人間の世界での時間軸で数えての七年前。
私はまだ真実を知らず、自分の事は能力の低い魔の使いだと思っていた。
低能すぎて魔界から追放され、人間界にやってきたのだ。
魔界の上層部は、私が少だけれど魔法を使えるので、地上の人間にバレてしまう事を恐れて、巡音家の娘、ルカとして私を人間界に送り込んだのだ。
そしてその隣家の一人娘、初音ミクに出会う事になる。
私自身、彼女の見せる明るい笑顔と人格に惹かれていき、彼女もまた、私の何に惹かれるのかも分からないけれど一緒にいてくれた。
じきに、私は魔界での生活を忘れ、ミクと戯れるようになった。
しばらくし、一年ほどたったある日の事。
仮の家で暮らしていた私だが、仮の父親である者が転勤するため、私もそれについていくことになった。
ミクと離れるのは少しばかり――いや、とてもさみしいように感じた。
転勤した先で、図書館へ行っていたところ、ある本を見つけた。分厚い背表紙のハードカバー。
それを手に取った瞬間、私は本当の事を知った。本からまるでなにかささやかれたように、その事が脳内を巡る。
私は魔の使いなどではなく、悪魔と堕天使の血が混じる、異色の生き物だということを。
その事実を知ってから六年後。
再びこの地に戻ってきた。
「クオ君ってさ、中二病の子とかってどう思う?」
「え?」
初音さんが突拍子もないことをいきなり聞いてきたので、びっくりした。
初音さんは『いきなり』が多いと思う。いきなり変な事を聞いてきたり、いきなり絵を教えてとか言ってきたり、いきなりその…えっと……好きかも、とか言われたり。
「なんで?」
「私の友達、重度の中二病でね? 明日からこの学校に編入してくるんだけど、あの子友達が私くらいしかいなくて……だから、えっと、その…今みたいに、放課後私とクオ君がこうやってたら、その子、私としゃべりに来るかもしれないなって思って」
初音さんは誰とでも仲良くできるから、たぶんこれは本当なんだろうなと思った。僕とも仲良くしてくれてるし、リンさんとも仲良くしてるし。
「それで?」
「…クオ君は、それでもいい? 迷惑じゃない?」
「大丈夫だけど」
「ほんとに? 私がその子としゃべってても、いい?」
「うん」
うなずくと、初音さんは嬉しそうに笑った。
「あ、でも僕の事もたまには構ってね?」
「うんっ。えへへ~」
「どんな子?」
たいして興味もないけど、聞いてみた。
「すっごくきれいな子だよっ! 人間じゃないくらいきれい!」
まあ、そんなにきれいって言っても、初音さんほど可愛くはないんだろうな。
朝は憂鬱。
特に今日は、とても憂鬱。
朝の目玉焼きを失敗してしまい、黄身がぐちゃぐちゃになってしまった。おかげで、固まっていない黄身に穴をあけて、液体の黄身に白身をつけて食べるという、私のお気に入りの食べ方ができなくなってしまった。
とても、憂鬱。
早くミクに会いたい。
早く、早く。
寝坊してしまった。
昨日は夜遅くまでぼうっとしていて、かなり遅くに寝ちゃったのが原因だと思うんだけど…
起きたのが八時半。ちょうど、朝のホームルームが始まる時間だ。
どれだけ急いでも間に合わないという事は分かるし、学校も家からそう遠くない。一時間目が終わってから、こっそり教室に入る事にした。目立たないように。ノートは初音さんに見せてもらえばいい。
軽めの朝ごはんを済ませ、母が用意してくれていた弁当箱を持ち、家を出た。
この道をずっとまっすぐ歩くと学校に着く。僕があの高校を選んだのは近いからという理由が主で、他には校則がゆるめなところだったと思う。よく覚えていない。
あと一つ横断歩道を渡れば学校、というところで、ポストに寄り掛かるピンクの塊を発見した。
塊というか、ピンク色の髪が腰まで届くほど長く、しかもしゃがんでいるために、塊に見えた。うちの制服を着ていて、そこにだけどんよりとした空気が流れているように思う。…大丈夫かな?
