※No.1二人生活の始まり を読んでないと分かりづらい内容になっています。

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 緑ツインテールの女性が俺の家に突然転がり込むという事件が起きてから十五分。俺はまだ状況を呑み込めないまま、自分の家にいた。
 彼女はというと、家の中を物珍しそうにあちこち見まわしている。
 俺は改めて彼女をまじまじと見た。灰色の襟付きベストらしき服に緑のネクタイ。短い黒のスカートは緑で淵を飾られており、末広がりのアームカバーと絶対ラインを生み出すハイソックスは黒一色。ツインテールは膝下まで伸び、頭には黒の両耳インカム、肩には01という赤い刺青。日焼跡の無い艶(つや)やかな肌に、澄んだ緑の大きな瞳。淡いピンクの唇に、化粧のいらないほど綺麗な頬。この女性がロボットとはとても思えない。
「どうかしたのですか?」
 俺に視線に気づいたのか彼女は家に上がって以降初めて口を開いた。改めて聞くと、その声は非常に魅力的で、若い生き生きとしたそれの中に、底知れぬ美しさが秘められている。
「いや、家がそんなに珍しいのかと思って」
「はい、とても珍しいです! 知らないものがたっくさんあります!」
 彼女は答えてまた家の中を見渡し始める。普通の人から見て珍しいと言えば非常に横長な譜面台や様々な楽器の音を出す機械程度で、他に人目を引くようなものを置いた記憶は無い。と、これまた呑み込めない状況が俺を包む。
「そもそも名前を聞いてないんだけど」
「あっすいませんマスター。教授に教えられていたのに忘れていました。私、初音ミクと言います。初日出の初と音で初音です。ミクはカタカナだそうです」
 どうやら彼女の名前は初音ミクというらしい。聞いたことの無い苗字ではあるがロボットらしい名前では無い。そもそも果たして彼女は本当にロボットなのだろうか。俺はその疑問をぶつけてみることにした。
「初音さんがロボットだと聞いたんだけど、本当にロボットなのか?」
「はい、教授からはそう聞いています。あっ、でも充電などは必要ありませんし、水に落ちても壊れたりはしません。定期的に研究所へ健康診断に行けば問題ありません。あとミクと呼び捨てにしてくれてかまいませんマスター」
 電気代は食わないらしい。それに健康診断とくれば、ますます人間らしく感じてくる。だが、本人が言うのだから嘘ではないのだろう。
「教授って誰だ? それに俺のことをマスターって呼ぶな。俺の名は高島隼人だ」
 続けざまに疑問をぶつける。謎が多すぎてついていけないのが正直なところであるが、聞かずにはいられないのもまた然りである。
「教授は私を作った人です。それとそのえっと、私はなんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「普通に名前で呼んでくれて構わないよ」
「分かりました隼人様」
「違う違う違う!」
 俺が不意に声を荒げると、彼女は慌てふためき、困ったような表情でこちらを見つめ、それから恐る恐るなのかゆっくりと口を開いた。
「あの何かお気に召しませんでしたか……?」
「いや、違うんだ。俺がミクを呼び捨てにしていいっていうのと同じように、ミクも俺のことを隼人って呼び捨てにしていいってこと。あと、ミクは別に俺のメイドじゃないだろ? だからそんなに俺にペコペコしなくていいよ。あと敬語もなし」
 穏やかな声でそう言うと、彼女は表情を明るくした。俺は安心して台所に向かった。昼食どころか朝食も食べていないのでいい加減お腹が減ってきていて、早く何かを食べたい。今回の賞で十万ほどはお金が入るのかと思ったが、どうやらこのミクという子以外には賞品が無いらしい。仕方なく金欠脱出を諦めて袋のインスタントラーメンを鍋でゆでる。
「あのではえっと隼人と呼べばよろしいのでしょうか?」
「ほら敬語」
「あっはいマス……隼人ですね、すいません。あっではなくて、えっと、ごめん……なさい?」
 戸惑いながらもなんとか直そうとする彼女の努力を嬉しく思いながら、俺はインスタントラーメンを鍋から出し、付属の味を加え、箸を用意してちゃぶ台に運ぶ。
「あと本当に遠慮しなくていいからな? お互い同じ立場だと思ってくれていいから。だから何かほしいものとかあったら気にせずに言ってくれよ」
「あのえっと本当にいいの?」
「もちろん!」
 まだ気にしているらしい。初対面の人なのだから仕方が無い。これからゆっくりと他人行儀が抜けていくのだろう。ロボットとはいえ自分に妹が出来たような気がして微笑ましく思いながら、俺は箸を手に持とうとした。そして気付く。ミクの麺に向けられた視線を。
「昼食? 私の分は?」
「え?」
「ないの? じゃあこれ私がもらうから」
 理解が追いつかないまま、彼女はどんぶりを自分の元へ引き寄せ、箸を持ち、麺をすすり出す。そしてちょっと驚いてから嬉しそうに言う。
「あっおいしい!」
 それは本当に偽りのない無邪気な笑顔で、俺のロボットに対するイメージと彼女の性格に対するイメージ、その両方が崩れていく。そして麺はまたすすられる。
 どうやら可愛くて礼儀正しさもある素晴らしい妹を持ったというのは、夢だったようだ。加えて食費がかかるらしい。それにこの様子だと、布団やら他の服やらも要求されるのだろう。
 この日を境に、俺の一層財布とにらめ合う生活が始まったのである。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

 No.2昼食【ボカファ】

 こんにちは^^
 ヘルです
 夏休みということで随分と早い投稿になりました。

 ここまではNo.1 との連続ですが、今後は短編気味になると思います。
 まだどうなるかは分かりませんw

 読んでくれた方は、短くでもいいので感想くださいまし!


 読者の皆様にワルキューレが微笑むことを

閲覧数:179

投稿日:2012/08/21 19:39:36

文字数:2,220文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    あぁ!やっぱり食べた!
    絶対、食べると思ってたwww

    むしろ、ガソリンだとか、電気で十分ですって言われたら、画期的すぎてミクらしくないwww

    いやwしかし、ミクちゃんってかわいいよね~ww
    ロボットだけど、きっとほっぺぷにぷにだよね~ww

    2012/08/28 19:35:19

    • ヘルケロ

      ヘルケロ

      >しるるさん
      なにΣ(゜Д゜;)
      食べるのを予測されていただと!?

      うんうんw
      ガソリンとかミクっぽくないよねww

      ほっぺは安定のぷにぷにですお!

      2012/08/30 09:34:10

  • kumoia

    kumoia

    ご意見・ご感想

    ロボットって、ご飯食べるの?などと純粋に疑問になってしまいました。
    ロボットのイメージ崩壊!!!!
    そして、純粋におもしろい!
    こういう作品ができたらなぁ、なんて。
    夢のまた夢ですが><

    2012/08/22 17:38:31

    • ヘルケロ

      ヘルケロ

      実は一番悩みましたw

      人間っぽいロボットとか、やたら完成度高いロボットとか、なんかこのまま追求したらマフィアにでも狙われるようなシリアス展開になりそうで^^;
      ということで、最後で無理やりぶった切ってたりwww

      またまた読んでくれてありっと!

      次回作もお楽しみに(ぇ

      2012/08/22 21:44:50

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