UV-WARS
第二部「初音ミク」
第一章「ハジメテのオト」
その13「インストールの続きと素麺」
インストール開始から18時間後、現実(リアル)に初めて体(ボディー)を得た初音ミクが、最初に動かしたのは右手だった。
〇
最初の動作を確認してから、数時間、テッドは熟睡した。
インストール自体は順調だった。だが、実際に動かす関節のプログラムをMMDやMMDAgentとリンクさせる作業には時間がかかった。
とりあえず右手だけでも挙げ下げできるように目標を変更して、どうにか日の出前に達成することができた。
それからテッドは暑さで目を覚ました。
リビングの床に寝そべっていたテッドは、掛けられたタオルケットを見て、傍らのテトに声をかけた。
「テト姉、サンキュー」
この時、テトはテッドに背中に向けて床の上で胡座をかいていた。
「ん゛?」
そして、喉の詰まったような声とともに振り向いたテトは素麺を啜っていた。
それは他人が見たら吹き出しそうになる光景だが、テッドには微笑ましいものだった。
「食べる?」
テトが汁の入った椀と箸を差し出した。
「うん」
テッドは上半身を起こし、お椀と箸を受け取った。
テーブルの上には透明なボウルに盛られた素麺が置いてあった。
自然とテッドの口から出た言葉はこうだった。
「彼女、来てるの?」
「うん」
テトは一口啜って返事をした。
テトが致命的なほど料理ができないことを、テッドは知っている。
テッドの知らない料理があれば、それはテト以外の誰かが作ったことになる。
その誰かに最も近いのは百瀬桃ということになるわけである。
彼女はテッドに「プログラムを教えて欲しい」とは言ってくれたが、テッドが教師にふさわしいかどうかはテッドが一番よく知っていることだった。
〔少しめんどくさい、かな〕
桃が発明家の血をひいて、メカマニアなのは納得もするし共感するところもあるだろう。
だが、テッドはできれば人との関わりを減らしたかった。
従姉のテトと両親とミクたちヴォーカロイドだけで頭の中がいっぱいで他人が入り込む余地などないような気がした。
「テトさん」
リビングに桃が入ってきた。手に追加の素麺が入ったボウルを載せた盆を持っていた。
なぜか、テッドと桃の視線が一致した。
テッドにはTシャツにハーフカーゴパンツという桃の姿が意外だった。
お嬢様という華奢な印象はひっくり返って、アウトドア大好きギャルに変わった。それでも、露出した肌は、さほど日焼けの痕跡もなく、少し運動した後のように上気していた。
一方の桃は、Tシャツの下の短パンの上端から五ミリほどはみ出したトランクスの色が黄色だったのが気になった。
どちらからともなく二人は視線を外した。
テッドは画面に視線を移し、桃はお盆に視線を戻した。
「テトさん、素麺の追加、出来ました」
テーブルの上に盆を置いて、桃は少しテッドににじり寄ると控えめに声をかけた。
「どうですか」
近づく桃の気配に気づきつつも、テッドはまたしてもなぜか鼓動が速くなっていくのを感じた。
テッドは、クライアントに進捗を報告するSEを思い浮かべながら応えた。
「インストールは無事、成功しました。今のところ、右手を動かすことができます。進捗率にして10パーセントというところです」
それを聞いた桃の顔が曇るのをテトは見逃さなかった。が、テトは傍観を決め込んでいるのか、天井を見上げてう~んと唸るだけだった。
テッドはテキストエディタを操作してミクの左手を動かす準備に入った。
それから、日が暮れるまでの数時間でミクの左手が動いた。
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