あれから、1年の月日が流れた。
あの事故はしばらくニュースでも取り上げられ、話題になったが
半年もすると、人々は興味を失い、自然にどのメディアからも消えうせていった。
僕は、研究所を立て直すチームの一員となり、研究所の
再生を目指してがんばっていた。
そんな、ある日のことだった。
研究所に、客人が来た。
しかも、僕との面会を希望する人だという。
僕にはもう、血縁も居ないし元々知り合いも少ない。
誰なのか、まったく見当がつかなかった。
「あ、はい。もういらしてるんですね、分かりました。
今から向かいます」
白衣が、春の風になびく。
外に出ると、桜の花びらがはらはらと舞っていた。
「全然気付かなかったな、もう桜の季節か……。
リンは、桜が好きだったなぁ」
リン、今年の桜はすごくすごく綺麗に咲いたよ。
「わ、いけない!急がなきゃ!」
僕は、待合室へと急いだ。
コンコン。
待合室のドアを叩く。
中から、はいどうぞと声がする。
女の人の声だ。
「失礼します、遅れてごめんなさ、い……」
そこには、赤い髪をして赤いシャツを着た女性が大きなバッグを抱えて座っていた。
顔つきは、少し寂しそうで、あの時の彼女に似ていた。
「あの……」
「え?あ!ごめんなさい!ボーっとしちゃったわ。あなたがレンくんね」
「あ、はい……」
「始めまして、私、メイコといいます。あなたのお姉さんの知り合いよ」
「姉の……」
そんな話、今までで一度も聞いたことなかった。
リンは人見知りだったから……知り合いがいたなんて。
「お姉さんのこと、とても残念だわ。
事故だなんて……何であの子があんな目に……」
研究所の人間でも、限られたごくわずかな人間しか
リンの本当のことを知らない。
表向きは、不慮の事故、という風になっている。
「あの、それで、今日は僕に何の用でしょうか?」
「あ、ごめんなさい。私、お姉さんが亡くなる前に預かり物をしていたの。
私にもしものことがあったら、これをあなたに渡すように言われて……」
メイコさんはそう言って、抱えていた大きなバッグを僕に渡した。
とりあえず受け取ると、ずしりとした重さを感じる。
どうしたらいいのか分からず、メイコさんを見る。
「開けてみてちょうだい」
言われるままに開けてみると、中にはペット用のキャリーバッグが入っていた。
「そのキャリーバッグの中にいるのは、あの子が……リンが
生前、とても大事にしていた猫なの。リンが、この研究所に入所した日に
迷い込んだ野良猫でね。当時はとても衰弱して、やせ細った猫だったわ。
いつ死んでもおかしくないくらいだったの。リンは、その猫を無視できなくて
寮の自分の部屋で飼い始めたの。この猫は、リンにとってかけがえのない
とても大事な猫なの」
キャリーバッグの中にいたのは、毛並みのつやつやした
白い猫だった。
綺麗に手入れされていて、とても元気なようだった。
「この猫……」
「リンはもういないから、これからはレンくんが大事にしてあげて」
メイコさんは、リンが入所した時の直属の上司で
リンのよき理解者であった。
その1年後に訳あって退所してしまったが、その後も
リンとの関係は続いていた。
リンは、あの事故が起きる1ヶ月前にメイコさんの元を訪れ、
この猫を預けた。
『私にもしものことがあったら、この猫を私の弟に渡してください』
そして今。
猫は、のどを撫でるとにゃあと嬉しそうに鳴いた。
「お前の名前をつけてやらなきゃなあ……。
メイコさんに聞きそびれたよ、リンが何て呼んでたのか」
リン、君はこの猫に何て名前をつけたんだい?
チリン。
にゃあ。
猫の首についた鈴が、チリンとさわやかな音を奏でた。
僕は、リンの仕業だとすぐに思った。
「そうか、そうか。リン、やってくれるじゃないか。
よし、お前の名前は『リン』だ。リン、これからよろしくな」
そう言うと、リンはにゃあと鳴いた。
もしかしたら、リンもこの猫に同じ名前をつけていたのかもしれない。
……そんなこと、ないか。
リン。
僕は、此処で元気にやっているよ。
君がくれた、最後の贈り物と一緒に。
君の名前をつけたんだ、あの猫に。
君みたいに、優しくおとなしい性格だよ。
こんなかたちで、君と一緒に暮らすことになるとはね。
リン、この世界は今日も不完全なままだよ……。
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