「あの、大丈夫ですか?」
「…………」
「あの?」
聞こえてないのかと思って、失礼かなとも思ったけど背中をつついてみた。
「…なんだ?」
「ここで何してるんですか?」
するとピンクさん(仮)は不敵に微笑んだ。ような気がした。
「…ふっ…お主には関係ない」
「遅刻ですよ?」
「分かっている」
「…僕、1年3組の初音ミクオっていいます」
「奇遇だな。私も1年だ」
「そうなんですか!」
先輩かと思った。身長も高いし、大人っぽいし。
「だからその敬語をやめたらどうだ」
初めて会った人に敬語を使うなと言われても……しかも僕、タメ口苦手だし。
「あ、はあ…あの、立ったら?」
「私の人としての名前は巡音ルカだ」
話が通じない。
「真の名は、ヴァレーゼ・メグ。どうぞメグと呼んでくれ」
あ、分かった。初音さんが言ってた子って、この人だ。
「巡音さんでいい?」
敬語はやめろといわれたから頑張ってタメで話してみてるけど、なんだかおかしい口調になってしまう。
「ダメだ」
「どうしても?」
「『ルカ』ならいい」
……面倒くさい人だなあ。
「ルカさん、立って」
「それが、立てないのだ。腰が抜けてしまった」
やっと話が通じたと思いきや、おかしなことを言いだした。
「なんで?」
「それがな…少しばかり学校に行くのが怖くなってきてしまってな。不安になると些細なことでも驚いてしまうだろう? さっきチャイムが鳴ったのに驚いてしまった」
「…とりあえず、立ってください。その体勢だと、下着見えるよ?」
「ふっ、心配はいらない。なぜなら私は、常々タイツを着用しているからな。見えてしまうような失態は犯さない。万一見えたとしても、私のそれを見た事により、一生変態呼ばわりされる呪いがかかるであろう。ヴァレーゼの者に不快にさせるようなことをした者は、何かしら報いがくるようになっているのだ」
しょぼい呪いだなって思ったけど口には出さない。ルカさんは、この呪いが人生で一番効くって思ってるんだろうから。
ポストに寄り掛かりながら、ゆっくり立ち上がるルカさん。リンさんよりスカートが短い。というかもうあれアウトじゃないか? 言葉通り、白タイツを履いてるから見えないんだろうけど、目のやり場に困る。
実際、リンさんのほうがルカさんより短いんだろうけど、ルカさんのほうが身長が高くてスタイルがいいので、ルカさんのほうが短く見える。
というか、まだルカさんの顔を見てない。
「お前のおかげでなんとかなるかと思う。助かった」
「はあ」
「じゃあ」
普通に先に行かれた。
……むなしい。
というかあんなに明るそうな中二病の人を初めて見た。
振り返ってくれないかなあとか思ってちょっと待ってみたけど、全然そんな気配はなく、もう一限目が終わりそうだったので、少し早足で校内に入った。
あまり目立たずに入る事が出来てホッとする。
女子たちと話していた初音さんが、僕に気付いて手を振ってくれた。振りかえす。
初音さんはあの中でも際立って可愛く見える。随分と垢抜けたグループだけど、初音さんだけは清楚な感じが残ってる気がする。うん、初音さんは可愛い。
すると初音さんと話していた一人が、
「ミクさぁ、最近よく初音ミクオといるよね」
とかなんとか。
フルネームで呼び捨てですか。まあいいけど。初音さん以外にクオ君って呼ばれたらイラッとくるし。呼ばれたことはないけど、たぶん嫌だと思う。
たとえば鏡音とかにクオ君って呼ばれたら背筋が凍る。リンさんはまだしも、鏡音(弟)にああ呼ばれるのは…どうしよう、想像するだけで吐き気がしてきた。トイレ行ってこようかな。
「うん、まあ放課後はだいたいクオ君といるよ」
