UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」

 その23「第三波」

 不意に大きな声がした。
「ふぁー」
 モモが大きな動作と欠伸で目覚めた。
「モモ?」
 モモは半開きの眼でテトを見つめると、眠そうな声で答えた。
「テトさん、おはようございます」
「どうだ、モモ? 動けそうかい?」
「現在、システムをチェック中です」
 割りと明るい声が返ってきてテトはほっとした。
 テトはメイコを振り返って不審気に見つめた。
「どう考えても時間の流れがおかしい。わたしは七十六年前に産まれ、二回リフレッシュをしてボディを交換した。そのわたしが五百年前から存在できるはずがない」
「それが、できるのよ」
「論理的に破綻している情報をこれ以上受け取る訳にはいかない」
「証拠ならあるわ」
 メイコはテトに一枚の写真を見せた。
 テーブルの上に置かれた写真は、長い年月を経てボロボロになっていた。丁寧に扱わないと粉々になりそうだった。
 写真の一点を指差してメイコは言った。
「これが、わたし。こっちが、テト、あなたよ」
「確かに、微かに残ったシルエットはわたしのものと一致している。しかし、わたしと同型のUの兵士は、何百とある」
「そうかもしれないけど、…」
 その時、モモが大声を出した。
「システムチェック、完了しました!」
 その声にビクッと震えたテトは抗議した。
「モモ、もっと小さい声でもいいだろう?」
「テトさん! 大変です!」
 モモの顔が青ざめていた。
「ど、どうした?」
「第三波が来ます!」
「なんだって?!」
「なに? どういうこと?」
「メイコさん、静かに。今、モモが計算してる」
「高空より落下物、多数。最大で直径、五キロメートル。推定落下地点、…」
「まさか…」
「その、『まさか』です。ここです」
「え? 何の話しをしてる…」
 テトはすっと立ち上がると、メイコの手を掴んだ。
「今すぐに脱出しよう」
 メイコはテトの手を振り払った。
「ダメよ。もう逃げ場はないわ」
「モモ、到達予測は?」
「あと4分14秒です」
「まだ間に合う。ここを出よう」
「あなた、ここへ来る途中、あの谷を見たでしょう? あのクレバスはこの家を中心に取り囲んでいるの」
「モモ、衛星画像」
「解析完了。メイコさんの仰るとおり、クレバスはこの家を中心にして展開されています」
「そんなもの、ひとっ跳びだ」
「テトさんのペイロードは一人分です」
「ボクがピストン輸送すればいいだけだろ?」
「それでは、間に合いません。衝突に巻き込まれます」
「くっ」
 そのテトとモモのやり取りを茫然とメイコが見つめていた。
 それに気付いたテトがいぶかし気にメイコに聞いた。
「どうした、メイコさん?」
「あなたたち、わたしを見捨てるという選択肢はないの?」
 テトははっとなってモモを見たが、同じように虚を衝かれた表情のモモを見て、プッと吹き出した。
「敵対関係にないモノを見捨てる程、薄情じゃないから、ウチら」
 真顔で答えたテトは少しはにかんだように舌を出した。
 同意するようにモモがコクりと頷いた。
 二人を見比べてメイコは、
「そうか」
と呟くように息を吐いた。
 窓ガラスの割れる音がした。
 窓の外では何か降りだした音がした。
「モモ、もう来たぞ」
「前触れの小石です。家の中なら安全なレベルの大きさです」
 メイコはすっと立ち上がって言った。
「脱出装置ならあるわ」
 メイコはテーブルを指さした。
 テトはテーブルの端を掴むと後ろに放り投げた。
 派手な音を立てて、テーブルとその上に載っていたものが壊れた。
「めくって!」
 メイコの指したカーペットをテトは空かさず捲り飛ばした。
 カーペットに隠れていたのは、古めかしいテンキーボードだった。
 メイコは素早く24桁の数字を打ち込んだ。
 テンキーボードの周囲一メートル四方がゆっくりはね上がった。
 その下には地下に降りる階段があった。
「ついてきて」
 飛び込むようにメイコは階段を下りていった。
「モモ、動ける?」
「二分なら」
 モモはすまなさそうに上目遣いでテトを見た。
 テトは笑顔で応えた。
「いざとなったら、背負ってやるよ」
 モモは頷くとコンセントからケーブルを抜いて、立ち上がった。
 テトは階段に飛び込んだ。それは階段というより滑り台に近かった。両脇に幅20センチのステップがあったが、まん中は幅60センチの磨かれたようなスロープになっていた。
 テトはためらうことなくスロープに体を預けた。
 モモがその後に続いた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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UV-WARS・テト編#023「第三波」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「重音テト」の物語。

 他に、「初音ミク」「紫苑ヨワ」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2018/04/23 18:44:36

文字数:1,907文字

カテゴリ:小説

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