ドドドンッッ!
あたしは。
覚悟していたと、思うよ。うん。
だから。
「――――!!」
目の前に迫ってきたミンクスをあたしごと。
爆発させてやろうと思っていたんだけど。
「――敵はっ!?」
レーダーをすぐに確認する。
これで全部なくなってしまうんだと、思って撃った主砲だけど、全然あさっての方向に飛んでいっちゃって。
外した?
そんなはずはない、射線は反動があったとしても誤差範囲で固定されている。
主砲着弾の爆風を利用して、マインをばら撒けるだけばら撒いて粉々にしてやろうと思ってたのに。
ドンッッ!
「なにっ!?」
爆発とか衝突音とかいうものじゃなくて、もっと物理的な音がした。
「え……?」
斧だった。
斧の刃の部分があたしのずっと左の方向の地面に突き刺さってた。
ドシャアァ!
しばらくしてグレー色で暗い感じのミンクスが体勢を崩されたような感じで、地面に降りてくる。
「うっわ……すごっ」
その右手に持ってるただの棒。
……先っぽがすっぱりとなくなっちゃってる。
グレーミンクスは上空を見上げた。
「あ……! そうだっアル姉! だいじょう――」
メインフレームの右の真ん中、アル姉が表示されたワイプを見たら――
真っ青でギラギラでパチパチしてて――!?
「アル姉!? どうしたのっ応答して!?」
呼びかけながらアル姉に対応している通信音声のボリュームをあげると。
『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!』
『イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!!』
―――――
なに。
これは。
―――――
『失くしたくない失くしたくない失くしたくない失くしたくない失くしたくない失くしたくない失くしたくない!!!』
『失クシタクナイ失クシタクナイ失クシタクナイ失クシタクナイ失クシタクナイ失クシタクナイ失クシタクナイ!!!』
―――――
なに。
叫び?
―――――
『守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい!!!』
『守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ守リタイ!!!』
―――――
だれ。
泣いてるの?
―――――
『消えないで消えないで消えないで消えないで消えないで消えないで消えないで消えないで消えないで!!!』
『消エナイデ消エナイデ消エナイデ消エナイデ消エナイデ消エナイデ消エナイデ消エナイデ消エナイデ!!!』
『壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる』
『壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス壊ワス!!!』
『つぶすキエルおもいサケブきえるマモルおとすツブスなくすウケルおれるオモイさけぶウシナウなくなる!!!』
―――――――――――OOKRKO!!!
「なんや……なんやねん、あれは……聞いとらへんで……」
信じられへん。ありえへん。
あのアルがやで……。歩くんのさえできへんかったアマちゃんやがで……。
「飛んどるやん……あっは……はははは」
それだけやあらへん。
真っ青なんや。
普段なら「けったいな!」って思うんやろけど、んでも今目の前におるわけで。
それにごっつ光ってんねん! ウチの爺ちゃんのハゲ頭より凄いであれは!
そんなん思うてたら。
『……………』
『……!』
隊長のおっさんをブン投げよったネズミ色ミンクスとガン飛ばし合いよる。
「アルル。やるんかい……あんたの腕でそいつは厳し――!」
ビッ、ガァン!!
「早ッ!!」
早っやいわあ……なんやねんあれ……。
(一部で「翼落とし(ミンクスレイヤー)」って呼ばれとったウチの目でも見えへんかったで……)
どない言うたらええかわからんねんけど……とりあえずアルルは早い。
んで、それくらい早いスピードでネズミ色ミンクス――ああ! なんかこの呼び方長いなぁ、もうネズミンで
ええわ!――に突っ込んでいきよるんよ。
ほんで、かっこええんわ……なんか分からんけど相手と取っ組み合うたんびにアルルから青白い輪っか――衝撃波?――みたいのが広がっていくんよ。
「いよっしゃあ! アルル行けるで! やったらんかい!」
『―――――』
(んや? アルル言うのやめい! って、返してこへんな)
まあ、そんなんどうでもええか。戦闘中で忙しいんかもしれへんしな。
ビィ、ガガンッ! ドシッ、ドガッ! ビィン!