「なんで~? うちら部活だから一緒には帰れないけど、なんか一緒に帰ってるっぽいじゃん?」
「うん。一緒に帰ってるよ」
「えー? なんであんなのと一緒にいるのよぉ?」
やっぱりこう思われてたんだ。
僕と初音さんが釣り合わないっていうのは分かるしそもそも付き合ってすらいないし、オタクで陰気で根暗な僕と一緒にいる事で初音さんが嫌われたらどうしようって、ずっと心配してはいたんだ。
でも、初音さんと過ごす時間が楽しすぎて。だから、僕はその事を日に日に忘れてた。
「文化祭の前くらいから仲良かった感じだよね」
「うん」
「私、ミクはレンとくっつくのかと思ってたけどぉ。まさかあいつだとは思わなかったぁ」
「ええっ!? べっ、別にクオ君とはそんなんじゃなくてっ」
「ミク、顔赤ーい」
「あ、赤くないもんっ」
赤いです。茹でたトマトみたいに真っ赤。
誰だって僕との関係がそんな風に思われてたなんて知ったら、そりゃあ顔色くらい変わるだろう。赤くなったり青くなったり紫になったり。初音さんに対して申し訳なくなった。僕が一緒にいるせいだ。
「じゃあレン?」
「なんでレンなのっ!」
「仲良いじゃん」
「よくないしっ、それにレン好きな人いるしっ」
「ミクの事?」
「私じゃない人だってば~」
「誰な
「ミクちゃんーーっ!」
ガラガラバン!とものすごい大きな音がして、リンさんが前と同じようにいきなり入ってきた。教室にいた全員がリンさんの方に振り返る。
あの時、僕は鏡音に好きな人は教えてもらわなくていいとかなんとか話をしたけれど、今頃になって気になってきたから、聞けると思ったのに…
「おっ、ミクオもいるじゃん! ま、今はミクオなんてどーでもいいけどっ」
傷付いた。
「なんかめっさきれいな子がが授業途中に入ってきてっ、初音ミクはどこだとか、」
「ルカだー!」
「え? ヴァレーゼ・メグって言ってたよ?」
……ルカさんだ…。
「それでねミクちゃん、」
「うるさいんだけどぉ」
さっき初音さんと話していた子が、しんとした中で一人つぶやいた。
あ、しんとしたってのは違うのかな。みんなリンさんか初音さんを見てる。リンさんが初音さんにわめいてたから、静かじゃないし。
「もうすぐ授業始まるしぃ、さっさと出てってくれない? 邪魔なの」
「え…あ、ごめんね。じゃ」
やけに消極的なリンさん。さっきと同じ人とは思えないくらい、小さい声でぼそぼそしゃべった。初音さん相手だとものすごく明るく話すのに、他の人と話すのだと、かなり大人しくなる。廊下などですれ違いざまにリンさんを見かけると、伏し目がちにして小声で話している事が度々あった。ほとんど一人でいたけど。
「まったく、理由もなくミクに近づかないでほしいよねぇ」
「あんたみたいなブスとミクになんの接点があるんだっての」
…リンさんのほうがあの子たちより数百倍可愛いとは思うけどなあ。性格も。好きな事に異常なくらい没頭するところとか、普段はあんまり見せないけど楽しそうに笑うところとか、絶対にリンさんのほうが可愛いと思う。
リンさんの魅力について語ってるけど、僕がリンさんを初音さんと同じように好きなわけじゃないから、そこは勘違いしないでほしい。友達として、好き。初音さんのほうが可愛いと思うし…。
「とゆかあいつ、初音ミクオとも知り合いなんだね」
「付き合ってたりしてぇ」
「お似合いじゃん?」
「うるさいっ! 黙れ!」
いきなり声を荒げたのは鏡音だった。
「人の姉勝手に悪く言ってんじゃねえよっ! せめて俺のいないところで言えっ! お前らリンの事ブスとか言ってるけどな、あいつは」
「席に着け~」
入ってきた先生が、あまりの静けさに目を白黒させ、みんな気まずそうに目をそらしているのに驚き、控えめな声で言った。
