あの日、この場所で、私はあの人に出会ったんだ。
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昼休み、私はそっと階段を降りる。
旧校舎の一階に、その部屋はある。私は静かに廊下を歩き、その部屋の扉をゆっくり開けた。その瞬間、インクと紙の匂いが私を包む。
そう、ここは図書室。数多の本が集う場所。
この学校の図書室は、他の教室の十倍ぐらいの面積があり、本の量も莫大に多い。他の生徒は、つまらないという理由で、あまりここを訪れない。
私からすれば、ここは二番目に静かで落ち着ける場所だ。一番落ち着くのは、あの空き教室。
確かに、ここの図書室はつまらないかもしれない。でも、探せば面白い本はたくさん見つかる。他の生徒は探すのがめんどくさいらしい。わからなくもないが、その探す時間もまた楽しいと思えるから、私は珍しい人間なんだろう。
確かに、これだけ本があるのだから、探すにはかなりの時間が必要となる。だが私は、探している本を棚さえ特定できれば残り一分で見つけることができる。
だから、よくここを訪れる。
辞典がある棚の近くに行く。そこは辞典があるので誰も近寄るはずがないけど、実は大きめの机と椅子がある。棚に隠れて見えないし、一番隅っこだからあまり知らない人が多いけど。
その一番奥の右側、窓際の椅子にそっと腰をかける。この椅子には、いろいろとお世話になったものだ。
この図書室はとても落ち着ける。それなりにいい思い出がある。そして、ここで彼と会った。
*
「これにて式は以上です。解散」
とても長くてつまらなかった学園長の話。ただでさえ長くて疲れるのに、こういう特別な日(たとえば今日の入学式)とかだとさらに長くなるよね。
学校のトップなら要点をまとめてさっさと話を終わらせてほしい。しかも、三十分間ずっと立ちっぱなし。そのせいで足が凄く痛い。明日は筋肉痛かな。
つい先程、その長ったらしい学園長の話が終わり、式も解散となった。あとは自由時間らしいので、校内を歩くことにした。道とかどこに何があるのかとか、全然分からないんだけどね。
かといって校内探検するのもアレなので、本が読める図書室へ行くことにした。そう、道とかどこにあるのかとか、全然わからないからね。
凄いなあ。適当に歩いてたら着いたよ、図書室。なんか、うん。この学校、広いっていうことがね、よくわかった。だいたい、旧校舎と新校舎というカテゴリ分けがある以上、狭いわけがなかったよね。
意外に軽い扉を開けると、そこには誰もいなかった。っていうか、高校の図書室って、こんなに広いものなの……? 噂には聞いていたけれど、こんなに広いなんて思わなかった。
私がこの高校に入学した理由は主に三つ。
一つ目は、自分の学力に合った高校が、地元でもレベルが高いといわれるこの高校だったから。そのせいか、中学の頃の友達とは離れ、今は一切会えなくなった。
二つ目は、この高校には不思議な噂があるということ。世間でいう七不思議があるとかないとか。ロマンがいっぱいでワクワクする。
三つ目は、無駄に広い図書室があるということ。そして、どんな本でもあるという噂。私は読書が好きなので、そこに興味を引かれた。
とりあえず『物語』のコーナーに足を運ぶ。私が読みたい本はけっこうたくさんある。全部見つかるかな。
数分後。
すごい。私が探していた本が全部見つかった。この図書室は、いったいどれだけ品揃えがいいのだろう?
誕生日の日も仕事の少女の話。
歌を仕事にする少女が、歌を嫌う話。
ある話をネタにメールをする少女達の話。
ある日の夜、帽子を深く被った子供が起こしたある事件の話。
神をテーマに扱った話。
孤独な少女がある少年に出会って変わっていく話。
演技がうまい少女達の、ある遊びの話。
いなくなった少女の声を聞きたいと願う、ある少年の話。
消えた不良品の結末の話。
ある画材店で、ある少女がある少年に出会う話。
桜にまつわる、ある噂を物語にした話。
これらの話を書いた本が、全てここにあった。すごい。私はこの学校の図書委員を尊敬する。っていうか尊敬したい。します。
意見箱が設置されていたら賞賛のアンケートを大量に詰め込みたいくらい感動している。いやそれは迷惑か。
さて、この大量の本どうしようか。今読んじゃおうかな、ここで。大丈夫、私は本気を出せば一ページを二秒で読むことができる。本気を出せば、ね。普段は面倒くさいだけなので、適当なことを言っているわけではない、そう決して。
たくさんの本を机に運ぶ。辞典の棚近くの机。一番奥の右側、窓際の椅子に座る。よし、読むぞ。
*
皆から冷たい視線で見られる。なにか言ってるけど、何も聞こえないんだ。冷たい表情をした皆の声も、手を差し伸べる貴方の声も。
私には、音というものが聞こえない。だから、きっと私は皆に嫌われている。
貴方は何かを言っているけど、何も聞こえないの。きっと、私をばかにしているんだよね?私が何も聞こえないのを、いいことにして。
誰か助けてよ。私の、孤独という音の無いセカイから。
嫌なの。何も聞こえないの。貴方の声も、私の声も。一人は、寂しいよ?
