人間なんて嫌いだ。
世界だって嫌いだ。
僕は、箱の中で世界を呪っていた。
空はどんよりと暗く、はらはらと雪が降っている。
生憎、それを綺麗だと思えるだけの余裕はない。
僕はぶるりと身体を振るわせた。
身体はもうすっかり冷えていて、芯まで凍るのも時間の問題だ。
その時に、僕は死ぬのだろう。
生まれてすぐ、母と引き離された。
兄弟達も、他の人間が貰っていった。
残っているのは、僕だけ。
雪が鼻先をくすぐって、僕はくしゃみをした。
「―――おや」
そこに、奇妙な人間がいた。
黒いマントで身体をすっぽりと覆った、顔もよく見えない人間だった。少年のような、少し高い声が僕に掛けられる。
「君、可愛いな」
明らかに使い所を間違えている台詞だった。
僕は雪で濡れた段ボールの中で震える砂色の仔犬だというのに。
「まあ、こないだの戦争で負けたこの国の人、特にこんな北部の人間に、君の可愛いらしさに気付く精神的経済的余裕なんてないだろうが」
犬である僕とこの人間とでは時間の流れ方が違う。
だから僕は彼の言葉を「人間にとっての」こないだだと思った。
「君、うちに来なさい」
そういって彼は、僕が聞き返すより早く僕を抱き上げた。
彼の手は、寒さからか酷く冷たい。
「寒いかい? 生憎、私は体温が低い身体なんだ。家についたら、ストーブの側を進呈しよう」
彼は僕を持ち上げ、目線を合わせた。
僕はフードが隠していた彼の姿に驚きを隠せない。
冬の僅かな晴れ間みたいな薄い金の髪に、氷色の瞳。この瞬間も降り注ぐ雪のような白い肌。
14歳前後の、幼さが消しきれない顔立ち。それなのに、目の奥に宿る光は長い年月を湛えていた。
不思議な人間だ、と僕は思った。
ついでに女みたいな顔だとも思った。
「女みたいな顔だ、って思っただろう? 不思議がられるのは別に構わないけれど」
バレていた。
人間はにこりと笑う。
「私は『捜し屋』という。シーカーと呼んでくれ。・・・君、名前は?」
僕は首を横に振る。母が僕に名を付ける暇もなく、僕は捨てられてしまったから。
「なら、私が付けよう。そうだな・・・君の名前は、サンディだ。行くよ、サンディ。一緒に帰ろう」
「何処に?」
僕の問いに、シーカーは僕の頭をくしゃりと撫でて言った。
「私の家だ」
【白黒P】捜し屋と僕の三週間・1
『鎌を持てない~』から50年後。
サンディが誰かとかはない。
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