「・・・?」
目を開けると、そこは闇だった。しかし、少しすれば闇に目が慣れ、ぼんやりと辺りの様子が分かるようになった。
縛られた手足でなんとか立ち上がろうとする。
くらり。
目眩がして、冷たいコンクリートの床へと体を叩きつけられる。
俺の脳内は、先ほどの・・・いや、あれからどれ程時間がたったのかは分からないが、加賀峰の葬式場から出た後の出来事がフラッシュバックした。
「・・・カイト!」
返事がない。何度も何度も名前を呼ぶが、結果は同じだった。
その時だった。突然、携帯が着信を伝える。なんとか画面を開き、通話ボタンを押す。
「もしもぉし♪」
「・・・っ」
その声に、俺は反射的に体を強張らせた。
「ああ、良かった。目が覚めたんですねぇ!ふふっあなたはまだ死んじゃいけまんよぅ?まだやることは残ってますので!まったく、あの人達はいっつも乱暴なんですから困っちゃいます!」
「お前・・・カイト、カイトはっ」
「・・・カイト?ああ!あなたのお友達のことですねぇ?ご心配なくぅ!彼はちゃぁんと・・・あなたの側にいますよぅ?」
側に、に含みを持たせ、少々怪しげな言い方をする女に、俺は訝しげに尋ね返した。
「俺の・・・側に?」
「そう・・・彼は、あなたのすぐ側に・・・。うふふっ、じゃぁまたお電話しますね?鏡音レンさん!」
一方的に電話が切れると、俺は視線を少し上げた。すると、携帯電話のぼんやりとした明かりの中でも一際はっきりと浮かび上がる「赤」があった。
絵の具の様な綺麗な赤ではない。もっと濃くて、赤黒い・・・そう、まるで人の血のような、そんな「赤」
「カイ・・・ト・・・?」
顎を使って、血のある辺りに携帯電話の明かりを向ける。
「っ、よぉ・・・」
「っお前・・・どうしたんだよ!」
疲れ切ったような、どこかあきらめを含んだような表情。生気が感じられない顔。それでもカイトは、必死に指を動かし、俺の拘束を解いてくれた。
「・・・っ、げほっげほっ・・・」
苦しげに咳き込むカイト。その口の端から一筋の血が垂れる。
「ッカイト、血が・・・!」
動揺する俺を、カイトは静かに手で制した。
「・・・どうせ、俺はもう長くない。自分のことは、自分が一番よく分かってるさ。」
「でもっ・・・!誰が、こんなこと・・・!」」
俺はまた失うのか。大切な友人を。その友人の命が燃え尽きるのを、何も出来ずにただ見守るなんて・・・!
「あいつらだよ。何があったか知んねぇけど、人様を殴る蹴る・・・最後には腹刺すたぁ・・・、死ぬっつぅの・・・。」
カイトの声が、どんどん小さくなっていく。見れば、刺されたという腹からは止めどなく生暖かい血が溢れている。
「っカイト・・・!」
「俺・・・お前が、気ぃ失ってる間・・・色々聞かれたんだ。加賀峰の・・・こと・・・と、か・・・どう、して・・・初音、が・・・」
そこから先は聞き取れなかった。だがカイトは、最後の力を振り絞り、あまりに優しい、優しい笑顔で笑った。
「俺も・・・もう、すぐ・・・そっち、行くから・・・加賀峰・・・そしたら・・・」
「嫌だ・・・カイト!カイト!」
俺は子供のようにカイトにすがりつく。
「レン・・・お前、と・・・一緒にいて、・・・すっげぇ、楽しかった・・・初音の・・・最後まで・・・一緒、・・・て、ごめん・・・。」
カイトの目が、少しずつ、少しずつ暗くなっていく。
「あ、と・・・もう・・・泣く・・・な」
「・・・カイト・・・?」
返事はない。閉じられた目も開かない。力のない腕も、だらりと垂れている。
それでもカイトはまだあったかくて。カイトの瞳から零れた一筋の涙はまだ乾いていなくて。カイトの手を握っていれば、またカイトが笑ってくれるような気がして。
「なぁ・・・!カイト・・・!嘘だろ?そうやって、俺のこと騙してるだけだよな?・・・なぁ!カイト!返事しろよおおお!」
ふいに、暗闇に光が差す。
其処に浮かび上がったシルエット。
「残念ですがぁ、彼はもう死んじゃいましたぁ!ナムナム~!死体に話しかけてもぉ、ただの怖ぁい人ですよぉ?」
あの女の声だった。
「うふふっ・・・さぁ、邪魔者も居なくなりましたしぃ、これでやっとゆっくりお話できますねぇ。あっそういえば会うのは初めてですよね?鏡音レンさん。」
その時女に向けた俺の顔は、酷く冷たかったと思う。
それでも、女は気持ちが悪いほどににっこりと笑みを浮かべた。
「やだぁっ顔が怖いですよぉ?・・・そうですねぇ、あなたから言えば仇って所でしょうから、しょうがないか!まぁ、それは置いといて。」
「初めましてぇ、鏡音レンさん。あたし達の敵であり、仲間であり、それが故に悲劇を辿ることとなった人。あたしがぁ、神威グミです!これからもあなたとの御縁が在りますように。よろしく!」
吐き気がした。
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