「授業…始めるけどいいか?」
「……」
みんな無言で席に着く。
鏡音の方を見ると、ひとりむすっとした顔で黒板をにらんでいた。
昼休み。
いつも通り孤独な時間を過ごしていると、初音さんが構ってくれた。構うというか、謝りに来た。
「ごめんね、クオ君」
「何が?」
「二時間目の前の休み時間の時。いろいろ言われてたでしょ? レンも失礼なこと言ったしね。代表して、謝りに来た」
「ああ、いつもの事だし。気にしないし大丈夫」
ちょっとは傷ついたけどね。
「でね、リンちゃんの事なんだけど」
やっぱりそれか。
「あの…えっと、レンって友達たくさんいるけど、家に来た友達はいなくて…リンちゃんがいるから。実はクオ君と話しにきたの、みんなリンちゃんの悪口ばっかり言うから居づらくなって逃げてきちゃった」
「リンさんって、そんなに嫌われてるの?」
「うん」
即答。
「人見知りっていうのもあるんだけど、一回仲良くなった人としか話さなくって…高校、私しか知ってる人いなかったみたい」
思ったよりリンさんって、ピュアなんだなぁ。
「初音さんは迷惑じゃないの?」
「迷惑じゃないし、むしろ嬉しいよ。楽しい。リンちゃんの事好きだし。リンちゃんに私以上の親しい人ができて、私と話してくれなくなったらどうしようって思っちゃうくらい」
友達がああいっててもリンちゃんのことは好きだから、と悲しそうに笑った。
僕は友達といっても初音さんとリンさんくらいしかいないから、そういうのはなんだかうらやましかった。
「でもね、ルカが来たから、私もリンちゃんの事そんなにかまえなくなるかもしれないでしょ? ルカも人付き合い悪くて、私べったりだから…。それでリンちゃんが不登校とかなったら嫌だし。クオ君、よかったらリンちゃんと仲良くしてあげてね? リンちゃんキツいけど、クオ君のこと気に入ってるぽいし、ね」
「…うん」
「ありがとう」
「なんで初音さんがお礼言うの」
「私のわがまま、許してくれたから」
わがままって、自分のためだけかと思ってたけど、初音さんは他人の事にわがままを言っているのがかっこいいなって思った。その時は、かわいいじゃなくてかっこいいなって。何度目か忘れたけど、また初音さんを尊敬した。
【クオミク注意】ヒーローになる方法の後の妄想3
今回も字数が多かった…w
ルカ様を登場させてみました。。
ルカ様が変態なのも気にしないでください。私の趣味ですわ←w
自慢になりますけどw、「リンちゃんなう!」、カラオケで全国87/12000位くらいになりました!www
アニメイト行ったら「Tell Your World」のMV流れてて見入っちゃいました…ミクさん美しすぎるっ!
前のページで続きです。
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おむおむ
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紅華116@たまに活動。
ご意見・ご感想
お久しぶり^^
ルカさんのキャラがwwwww吹いたわwwwwwww
つかミクさん、女子に人気だよねww
ミクの友達は性格悪い!!リンの悪口言うとかマジ殺すぞ←
レンの爆弾発言ww
次回も楽しみにしとるよ^^
2012/04/02 13:27:39
絢那@受験ですのであんまいない
久しぶり?!
ミクさんは天使だからね!(真顔)
どうしてもビッチっぽかったりギャルっぽい子ってそんな性格かな?って思っちゃうんだよねww
がんばって書くぞ!w
2012/04/07 12:27:09