オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボ(2人)でお互いのマスターのお話を書けることになりました!
コラボ相手は、カッコいい素敵なお姉さんの生みの親、つんばるさんです!
上記の通り、私とつんばるさんのオリジナルキャラ(マスター)が登場します……というか、マスター(♂)×マスター(♀)です。
そして、ところによりカイメイ風味ですので、苦手な方は注意してください。
おk! という方は……。
(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)
*****
思っていたより、あっさりその言葉を口にできてしまった。
沈黙は、短い間だったのかもしれない。が、俺にとってはとてつもなく長い時間のようだった。
「1回しか言わない? ――二言はありませんね」
その沈黙の後に、聞こえてきたのは、恐ろしいほど冷えきった、鋭い声。
「それなら、その言葉通り、実践してください」
ぞわりと。
悪寒が走って。
どうしてだろう。脆いながらもなんとか機能していた、記憶の蓋がぶち破られる音が、聞こえた気がした。
―Grasp―
悠編 第九話
呆然とする。
その表現がこれほど合う状況も、そうそうないと思う。
とにかく、俺はその声に、言葉に、ただ呆然としていた。
「あ、アキラ……?」
「もう二度と、私に対してそんなこと言わないでくださいという意味です」
考えるより先に、体が動いた。
席から立ち上がった俺を、アキラは冷静に見返してくる。
もう二度とそんな事を言うな?
それはどういう意味だ、いやそんな事は最初からわかっている。
間違いなくイエスではない、かといってノーでもない。
俺の言葉と、その答えそのものへの、拒絶。
「アキラ、そういうことじゃ……」
好きだ、という3文字が、アキラの中、触れてはいけない何かに触れたのは、なんとなくだがわかった。
「自分の言葉には責任をもってくださいね」
あの一言で、不快に思わせてしまったのだろう。
「俺は本気でッ」
俺はただ、その本気の一片だけでも、アキラに伝わってくれればと思っただけなんだ。
「言わないって言いましたよね!」
告げたことでお前を傷付けたなら、悪かったから。謝るから。
だから……せめて答えを。
お前にまで、あの暗がりに突き落とされたら……俺がお前を拒んでしまうような事になったら、今度こそ俺は、戻って来れなくなりそうで。
「聞けよ!」
「聞けません!」
考えとは裏腹に、叫びを吐き出していた。
即座に言い返されて……ふと、アキラの険しい目が、逸らされた。
「忘れ物を取りに来ただけです。これからスタジオに行くんです。失礼します!」
言うや否や、アキラは走って店を飛び出していった。
「アキラ!」
名を呼んでも、返事が返ってくるはずもなく。
俺は、そこに立ち尽くす事しかできなかった。
店を出ていったアキラの背中が、記憶の中の、中学校の廊下を逃げていくあいつの背中と重なる。
わかってる、わかってるんだ。
アキラはあいつじゃない、あんな風に、隠れて人の存在を否定するような奴じゃない。
認めろ白瀬悠。お前はフラレたそれだけの事だ、あの時みたいに叩き潰されてなんかいないだろうなのにお前は何をそんなに恐れている!
