「る、ルカちゃーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
「え、何々、どうしたの?」
叫びながら店内に走ってくるミクに、制服でエプロン姿のルカはにっこり笑いかける。
「あ、あのね、リンちゃんが、ま、ま、マスターと、いちゃついてるのーー!!!」
「えっ・・・」
「ふえーん!」
目を丸くするルカに、抱きつくミク。
「そっかそっか、じゃあ、今夜もまた泊ってくのね?」
「うん!」
「じゃ先に部屋に行って待ってて。後片付けと今日の売り上げまとめないと」
「分かった!」
そう言って、部屋に歩いていくミク。その後ろ姿を微笑ましく見てから、台拭きを手に取ったのだった。
全て終わらせて部屋に戻ると、ミクは私のベッドで寝ていた。
テーブルに、長々とした愚痴が書かれたルーズリーフが置かれていた。私は早速、今日の分を読むことにした。今日の分の最初は『マスター』から始まって、最後には『おやすみ』の文字。
私は可愛いなって思ってから、ソファに横になって目を閉じたのだった。
その頃。
マスターの部屋には、マスターとリンがいた。
「帰ってこないねぇ・・・」
「私たちって、携帯持ってないからなぁー」
時刻は、午後7時を指していた。本来なら、カイトはとうの昔に帰ってくるはずだが、この時間になっても帰ってこない。
「・・・リンちゃん、もう帰るの?」
「マスターが帰っちゃだめって言うんなら帰りませんけど。別に、今日一日帰らなくても、めーちゃん心配しないと思いますので!」
「じゃあ、1人はいやだから、帰っちゃだめだよ」
「はい分かりましたー!」
にっこり笑顔で言うリン。
「・・・どうする? 一緒に寝る?」
「えっ」
「でも狭いからなー。それでもいいんなら、いいけど」
「えっ、でも、ミクに怒られそうなのでやめておきます!」
顔を少し赤くしながら、手をぶんぶん振って断るリン。
「分かった・・・じゃあ、もう1つ布団敷けばいいんだね! そうしよう」
「私、手伝います!」
嬉しそうに、マスターのあとを追いかけるリンなのだった。
その頃。
カイトは独り、町中の大きな橋のたもとにもたれて、パズル川と夜空を眺めていた。
「・・・」
その姿は、青い変質者とは似ても似つかないほど、かっこよかった。
「寒いですね」
聞き覚えのある声が背後からして、カイトは振り向く。そこには、めぐっぽいどの姿。
「ボーカロイドは、気温は感じれるけど、風邪はひかないんですね」
そう言いながら、カイトの隣にいくめぐっぽいど。
「・・・熱は、もうないの?」
「はい。何ていうか、家帰ってすぐに熱計ったら、平熱だったんです」
「えっ・・・」
「だから、今は大丈夫です」
「それなら、よかった」
しばらく2人は話さなかった。やがて、
「・・・いつも、ここにいるんですか?」
「いつもじゃないけど、マスターがいない日の夜とかは、ここに来てるよ」
「あ・・・マスターさんって、ここの世界の住人じゃないんですね」
「というか、マスターっていう存在自体は、世界がちがうからね」
「・・・・・・そうですね。存在自体から、ちがう・・・」
「・・・」
カイトは、めぐっぽいどの右手をぎゅっと握る。
「あ・・・」
めぐっぽいどは、目を丸くしてカイトを見る。
「・・・僕には、マスターがいますけど、友達にはなれるって言ってたので、・・・」
続ける言葉が見つからないのか、口を閉じて、視線を逸らすカイト。
「・・・いいですよ、友達になっても」
にっこりとして、めぐっぽいどは言った。
「でも、友達になったからって、何かが変わるんですか?」
「・・・うーん・・・」
「今のままで、いいと思います。・・・今のままで」
大切そうに、ゆっくり言うめぐっぽいど。
「そうだね・・・」
カイトは頷いた。
夜の空気がほんの少しだけ、あったかくなったような気がした。
その頃。
「・・・ん」
ルカがソファに横になって目を閉じた5分後、ミクは目を覚ます。
「・・・」
再び、ルーズリーフに何か書くミク。その音で、
「・・・あ、起きたのね」
ルカも目を覚ます。
「なんか夢見てたけど、よく覚えてない」
「私は、・・・」
「見た?」
「短時間過ぎて、見てないわ」
「でね、」
という前置きをして、ミクは愚痴を言い、ルカはその愚痴を夜通しずっと、夜明けが来るまで続けたのだった。
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