私の命はもうすぐ尽きるよ。どうして貴方は、涙を流しているの?
――あなたは誰?
貴方は必死に何かを言っている。何も、聞こえないよ。何を言ってるの?
――私に良く似た少女。あなたは誰?
もしも願いが叶うならば……貴方の声を、もう一度聞いてみたいよ。
――その少女に向かって必死に何かを言っている少年。あなたは誰?
――あなた達は、いったい誰なの?
*
そして、目が覚めた。いつのまにか、眠っていたみたいだ。
それにしても、さっきの夢。物心ついたときから、ずっと見ている夢。その夢の少女は私によく似ているが、私ではない。それに、この夢のみ、音や声といったものが聞こえない。無音の夢なのだ。
あと、この夢に出てくる少年。この人のことも、私は知らない。この夢は、私に何を教えようとしているのだろう?
もう夕方なんだろうかと思い時計を見ると、まだ午後三時だった。まだここに来て一時間しか経っていないのだ。
だったらまだ本読んでていいよね! そう思って立ち上がろうとした。
立ちあがろうとしたときに、ふと視界の端に映った何か。あれ、こんなものあったっけと思ってその何かに視線を向ける。
そこには、机に伏せて眠っている、誰かがいた。
男性には珍しい紫の長めの髪がキレイだ。制服を着ていないかわりに、何故か白衣を着用していた。そして眼鏡。その体勢だと眼鏡が割れそうなんだけど。でも一番の問題点は、なぜ教師(制服を着ていないからおそらくそう)がこんなところで眠っているか、だ。
あれ、何この状況。なんでこんなことになってるの? 私が寝ている間にどうしてこうなってるのよ?
起こしたほうがいいのかな? 起こしたほうがいいよね。いや、でもなあ……あ、読んだ本を返してからにしようかな。うん、そうしよう。
そんなこんなで、全ての本を本棚に戻したとき。
「ん……」
「え?」
あれ? もしかして……起こしちゃった?
「んー……?」
「え?」
その人が顔を上げ、こちらを見た瞬間。
「……」
「……」
その瞬間、この図書室に沈黙が訪れた。一分ぐらい続いたであろう沈黙を破ったのは、彼のほうだった。
「……君は?」
「え? ……あ、ハイ。今年入学した者なんですけど……」
「そうか。俺がここに入ったとき、君が寝てたから俺も眠くなったよ」
「そうです、か」
なんだろう、このぎこちない雰囲気(いや、ぎこちないのは私のほうだけど)。
「この図書室いいよな、あまり人がこないからゆっくりできるし……って一年にはわからないか」
「あ、どうりで静かなんですか」
「そうだよ」
何ですか? この図書室、嫌われているんですか? こんなにも品揃えが神がかっているのに?
とりあえず、これが私と彼の出会いだった。
*
思えば、全てはあの時から始まっていたんだ。でも当時の私は、この後起こることなんて、予想していなかった。
十月のあの出来事も。そして、辛い出来事も。
今、私は幸せだ。でも、いつかは不幸が訪れる。そう、二年後の高校三年生の春に起こる、あの事故。それが、私を闇に突き落とす。
今の私は、そんなことは全然知らなかった。だから、今だけでも幸せでいたい。
【がくルカ】memory【5】
2012/03/11 投稿
「読書」
少し改稿しました。
途中のルカが探している話について少し。
あの中の一つはリレー、残りは2012/03/11以前にピアプロにアップした自分のオリジナルの話です。
※「私の初恋と~」はシリーズ「memory」に数えます。
※「音を失った少女に」の話は「memory」に繋がっています。
ルカの夢の中の話とか、前世とか。
設定では後者。
前:memory4 https://piapro.jp/t/M5py
次:memory6 https://piapro.jp/t/KOri
コメント1
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ご意見・ご感想
雪りんご*イン率低下
ご意見・ご感想
「memory」新作キタ━━(゜∀゜)━━ッ
ウチも読書大好きだからその図書館いきたい。そして全冊制h(((無理だな、お前は
そしてルカと一緒に図書委員を尊敬すr(((黙
大体ウチわかるよ!
誕生日の日も仕事の少女の話。 ⇒「みんなと出会えて」?
歌を仕事にする少女が、歌を嫌う話。 ⇒「歌うことなんて」
ある話をネタにメールをする少女達の話。 ⇒「メールとAppendとExtend!」?
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でも1個わかんない…
2012/03/11 17:10:43
ゆるりー
遅れてごめええええええええn((
自分もいくから、おやつは350円以内で買ってくr←
一緒に全冊制覇すr(((
自分も尊敬s((
おぉ、答えてくれてありがとうございます!w
大体合っているんですが…orz
「Halloween Night」→「trick or treat一一?」とセット、片方だけでも○
あと、上から古い順に並べてあるんです。
自分の書き方が悪かったので申し訳ないんですけど、「この声が届くまで」ではなく「キミの声をもう一度」ですorz
「この声(ry」は音を失った少女…「キミの声が無いセカイ」のがっくん視点なんですorz
非リアの(ryは、コラボに投稿した「ツンな桃色と暖気ナ紫。」です。ツンルカに失敗したやつですw
メッセ&読んで頂き、ありがとうございます!
2012/03/11 18:23:55