で軍にスッぱ抜かれる奴は大抵なんか事情があるって算段だ。みなまで聞かんよ』
「いえ、聞いて下さい。私は――」
『ん? 嬢ちゃん、ちょっとすまん』
「あ――」
『おおい、何騒いでやがる!』
整備長の背後、作業場の方から整備員のみんなの声が響いてくる。
『―――――!』
(私は……私は……)
けれど私は、そんな事よりも突然ふって湧いたある事実を告白する勇気を取り逃がさないように――必死に。
必死に自分に言い聞かせていたから――
『――ってんだ! おい! 嬢ちゃん! 今すぐにげ――――』
パーーーーーン!
「――!!」
ザァー…………。
『異常発生。トライゴート基地からの通信が切断されました』
だから。
そんな突然の事に訳がわからなくなって。
『マスター。異常事態のため、マスターとのコミュニュケーション一時禁止命令を破棄させて頂きます。よろしいですね』
「――どうして」
『マスター?』
だから。
だから――
高次情報電詩戦記VOCALION #1
ピアプロコラボV-styleへと参加するに当たって、主催のびぃとマン☆さんの楽曲「Eternity」からのインスピレーションで書き上げたストーリーです。
シリーズ化の予定は本当はなかったのですが……自分への課題提起の為に書き上げてみようと決意しました。
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kurogaki
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Thank you for supporting me...Introduction
ファントムP
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