三章
ある日突然、怒れ狂った国民たちの手で、城は攻められた。
休み暇もなく疲れ切った兵士は、彼らも敵ではなかった。
大臣たちは、逃げ出した。
リンは自分の部屋にいた。レンも、そのそばを離れずにいた。
「ほら、僕の服を貸してあげる。」
レンはそう言うと、自分の上着を脱いで押しつけた。リンは訳のわからないまま、それを受けとる。
「これを着て、逃げてください。」
リンは、あり得ないとでもいうように、目を大きく見開いた。そんなリンに、レンは笑顔で言葉を続けた。
「大丈夫。僕らは双子だよ。きっと誰にもわかりません。」
リンは、もっと驚いたように目を見開く。
「母様!□□がいない!」
あの日六歳の誕生日の日、誰かを必死に探していた。今はもう、思い出せないけど・・・。
母様の所に行くと、父様がいて、二人とも落ち込んだような顔をしていた。母様の方は、涙をうかべていた。
父様はゆっくりとした動作で、頭をなでてくれた。
「□□なんて、元からいないんだよ。いなかったんだ。」
そう言いながら、父様は抱きしめてきた。そのせいで、父様がどんな顔をしていたのか、わからなかった。きっと、泣いていたのだろう。母様も、泣き崩れた。
その日以来、母様も父様も、ほかのみんなも、どんなにきいでも□□の話はしてくれなかった。
だから、忘れてしまった。
「リン、行くんだ。」
服を替え終えると、レンはリンをひっぱって戸の所まで連れて行く。今自分を引っ張っている彼は、リンそっくりだった。
「いやよ!レンをおいていけない!」
リンはレンの腕から逃れようと、暴れた。しかし、レンの力は強く逃れられない。
やっと離されたかと思うと、そこは部屋の外だった。
「外の世界で、幸せに。」
レンはそれだけ言うと、戸をしめた。リンの伸ばした手は、届かなかった。涙が、今までにないくらいあふれる。
リンは涙をぬぐうと、廊下を走った。いくらぬぐっても、溢れてくる。
ごめん。ごめんね。レン。
レンは閉じたとから離れて、窓の外をながめた。そこから見える海に、レンは想いを託してきた。
だから、思い残すことはない。
強いて言うなら、残してしまうリンが心配だった。
でも、きっとまた会えるから・・・。
レンは祈りを捧げるように手を合わせて、目を閉じる。
神様。2つも願いを叶えて欲しいなんて、図々しいことは言いません。だけど、祈ることだけはさせてください。
神様。どうかリンに・・・
部屋の戸が、派手な音を立てて開いた。レンは振り返ると、赤い鎧を身にまとった女戦士がいた。
女は振り返ったレンを王女だと思い込んだらしく、剣の切っ先をレンの首につけた。
レンは、それに動揺せず、冷たい声で言いはなった。
「この、無礼者。」
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