「……白瀬くん」
聞こえた声に、びくりと体が過剰に反応する。
名前を呼ばれただけでこれか……笑えてくる。
「マスター……すみません、俺、ちょっと……」
「うん。……またいつでもおいで。お代はその時でいいから」
来たばかりだというのに去ろうとする俺にも、マスターは優しい声音でそうとだけ言ってくれた。
一杯だけでも飲んだのだから、代金を払わずに店を出るのは気が引けるのだが……。
「本当にすみません。ありがとうございます」
ここで彼の言葉に甘えてしまったあたり、俺は相当参っていたのだろうか。
……ああ嫌だ。こんな表面だけの薄っぺらい笑顔なんて、嫌いなのに。
マスターの前で無理に笑っても、見透かされているだろうに。
その笑顔の仮面を外せないまま、次は美憂あたりの人間と一緒に来ますとだけ言って、俺は店を出た。
帰る途中、夜の空気の冷たさも、あまり感じなかった。
頭の中を駆け巡る思いが、他の全てを掻き消しているような……そんな感覚さえあった。
それは、家に帰り着いて、シャワーを浴びて布団に入ってからも同じで。
事情を聞いたVOCALOIDの面々が、俺をそっとしておいてくれたのが、ありがたかった。
『もう二度と、私に対してそんなこと言わないでくださいという意味です』
『言わないって言いましたよね!』
アキラの声を思い出すたびに、胸がずくりと痛む。
10年前でも、一度はフラレたとあっさり認める事ができたのに……さっき見たばかりのあの目が頭をよぎって、邪魔をする。
冷たくて、険しい目だった。
だがそれと同時に、何かを恐れているような、逃げようとしているような、そんな気もした。
あの時は冷静だと思えたが……果たして本当に彼女は冷静だったのかと、思ってしまう。
気のせいだったのかもしれない。
それでも、その"気のせい"があるから、俺の諦めが悪くなっているのは確かだ。
「なんでだよ……!」
俺は、ノーと言われたって構わなかった。
そりゃ、平気ではなかっただろうが、その事実を受け入れて、潔く身を引く覚悟はあったつもりだ。
なのに……どうして、答えてくれなかったのだろう。
突き放されるのは恐ろしい。だがそれ以上に、俺の言葉を否定されるのが恐ろしい。
やはりただの妄言なのだと。寝言を言うなと。
そう思われているのではないかという選択肢が浮かんでくるのが、怖くて仕方ない。
「……ダメだ」
アキラの事を考えるたびに、暗い重い考えしか浮かんでこない。
こんな状態で、また何度も会うのかと考えると……耐えられない。
編曲も歌詞も、完成に近付いてきている。あとはアキラに聴いてもらって、彼女の意見をもとに微調整、のつもりだった。
「ここまで来たなら……いいよな」
データだけ送って、任せてしまおう。
こちらはこちらで調声を進めておけばいい。時間はかかるが、曲を完成させる事はできる。
そう思って、布団を抜け出して練習部屋へ向かう。
……本当にいいのか?
ここでデータを送ってしまったら、もう2人で作業どころか、言葉を交わせなくなるかもしれない。
それでもやるのか?
逃げないと決めたのに、結局また逃げるのか?
そんな声が脳内で木霊する。
部屋の明かりをつけて、PCを立ち上げようとした手が思わず止まって……。
「……え」
気が付いた。
ない。
パソコンデスク、その下に置いてあるかごに入れてあったはずのUSBが、ない。
辺りを探してみたが、どこにも見当たらない。
コラボの曲のデータが、全てあれに入っていたのに……。
これでは、逃げる逃げないどころではないじゃないか。
「くそっ……!」
思わず悪態をついた、その時。
神経が尖っていたからだろうか、玄関からの小さな音を、耳が拾った。
反射的に時計に視線を飛ばすと……午前2時をとうに回っている。
こんな時間に誰かと思って部屋を出ると、見慣れたツインテールが揺れた。
「ミク……! お前、なんでこんな時間に……」
叱ろうとした俺の声は、喉の奥に飲み込まれて消えていった。
「マスター……!」
涙でぐしゃぐしゃになった顔が見えた、一瞬後には、ミクが俺にしがみついていた。
彼女の肩は小刻みに震えていて、抱きしめるべきか迷った末に、そうしてやる。
この寒い中を歩いていたのだろうか、小柄な体は、冷えきっていた。
【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第九話 【悠編】
実は前からこっそりそういう事を考えていたんですが、なんとコラボで書ける事になってしまった。
コラボ相手の方とそのオリキャラさんが素敵すぎて、緊張しております……!
わっふー! どうも、桜宮です。
悠さん、混乱中、の巻。
自分の言葉が届かずに、否定されるのが怖くて仕方ないようです、悠さん。
前回の終わりから、今回のこの暗さ……落差がすごいですが、それだけのことなのだと感じてくだされば幸いです。
前回に引き続き、バーの設定は+KKさんのraison d'etre ep.7,5からお借りしました~。
今度何かお礼の品を持って行かねばならない気がします。
+㏍さん、本当にありがとうございました!
アキラ編では、とうとうあの子がアクションを起こしたようです。そちらもぜひ!
東雲晶さんの生みの親で、アキラ編を担当しているつんばるさんのページはこちらです。
⇒http://piapro.jp/thmbal
今回、すごくお世話になってしまいました、+KKさんのページはこちら!
⇒http://piapro.jp/slow_story
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