都会の片隅にある古びたビルの小さな一室、そこに海翔が身を置く組織があった。
組織の名前はレイブン、表向きは会計事務所として構えている曰くありげな事務所である。
勿論表向きの仕事もしっかりとこなしている為、まさかここが裏で暗殺を請け負う、社会の闇に潜む暗殺集団のアジトだとは誰も思わないだろう。
タイルの張り巡らされたコンクリート製の階段を上っていけば、ガラスで仕切られた事務所の入り口が見えて足を速めた。
いつものように、今にも外れてしまいそうな事務所の扉を潜ると、高校生くらいだろうか、長い髪を高い位置で二つに結い、花柄のワンピースを着込んだ少女がそこにいて、思わぬ珍客の存在に入り口付近で立ち止まる。
線が細くスラリとした体躯は中学生と呼ぶには大人びているが、大学生にしては幼さが残る面持ちだ。
昼間の依頼にしては、どこか張り詰めたような空気を感じるなどと考えを巡らす。
どちらにしても真昼間に学校にも通わず、こんなところに居る時点で訳ありだ。
関わらないに越したことは無いと、早々に脇をすり抜け、事務所の奥へと向かった。
「あら海翔いらっしゃい。」
明るい声に振り返るとボスの秘書の芽生子が居て、彼女は小首を傾げ短く切りそろえた髪を揺らすと、にっこりと微笑んだ。
仕事を貰いに来た告げれば、困った顔をされ首を傾げる。
何か問題でもあったのだろうか?
「仕事はあるにはあるんだけど、たった今依頼を受けたばかりの仕事で、案件が護衛なのよ…」
「…護衛?」
護衛なんてこの組織では初めて受け持つ仕事ではないだろうか?
不思議なこともあるものだと、依頼書を受け取り目を通して驚いた。
「アンドロイドを護衛!?」
「そうは言っても、そのアンドロイドはあなたと同じサードなのよ。」
サードとは、サード人類の事を言い。
人間の脳を移植したアンドロイドの事を指す。
だがサードと特別な呼び名があっても、その生態の殆どが社会的に確認されていない。
というのも、肉体の死を境に、脳をアンドロイドに移植する事で、永遠の生を手に入れてしまえる為、倫理に反する考えから、社会的に存在を許されておらず、サードに関係する技術は全て違法とされてしまったからだ。
なのでサード人類に成り得る人間は、法が機能しない特権階級の人間か、裏社会の人間か、この2つに限られている。
「護衛対象は首相である初音氏の娘さんなのよ。」
「特権階級の人間の中でも頂点の人間か…
それが何故身内ではなく、うちみたいな裏稼業に頼んできたんだ?」
「近頃サードの被験者が、次々に襲われているのは知っているわね?
初音氏の娘さんが手に入れた機体は最新型で、まだ出回っていないテスト環境状態の高性能な機体…
彼女は純人間ファースト推進派から見ると最高のターゲット、これを狩ればメディアも見逃すことは出来ないという魂胆から、相手がプロの暗殺者を差し向けてきているのよ。」
「自分達ではお手上げな相手で、相手は最新型を破壊することで、倫理観から外れた者たちへの見せしめと、裏稼業の暗殺機体に対する宣戦布告が目的という事か…」
「受けてくれるかしら?」
ここで蹴ったとしても、事が事なのでボスから直々に呼び出され任されるのだ。
受けるしかないだろうと、海翔は小さなため息を零すと、依頼書にサインをした。
「ありがとう大口のお客様だから助かるわ。」
芽生子はにっこり笑みを浮かべると、引き出しからビニールに入ったキーとメモリーカードを差し出した。
「中に情報が全て入っているわ。
分からないことはメール頂戴、それじゃあお願いね海翔。」
ひらひらと手を振り事務所を後にする。
受付のところにはもうあの少女は居なくて、あの子はどうしただろうかとポツリと思う。
耳の脇からメモリーカードをカチリと入れて、神威にメールを送りながら、目的地に向かった。
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