過去巡り 外伝 『花の祝福』 その5
4月に合唱部を結成してから半年後の10月
高校最初の文化祭を一週後に控えた日の昼休み、私は流香とご飯を食べていた。
「んで?ガク君は文化祭に来れるの?」
流香は自分で作ったお弁当、私は牛丼屋で買った牛丼を食べている
「うん。日曜日の朝に電車に乗ってくるんだって。」
「へ?土曜の夜に来れないの?」
「ガク君はそう言ったんだけど私がいいって言ったの。
部活の後で疲れてるでしょ?って…それに合唱部の出番は2時半でしょ?
だから10時ぐらいの電車に乗れば1時ぐらいに着くから平気だよって…」
流香の言葉に当日の状況に気付いたので
「え~?でもそれじゃあガク君とお店を回れないでしょ?いいの?
せっかく久しぶりに会うんだから、楽しまないと…」
別れてから半年以上経ってるし、ゆっくり話したいはずだ…と思った。
合唱部の出番までお店を回ったり、どこかで2人っきりで話せば…
そのためだったらクラスの当番を代わってもいい…私はそう思っていたが、
「ありがとねハナ。でもガク君に無理して欲しくないし…
それに結構クラスの出し物とかでバタバタして忙しいじゃない?
だから結局は時間を取るのが難しいと思うし…平気だよ?」
にこやかに私にそう言う流香に少しだけ悲しくなり
「時間を取るのが難しいから…だからだよ…だから少しでも…」
少しでも2人で過ごして…会えなかった時間を…
これからも会えなくなるんだから少しでも思い出を…
楽しめるだけ楽しんで…時間を…思い出を…少しでも…
久々に再会するんだから2人で楽しんで欲しいと思ってる私に
「大丈夫だよ。ガク君に歌ってる姿を見てもらえれば十分だよ…」
流香が大人な顔でそう言うので
「そうなの?ん~流香がそう言うならいいけど…」
私は何にも言えなくなった
そして一週間後の日曜日。文化祭の一般公開の日。
舞台袖で合唱部の出番が来るのを待ってるとき、手を組んで不安そうな流香に
「流~香?緊張してるの?」
後ろから抱き着いた
「だ、だってさ~、やっぱり不安だよ…」
流香は私の手を握り、眉を曲げて不安そうな顔をしてるので
「大丈夫だって。あんなに練習したじゃん?平気だって。」
「でもさ~、うぅ…分かってるけど~」
不安そうな顔をしてる流香を見ると、中学の時を思い出したので
「流香は中学のときから変わんないな~大会前も…文化祭も…こんな風に
緊張してたっけ?何度も練習してるから大丈夫って思わないの?」
「大丈夫って思おうとしてるんだけど……なぜか緊張しちゃうの…
不安になっちゃうの……慣れないのよ…どうしても…」
「そっか~~まぁでも大丈夫だよ?今までだってそうじゃん?平気だよ~」
流香を抱きしめながら前後にゆ~らゆ~ら揺れて安心させた。
こーゆー時だけはいつもの大人っぽさが無くなって…可愛いなぁ…
その後、今日はガク君と久々に会う…けど送ったメールの返事が無い…と言って
流香がさらに不安な顔をしたので、
私はぎゅっ、と抱きしめてる腕に力を入れて
「大丈夫だよ!ガク君きっと来てるよ!流香をビックリさせる気なんだよ!
だってガク君あんたのことすっごい好きなんでしょ?大丈夫だって!」
明るい声を出して流香を励ました。
そして私達が話してるとヒロが
「流香ー?ハナー?出番だって~行くよー!」
私達を呼んだので私達は舞台の上に上がった。
これで流香とガク君を会わせることができる…ようやく会うことができるんだ、
きっと2人とも喜ぶだろうなぁ~なんか私まで嬉しくなってきたぞ?
そうだ!舞台の後に部室で2人っきりにしてあげよう!
そうしたらゆっくり話せるじゃん!誰にも邪魔されずに話せるじゃん!
私はこの先のことを考えて嬉しく…そしてワクワクしながら自分が立つ
位置につき、隣の流香と同じようにガク君を探した。
が、
「…え?」
どこにもガク君はいなかった
え?なんで?なんでガク君いないの?
