その夜、俺と父さんはレーダーが反応したのを確認すると
「牛乳がきれたから買ってくる。」
と理由をつけて外に出た。まあ、本当は二人で牛乳を飲みきっただけなんだが…間違ってはないしいいだろう。それにしても、牛乳はこんなに飲むものではないな。
「おい遥。そのスモークなんちゃらってのはどこにいるんだ?なあ!なあ!」
まるで子供のようにはしゃぐ父さんに
「スモークエネミーズ!これからそいつの居る場所に行くの。」
と言った。
変身してから、父さんを担いで走った。傍から見たら、普通は逆なんだろうな。と思ったが今は気にしてなんかいられなかった。人の命がかかっているからだ。
「さてと、目的地だ。」
そこには、俺の天敵がいた。
「こ…こんなのが毎晩いたのか…。」
「そう。で、毎晩こんなのと戦っていたのがこの僕。」
と、得意気に言って
「父さんはここで見てて。」
と続けて言った。パイプを触った人間はスモークエネミーズが見えるようになることは、この時初めて知った。俺は、父さんの目には止まらないほどの速さで動いて、攻撃をかました。
「これで…終わりだ!!」
その言葉通り、スモークエネミーズを倒してみせた。さて、父さんを担いで…
「遥、ちょっとコンビニ寄ってくれないか?」
「……え?」
「いや、牛乳買わないと…」
……父さん…意外と真面目だな…
その後、家に帰ってから俺は早めに就寝した。その翌日、父さんは俺を呼んだ。
「遥。その…実は…まだ昨日のことが信じきれていなくてな。未だに夢だったんじゃないかと思ってしまうんだ。」
まぁ、当然の反応だろうな。
「それにしても、あの力は凄かったな。俺も子供の頃、お前みたいなのに憧れたもんだ。だが、その力に頼りすぎてはいかんだろう。」
父さんは、座っていた姿勢を前のめりにして話し始めた。
「いいか、遥?この世界はどんなことがあっても、日は暮れて、夜がきて、そしてまた日が昇って一日が始まる。その一日の中で、人々は世界の『歯車』として存在するんだ。人々が活動することでその『歯車』は回って、世界が回るようになっている。」
俺は、その話を目を丸くして聞いていた。
「その『歯車』が無くなっても、その空欄を残したまま『歯車』は回り続ける。たとえ、空欄に気づかなくても同じことだ。でも、小さい『歯車』を増やして空欄を埋める。その『歯車』の種類は一つ一つ違ってな、目立つものも目立たないものもあるんだ。だから遥、お前は………」
「ねえねえ、パソコン貸してくれない?」
突然来た鮎に驚いて話すのをやめた。
「そ…そこにあるだろ。」
「パスワードは?」
「…ちょっと待ってろ。」
そう言うと、重い腰を持ちあげる様に立ち上がり、鮎に近づきパスワードを教えているようだった。
その次の日の夜。また父さんと一緒に倒しに行くことになった。今日は母さんが片栗粉が無いと言っていたので、それを理由にすることにした。
「父さん。今日は二体いるみたいだよ。」
「よし。先に片栗粉買ってこよう。」
…買ってから…か。そうして少し遅れていった。
「いたいた。父さんはここで待ってて。」
と、父さんを降ろして
「ミストアップ!」
と叫び、変身した。今日の相手は6本指のやつか。少し厄介だな。俺はその6本指でなお力が強いこいつに苦戦していた。たまたまレーダーが目に入った時には、もう一体が父さんのすぐ後ろにいた。
「父さん!逃げろ!」
叫んだ時に、父さんはスモークエネミーズに気づいていたが…その爪は父さんを貫いていた。
「父さん!」
俺は怒りに身を任せてスモークエネミーズを倒した。そして気が付いたら腕をとっていた。
「…はぁ…はぁ…は……る…か。昨日の…話…覚え…て…るよ…な。」
「分かったから!今は…」
「遥…お前は…その…中で………1…番…すご…い…歯車に…」
「分かった!分かったから父さんも…」
その瞬間、父さんの体が粒子となって空に消えた。
「『生きてくれ』って…言わせてくれよ…」
そのアスファルトには遥の涙が微量に溜まっていた。
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