紙魚子さんの話を聞いたりりィさんは、首をかしげて腕を組んだ。
「ふぅん、不思議な、面白い噂ね。でも、仕事で一緒に組むと、必ずヒットするなんて…」
彼女はちょっと身を乗り出して、ニコッとした。
「クリエイターの人なら、ちょっと興味が沸く話ですね」
紙魚子さんは、ちょっと驚いたように目を見開いた。
「あら、りりィさんまで、そんなこと。それはキケンな考えですヨー」
そういわれて、りりィさんは苦笑いした。
「ええ、もちろん。でもそんな噂が生まれるなんて。変な話だけど、とにかく変わった会社ね」
紙魚子さんはうなずいて、カウンターの上の人形の、曲がった背を伸ばして、立ててあげた。
「ものを作ってる方なら、気になりますよね」
りりィさんも、うなずいた。
「でも、その月光企画というところ。“はっちゅーね”とか、“テト・ドール”に目をつけるって。ちょっと不気味ですね」
2人は顔を見合わせて、うなずいた。
●リンちゃんが帰ってくる
その頃、りりィさんの店を出たレンくんは、自分の家に着いた。
「あれ?」
玄関の戸を開けると、入口にクツが揃えてある。リンちゃんのクツだ。
「あ、リン!? 帰ってるのかな」
彼は、階段を上がって、自分の部屋の隣にある、リンちゃんの部屋に向かった。
部屋のドアを、コンコンと叩いて言う。
「リン、いるの?」
しばらくの沈黙のあと、中から小さな声で、「ウン、いるよ」というリンちゃんの声がした。
「帰ったの? 入っていい?」
また、「ウン」という声。レンくんは、ドアを開けた。
机の横の椅子に、膝を抱えて座ったまま、リンちゃんが上目遣いでこちらを見ていた。
ちょっと決まりが悪そうな顔つきだ。
●どうしたの!?
「リン!どうしたの。なんかあったの?」
思わず彼は尋ねた。今までどこに行ってたのか、訪ねようとして、ふと口をつぐんだ。
こわばっていた、リンちゃんの顔つきが、少しづつ和らいでいく。
青白かったほおに、赤みが戻ってくる。
「うん。ゴメンね」
かぼそい声で、でも笑顔になって、彼女は答えた。
心配したんだぞ、と言いかけて、レンくんはやめた。今は、いろいろ追及しても、ダメだろう。
「おまえ、お腹すいてないの? 具合悪くないかい」
やさしく聞いた兄に、リンちゃんはきつく膝を抱えていた腕をほどいて、椅子に普通に座った。
ちょっとやつれているように見えたが、具合は悪くなさそうだった。
「うん。大丈夫。やっと、帰ってきたよ」( ゜ー゜)/
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