疲れた。肩がボキボキだ。
　でも今日は金曜日。今日は夜遅くまで起きて明日は一日中ゴロゴロっと……うーん、幸せ。
　帰りにＴＳＵＴＡＹＡでずっと見たかった「アメリ」を借りてきた。いつか買ってとっておいた赤ワインを飲みながら「アメリ」を見て夜更かし。……最高。最高だね。
　家のドアを開けると、なぜだか異臭がした。
　このにおい……知っている、ふるさとのドブのにおいだ。
　なんで？　ガス栓閉め忘れたとか？　合鍵渡している相手もいないけど……何？
　そうっと家に上がってキッチンをのぞくと、緑の人影。
　……人じゃない。人影じゃなくて、



　カッパ影だ！



　私に気付いたカッパが、会釈をしながら、
「ごめんごめん、砂抜きは外でやったからさ」
　……砂抜き？
　カッパの前にある割と大きめの鍋。私の鍋。
　のぞきこむと。
「……何これ」
「タニシ」
　タニシ……。
　なんかカッパキッチンタイマー持ってちゃんと時間計ってるし。私のキッチンタイマーで。
「ごめんごめん、ガス代はちゃんと払うからさ」
　砂抜きとかガス代とかじゃねえんだよ！
　なんで私のところでタニシ茹でてんだよ！



　言いたい事は山ほどあるが声には出ない。
　前世で一体何したらこんな目に遭うの！



「気にしないでお風呂にでも入っててよ」
　この状況で風呂なんか入れるか！
「ちょうどさっき沸いたところだからさ」
　……沸かしてくれたのね。
「ごめんごめん、一番風呂は譲るからさ」
　一番風呂に入るつもりやったんかい！
　二番風呂もやらねえよ！



　カッパに親切にお風呂沸かされてる。
　なんかちょうどいい温度だし。
　帰ったらすぐ入れるようにお風呂沸かしてくれてるなんて……

　ひょっとしてあのカッパはいいやつなのかもしれない。



　お風呂から上がると、キッチンにカッパの姿はなかった。
　家のどこにもカッパはいなかった。
　最近疲れてるからなあ、幻覚だったんだなと思い直し、赤ワインを取ろうとキッチンに戻ると、さっき気付かなかったけど書き置きがあった。



『冷蔵庫にプレゼントがあります』



　プレゼントぉ？
　冷蔵庫を開けてみる。見覚えのない物体が小鉢にのっている。
　タニシだ。
　意外に盛り付け方が可愛い。それに、ラップしてくれている。



『赤ワインに合う味付けにしておいたよ』



　いやあのね、タニシを食べられるっていう事も知ってるし、酒のつまみにちょうどいい感じだって事も知ってるよ？
　でも『赤ワインに合う味付け』ってなんだよ！　つかなんでカッパは私が赤ワイン飲もうとしてる事知ってんだよ！



　いやまあ、美味しかったですよ、はい。



　それからカッパは一度たりとも来なくなった。


　ていうかガス代もらってねぇぞ！