「おっほ! 早い早い! なんや、厳しいとかそんなレベルやないな、ありゃ余裕で倒しよるで!」
最近はなんやら武器ばっかり増えてきよってからに、こういう拳と拳の殴り合いっちゅうのはなかなか珍しいで。
しっかり見とかんとあかんと思うんやけど、眩しい癖にビュンビュン飛びよるからなんか目ン玉的な意味でちょい辛いわ。
「シャイナ! シャイナ見てみい! あのアルルがネズミンをけちょんけちょんにしよるで!」
『うわっ!!』
「ぬわッ!? なんや!」
『び、びっくりした! 柴姉! 脅かさないでよ!』
「はい~? 何いってるんや、そっちが勝手に呆けとったんやろが」
『呆てたって…………あ!』
ギュルルルル!
「な、ちょい! どこいくんや!」
シャイナのメイトルシャはくそ重い機体重やけん、移動はキャタピラ式にしてんやけど。それを動かしてどこぞに行こうとしとるみたいやわ。
『アル姉を止めるの!』
「アホかいな! 敵さんまだ生きとるで!」
『わかってる! わかってるけど、このままだとなんかまずい気がするのっ!』
「意味がわからんわい! 第一あんな早いアルルをどう止めるってんねん!」
『それもわかんないっ!』
「なああっ! ちょっと待ちぃな!」
声!声!声!
音!音!音!
『―――――!!!』
叫び!
それは言葉であるなのだろうけど、聞こえない。
認識できない! こんな荒々しい世界では!
とにかく周囲が青く光り輝いている、目を開けていられない!
とにかく叫びが突きぬけようとしている、聞き取れない!
そんなはずはないのだろうけど、とにかく空気が激しく渦巻いている、髪が逆立つくらい!
「ァァァァァ!!!」
止められない! 私自身も叫んでいる!
私の意識じゃない! そうだと頭は分かっているのに!
胸から噴出す叫びが――息なんてとうの昔に切れてるはずなのに――止められないっ!
辛うじて、自分の意志で動かせる瞳を――眩しさの中でやられてしまわないように――薄く開けてみた先に。
――緑色の髪のあの子が見える。
(やめて)
(貴方は何をしているの? そんなに感情を振り乱して何をしているの?)
感情。
そんな言葉がでてきた事に自分で驚いた。
感情なんて言葉、私が大嫌いな物たちには感じなかったのに。だから私は――
でもいまは違う。
そこに渦巻いているから。
涙を吹き散らしながら泣き喚いているあの子がそこにいるから。
『―――――!!!』
「ァァ、ッ、ァ!」
と。
一瞬。
湧き上がってくるどうしようもないくらいの叫びが治まった気がした。
「ァァッ、ク……ミ、ミンクス!」
言える。
治まった。
語りかける事ができる!
「ミン……ミンクス! 聞いて、ミンクスっ!」
聞こえない!
「止めて! お願いミンクス! 止めて!」
届かない!
「お願い聞いて、ミンクス! 聞きなさい!」
『―――――』
と。
カクリ、と。
一瞬、機体の動きが揺らいだ気がした。
今だ、と。
強く呼びかける!
「ミンクス!」
『―――――』
「ミンクスっ!!」
ガンッ! ガシッ!
「!」
しまった。
グレーのミンクスがモニター一杯に映っていた。
機体の動きが緩んだ一瞬を突かれ、両腕を拘束されてしまっている。
私は間違ってしまった。
戦闘中であるはずなのに、他に気を取られて――
――敵がこちらの都合など考えてくれるはずもないのに。
「っ、そんな……!」
動くはずはないだろうと分かっているはずなのに、思わず両手のレバーを引いてしまう。
『ガッ――ザァー……よ――』
「割り込み!?」
私のミンクスの通信に割り込んでくる通信、まさか……相手が?
『こ――だ……答えろ! ミンクスのパイロットよ!』
「!」
『聞け! 我々は戦ってはならぬ! 我々は至らなければならぬ、終――』
『ァァァァァァァァァァァァァ!!』
また。
ミンクスが。
ギャァァン!
「きゃああ!」
突然、上と下が逆さまになる感覚があって。
『――な、ぜ……――ザァァー』
モニターの下方にどんどんと見切れていくグレーのミンクスが。
左半身に真っ青な光の線が奔って。
そこから、両断される!
