―――新しいマスター
笥津 空(すづ かなた)年齢は26歳。
身長158cm、体重は・・・不明・・・?
赤茶色の肩より少し長いの髪。
女性。
仕事は保育士。
趣味は音楽を聴く事。本を読むこと。
新しいマスターのプロフィールを、データとしてフォルダにまとめる。
一応生活パターンを記憶して、出来うる限りマスターを助け
俺に歌を教えてくれる時間を作れるように・・・
頑張らなくちゃいけない・・・
じゃないと・・・
『・・・お前・・・いらねぇ・・・』
そんな事言わないで・・・
LAST SONG FAR SKY
~~空の彼方への最後の唄~
ACT3
空の住んでいる場所は、都心に比較的近いマンション。
間取りは3LDKと、結構広い。
3部屋のうちの一室をカイト用に、あてがってくれた。
何故か既に机とベッドまであった。
勿論空の部屋は別にあった。
モノトーンの部屋。
カイトは、誰か他に使っているんじゃないか?と聴いたが、空は首を横に振って
『好きに使って』
としか、言わなかった。
空が仕事に行っている間、カイトは家事を淡々とこなした。
ボーカロイドだが、自分の本体であるパソコンから情報を取り出しある程度の事はこなせるようになっている。
そして一般常識などの知識も持ち合わせている。
成人男性となんら変わりはない。
総てを丁寧にやっていると、いつの間にか夕刻になっていた。
夕飯を用意すべきか迷っていると、インターホンが鳴った。
ピンポーン ピンポーン
立て続けに二回。
カイトはほんの少しだけ迷い、インターホンに出た。
「はい。」
『・・・・・・誰だ?お前・・・』
電話越しに、男の低い声が聴こえる。
カメラの映像を見てみると、カイトは絶句した。
―――・・・・・・俺?!
顔はカイトにそっくりな男が立っていた。
「あの、すいません。今、空はいませ・・・」
『へぇ・・・、もう次を見つけたんだな。』
カイトの声を遮って、呟く男。
男が何を言っているのかは、すぐにわかった。
多分今ドアの外に居るのは、空の彼氏・・・だったんだろうか?
憶測の域は出ないが・・・
「俺は・・・」
『まぁ、いい。又来る。それだけ伝えとけ。』
そういうと立ち去る男。
その男の後姿を見ながら、インターホンに応えてしまった事を少し悔やむ。
あの様子だと勘違いしてしまっている。
―――俺はボーカロイド。
機械の中のアプリケーションソフトだ。
実体もあって触れられるし、感情もある。
ただ、
マスターと恋に落ちたボーカロイドは、必ず破滅する。
カイトは胸に両手を当て、瞳を閉じた。
前マスターの所にいた時に、偶然見た・・・
キスをすると同時に、女性ボーカロイドが消えていくのを。
その後本体のパソコンが二度と動く事はなかった。
瞳を静かに開け、夕日に染まった景色を眺め祈る。
夕日のように紅い服を着ていた、霧のように消えたボーカロイドを思って・・・
「ただいまぁ~・・・疲れたぁ・・・」
空が仕事から帰ってきたようだ。
家の中に入るが、カイトの声がしない上に灯りもついていない。
「あれ?カイト?」
自由に動き回っていい、と言っておいたから実体化しているのだとばかり思っていた空。
リビングに入ると、大きな窓から外を眺めている、動かないカイトがいた。
綺麗な絵のようであったが、物悲しい感じがしたので空は電気をつけた。
一気に眩しいほどの光に包まれる。
だが、それでもカイトは反応がない。
「カイト?カイト?!」
空は慌ててカイトに駆け寄る。
壊れてしまったのではないかと・・・
カイトの顔を覗き込むと、綺麗な瞳から一筋の涙がこぼれていた。
「カイト!カイト!!」
肩を触れて揺さぶる。
だが、反応がない。
今度はそっと頬を触って、涙を拭ってみた。
「大丈夫よ、カイト。お願いだから・・・」
自分でも何が大丈夫だかわからないが、何故かそういった空。
そうするとゆっくりと、カイトの瞳に色が戻り始めた。
「あ・・・れ・・・?マスター?」
きょとんとしたカイトの顔。
それを見てホッと息をつく空。
「大丈夫?」
「・・・あ、すいません。どうやらフリーズしてしまっていたみたいですね。」
恥ずかしそうに笑うカイト。
だが、心配そうな空。
「本当に大丈夫?どこか悪いのかなぁ?」
空の視線は、本体のノートパソコンにいった。
「いえ、本当に大丈夫です。少し思い出していたんです・・・昔を・・・」
そのカイトの言葉に、顔を歪める空。
空は昔と言う言葉を、前マスターのことだと思った。
だが実際は少し違っていた。
―――紅い貴女を想う・・・
『カイト、どうしよう。』
『・・・・・・好きなんダろう?』
『うん。どうしようもなく。・・・私ボーカロイドなのに、機械なのに・・・ね。』
『・・・でも、感情回路が有るんダかラ・・・変なことジャないヨ?』
『・・・貴方は知らないのね・・・』
『え?』
『・・・ううん。なんでもない。』
―――今なら解るよ。
感情回路があるからこそ、ある特定の人を好きになってしまって・・・
感情回路が焼き切れてしまったんだ・・・
・・・俺たちボーカロイドは、ある程度の感情を理解していないと歌えない。
歌は・・・唄は、感情の言の葉だから。
マスターと過して、沢山の感情も蓄積して・・・
それでどんどんいい歌を歌っていくのが、ボーカロイド。
過ぎる感情は・・・
俺たちには
毒なんだ。
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