ガク君がいないことに私も驚いたが、歌が始まりそうだったので
「流香…始まるよ…」
ガク君を探してキョロキョロしてる流香に言った。
そして歌ってる最中もガク君を探したけど、見つけられないまま歌が終わった。
歌が終わって部室に帰ろうと言う流香は妙に明るかった。
けど私は…いや、私達はみんな流香が心配だった。
そして部室までの廊下を流香が先頭で歩き、その後をヒロと優希、
最後に私とサキが歩いていたため、こっそり話しをすることができた。
「ねぇハナ…今日ガク君来てるんでしょ?でもいなかったよね?」
サキが小声で私に聞いてきた
サキも舞台の上でガク君の姿を探したけど見つけられなかったのだ。
「うん…来てるはずなんだけど…いなかった…なんで?」
「分かんないからアンタに聞いたんだけど…」
「………」
「………」
何にも言わず2人で前を歩く流香を見て、サキが私に
「アンタさっき舞台に上がる前に流香と話してたよね?なに話してたの?」
横目で尋ねてきたので
「ガク君に練習前にメールを送ったけど返事が無い…って…」
「は?どうゆうことよ?返事が無いってなんで?」
少し驚くサキに私も困って
「知らないよ…私だって…いや、流香が一番知りたいと思ってるよ…」
「あぁ、そっか…そうだよね…ごめん…」
また私達は無言になった
「………」
「………」
何で来なかったのよ…流香がすっごく楽しみにしてたのは分かってたでしょ?
ガク君だって楽しみだったんでしょ?なのに何でよ?
心の中で流香の恋人に尋ねると、サキが
「…何か事情があるのかもしれない…だから連絡できない…
連絡できる状況じゃない…」
顎に手を当てて考え込むようにポソッと言うので
「連絡できない状況って?」
「それは分かんないよ…でも返事をしてないってことは『連絡できない』って
ことでしょ?だってガク君だったら理由があればちゃんと流香に連絡する…
電車が止まった…とか、風邪ひいた…とか、ちゃんと流香に言うでしょ?
でも、してないって事は連絡できない状況にいるってことでしょ?」
サキが横目で私に確認するように聞いてくるが
「そっか…そう…だね…」
曖昧にしか答えられなかった。
だって私はサキや流香と違って頭が良くないから…
ガク君が来ていない…それだけしか分かってないんだ…
「もしかしたらガク君は、さっきは連絡ができない状況にいたかも
しれないけど、いま連絡したら繋がるかもしれない…だから…」
そう言ってサキは前を歩くヒロと優希に
「2人とも悪いんだけど、部室に帰ったらすぐに出てくれない?
教室の片づけがあるとか何か適当な理由を言ってさ…
2人もガク君が今日来るはずだったけど、来てなかったって知ってるでしょ?
だからハナだけ残して私達は部室を出ましょ?いい?」
小声で提案するとヒロも優希も
「わ、分かった…」
「うん…分かった…けど何でハナだけ…残すの?」
私も思った疑問を優希が聞いた。
「流香はハナにだけガク君との約束を話したでしょ?でもハナは私達に
内緒にしてね?と2人の約束を全部話しちゃったでしょ?
つまり流香はハナ以外がガク君との約束を知ってるわけない。と思ってるの。
だからハナは流香に「ガク君に連絡したら?」と言うことができるの…
ハナだけが言えるの…だからハナは残らなくちゃいけないの…」
サキが言ったことに少し不満に思った優希が
「私達にもちゃんと…言えば協力…するのに…流香は…何で言わないの?」
少し寂しげにサキに尋ねた。
優希がそう言うのも分かる…なんで流香はみんなに言わないんだ?
みんなに言えばみんな協力するし…絶対にからかったりしないのに…
何でなんだ?
私が…いや、私達が疑問に思うとサキが
「まぁ…中学のときは「恋愛禁止!」って言われてたからでしょ?
だからガク君と付き合ってても誰にも言わなかったんだろうね…
でも高校に上がっても言わないのは……私達を心配させないため……かな?」
少しだけ考えて出た結論に私は驚いて
「え?なに私達を心配させないためって?」
サキに尋ねると
「そのまんまの意味よ…流香はガク君と遠距離恋愛になるって多分、早い時期に
分かってたんじゃないかな?それこそ去年の夏頃とかにさ…
それっぽい噂を私は知ってたよ?ガク君が遠くの学校に行くかも…って…
だからそれを私達に話すと心配するって思ったんじゃないのかな?
だからガク君と遠距離恋愛をしてる。ぐらいしか言わないんでしょ?
遠距離恋愛をしてて、さらに全然会えないって言ったら私達に心配されるって
分かってたんでしょ?