ドン! ダダン!
「はあっ、はあっ、はあっ……」
何が、いや、何をしたの。
貴方。ミンクス。
『――! ――――!』
基地は制圧されている。
外で嬢ちゃん達が頑張っているんだろうが、そんな外の騒ぎなんてお構いなしにこいつらは俺達を拘束し続けている。
兵士一人一人の能力がすごい証拠だろうな。よく訓練されてやがる。どこまでも任務に忠実にってな。
「……………」
俺を含む整備部の連中は、全員作業場の片隅に追いやられて油まみれのコンクリの上に銃を突きつけられて座っている状態だ。
「整備長……どうにもならないでしょうか?」
「黙ってろ。嬢ちゃん達に賭けるしかねぇ」
「で、ですけど……」
「黙ってろ」
「おい、貴様!」
ちっ、気づきやがった。
「何をしている! その右手を出せ!」
「タバコだよタバコ。つい癖で取り出しそうになっちまっただけだよ」
ごくごく自然に左の内ポケットに手を滑り込ませてしまっちまってただけだが、目ざとく見つけられちまったか。
「手を出せ!」
「……ほらよ」
タバコを取り出すと。
バシッ! ガッ!
「っ……てぇな!」
手ごと銃で殴りつけてタバコの箱を叩き落すと、つま先で向こうに蹴り飛ばす。
箱からタバコが飛び出しちまって方々に転がっていく、あーあー、もったいねえなあ。
ジャキッ!
「ジッとしていろ!」
「へいへい……」
もうしょうがねえ。あとどれ位で決着がつくかわかんねえが、いい加減ケツが冷えて座るのが辛くなってきてんだ。
「……………」
視線だけを作業場の天窓に向けて、外を見る。
――0ニオン(ゼロカウンター)化した嬢ちゃんの機体が見える。
速度を見るだけでもどれだけの能力が反映されているかがわかる――恐らく、ここで敵う奴は誰もいないだろう。
アスターの尖兵だといってもあれは止められない、持ってもあと3分あるかどうか。
と、嬢ちゃんの機影が窓から外れる。
「……………」
ドドォォォ……
雨の音がうるせぇ。どうしてこう南の島ってのは雨が激しいかね。
『―――――!!』
ついでに無線兵の通信もうるせぇ。恐らくここの指揮官だろうが、向こうの方で通信やってるからこっちまでははっきり聞こえねえんだ。
ドン!
扉の開く音。
『作戦中止! 撤収しろ!』
『作戦中止! 作戦中止!』
『撤収だ! 撤収しろ、作戦中止!』
指揮官が一声かけただけで、あっという間に兵士が退いていく。
こいつはすげえな……敵さんながらその手並みは鮮やかすぎる。間違いなくあいつらは一線を張れる精兵だな。
「え、え? ……整備長、どうしたんですかね」
「決着がついたんだろ」
言いながら右手を服に忍ばせて――
「決着って……俺ら助かったんですか!」
愛用のマッチをシュッと擦り、ポケットの底に一本だけ残ってやがったタバコに火を点ける。
「そういうこった」
「や、やった! 俺達助かったんだ! やったぞー!」
「うおお! 第3選抜すげええ!」
「マジかよ! アスター小隊倒しちまったのか!? すげえええ!」
「……………」
2、3度振ってマッチの残り火を消すと、その辺りに――
「やべ……火気厳禁だっつうに」
あぶねぇあぶねぇ、整備長の癖して作業場を大火事にしちまうところだった。
しょうがねえんで、開きっぱなしの格納扉までいってスコールが激しい空を見上げる。
「ふー……」
そろそろ夜だな。空が暗くなってきてやがる
「……………」
「……青い太陽か、ふんっ」
「……………」
「クリープ……俺は絶対におめえに土下座なんかしねえからな……」
もうすぐ嬢ちゃん達が帰ってくるだろう。
俺はタバコを雨の中に放り投げると、作業場の連中にがなる。
「おら、てめえら! 嬢ちゃん達が帰ってくるぞ! すぐ作業できるように準備しやがれ!」
高次情報電詩戦記VOCALION #4
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