血塗れた焦土。腐った屍で埋まる街。
未だ慣れない、鼻をつくような腐臭に嗚咽を漏らしそうになる。


はあ、はあ、はあ。


口から噴き出す息はもはや吐息ではない。
肺が血反吐混じりに悲鳴をあげているような音だった。


握りしめた剣は落とさぬよう、既に随分と前から紐で掌に括りつけてあった。
そうして斬った人、人、人、人人人人人人。
数えることはもう、太古の歴史を振り返るほどに困難なことである。


けれど、まだ終わらない。


この地獄は、終わらない。


一度溺れた人間が、もう二度と水面には浮かんでこないように、


血に浸った私は、もう逃げてはならないのだ。


それは、溺れ続けると言う罪滅ぼし。



「随分サマになってきたじゃねえか」


誰かが嗤う。
背後で嗤う。


「人を殺す覚悟ってのを、ちったぁ理解できたか?」


分かるはずないじゃない、と嗤い返してやった。


分かっていたら耐えられない。
狂っていなければ耐えられない。


「んじゃぁ、お前はまだまだってこった」


「早々に理解しなきゃな。そのうち死ぬぞ」


「ま、死んだ方が楽、って事もあり得るけどなあ」


誰かが指さす。
前方を指さす。


黒い影。蠢くそれらの巨大さに、眩暈がした。


いっそこのまま気絶してしまえば楽なのに。
断続的に襲う全身の傷の痛みが、それを赦してくれない。


「さあどうした? もうばてたか?」


お前は誰だ。
それはきっと私。


振り向けばきっと、紅い髪を揺らして嘲笑うだろう。
鏡と睨み合いをしているように、紅い瞳が底からぎらついて私を射抜くだろう。


歯を食いしばり、剣を握る。
血肉でぬめった剣身が、じゃっと地面を削って煙を上げた。


「行けよ。お前の敵だ」


強い語調のその声に操られるように、ゆらりと頼りない一歩を踏み出す。


終わらない。
終わりが見えない。


途方のなさに、今日も私は愕然とし、絶望し、そして、どこかで安堵する。


終わらない。
終わらないままでいい。


私の作った血の道なのだ。
私の作った屍の山なのだ。
私の始めた悲劇なのだ。


悲劇を踊り続けるのは、私だけでいい。


それだけのために、私は何度も、何度でも人を斬る。壊す。嬲る。殺す。


そうして私は見せつける。


背後でピエロのような笑みを貼り付ける憎い奴に、私の『覚悟』と言うものを。


精神が欠落するまで。私はそうして意地を張り続ける。


奴の笑みの意味を、理解しないままに。





お前は気づかない。


血に塗れた視界で、怒号と悲鳴がつんざき麻痺した耳で、その全てで、誤魔化して。


いつまでもいつまでも気づかない。


自分が泣いていることに。


とめどもない涙を流していることに。




いつまでもいつまでも、気づかない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

覚悟と無自覚

初小説です。
かなり意味が分からなくなってしまいましたごめんなさい!

人を傷つけた後の、心の中を描いてみたつもりです。
葛藤は全てが終わっても続く。その身が果てるまで。

閲覧数:155

投稿日:2011/04/07 00:35:20

文字数:1,194文字

カテゴリ:小説

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