まぁ…流香が思ってる通りに私達はもう心配しちゃってるけどね?」
自嘲的に笑いながらサキの考えを聞いて私は
そうだ…流香はそうゆうヤツだ…
流香のことをまた少し理解した
自分は人に気を使うが…人に気を使われることを嫌がるとゆうか…
人に気を使われることを苦手に感じてるように見えるとゆうか…
心配されることに慣れてない…みたいな…
そんな流香を少し悲しいと…感じた
「だから…ね?2人ともいいでしょ?」
サキが少し寂しげな優希とヒロにそう聞くと
「分かったよ…」
「…分かった…サキがそう言うなら…」
2人ともサキの提案を承諾した。すると
「2人ともありがと…じゃ、ハナ?後はハナの役目よ?いーい?」
私にそう確認してきたので
「…分かったよ…」
そう言うしかなかった
話してると部室に着いた。
部室に着いたらヒロと優希が自分の鞄を持って
「さて…うち等は教室に帰ろっか?優希」
「うん…片付けも…あるし…焼きそば食べたい…お腹すいた」
サキに言われたとおり教室に帰り、サキも
「じゃあ私も…疲れちゃったから帰るね。じゃあね流香とハナ」
と私に目だけでさっき言った通りにね…合図をして部室を出て行った。
流香は椅子に座り、明るい顔をしていた。
無理…してるんだろうなぁ…私達に心配させないために、そんな…
そんな妙に明るい流香に私は
「……流香…」
余計に心配になり話しかけると
「ん?な~にハナ?そんな声出して?そっか、疲れちゃったのね?
みんな頑張って歌ったもんね~じゃあ私達ももう帰ろっか?」
流香は明るく言って椅子から立ち上がろうとするので
「…流、流香…だ、だって…ガク君が…そのぉ…」
私は困ってしまった。
すると私の言葉で流香の顔から明るさがスッと消えて
「………」
「………」
「………」
「……流香…」
流香は黙り込んでしまった
かなり…落ち込んでる…そりゃそうだよね…
「流香…大丈夫……じゃないよね…」
「…………」
流香を覗き込むように聞くが、流香は何にも返事をしなかった
約束をしてせっかく合唱部を作ったのに…
その約束をしたガク君が来てなかったんだもん…
しかもメールの返事を返してもらってないから…悲しいだろうなぁ…
流香はうつむきながら
「…何で来なかったのかなぁ…ガク君…」
私じゃ答えられない質問をしてきたので、サキに言われた通り
「…流香…聞いてみたら?…ガク君に電話してみたら?」
恋人に聞きなよ…そう言うと
「えっ?」
「だって…約束したんでしょ?ガク君見に行くって言ったんでしょ?
でも来なかったのは何か理由があるからなんじゃないの?
だったら聞かないと…メールもまだ帰ってきてないんでしょ?だから…」
流香は躊躇いながら
「…………」
「……流香?」
「……うん…聞いてみる…」
少し緊張をしながらガク君に電話をかけた。
するとガク君が出たのか
「もしもしガク君っ!?今どこっ!?どうして来てないの!?
早く来てよ!!もう合唱部終わっちゃったよ!?」
いつもと違って少し怒りながら流香が話し始めた
電話に出れた…ってことはサキが言った通りなのかな?
『連絡できない』状況から『連絡できる』状況になったんだ…
流香は電話を両手で押さえ
「本当っ!?早く来てよ!!何で来てくれなかったの!?」
そう言うとガク君が何かを言って電話が切れたのか
「ガク君…何だって?」
携帯を耳から放した流香に聞くと
「今こっちに向かってるって…もうすぐ学校に着くって…」
沈んだ声が返ってきた
流香の言葉のもうすぐ学校に着くを考えた
学校に着くってことは…え?
「え?ガク君ここに向かってるの?それって学校にいないってこと!?
え?じゃあどうやって会うの?つーかどこで会うの?」
ガク君が『今』学校にいないことが分かったのでどこで、どうやって会う
のかを流香に聞くと、
「え?」
瞳に小さな涙を浮かべた流香に
「だーかーらー、ガク君はこの学校に来たこと無いでしょ?
そんで合唱部はもう出番が終わって体育館にいないっしょ!?体育館には
なんとか来れるかもだけど、ここに流香がいるのは知んないでしょ!?
だったらどこで会うのって言ってるの!」
私の言ってることが分からなかったのか流香は数秒考えてから焦って
「そーだよ!どーしよ?」
「どーしよじゃないよっ!とりあえず校門の所に行きなよっ!
そーすればガク君とは絶対に会えるでしょ!?その後にここに連れてきて
2人で話しなよ?教室とかじゃ話しにくいでしょ?」
私がほら早く!立って!と急かすと流香は部室を出ていった。
そして急ぎ足で階段を降りてる背中に
「わたしー!教室にいるからー!」
声をぶつけると
「うーん!ありがとー!」
振り返らずに返事をしてきた。
そして流香がいなくなって静かになった部室で私が
窓から校門の方を見下ろすと、流香が走って着いた後すぐにガク君が着いた。
2人の姿を見ることができたので、私は自分の教室に向かった。
そして30分ぐらいして流香にメールを送り
教室で流香が来るのを待ち続けた
初恋メロディー 過去巡り 外伝 花の祝福その5
過去巡りの花の祝福のその5です。
心配されないようにしているルカを心配しているハナ。
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