ボカロマンション五階の一角、ボーカロイド共有部屋。
そこでは、うなされるメイコと、気絶して目を覚まさないミク、リン、レンを前にして、グミが途方に暮れていた。
ふと、グミはそばのテーブルに目をやる。そこには、決闘が始まるときにリリィに投げ渡された『マスターノート』が置いてあった。
(…ルカちゃんたちに悪いからまだ見てないけど、もしリリィの言ってた内容がほんとだとしたら…リリィの気持ちも、わからないでもないな…。)
ぼんやりとそんなことを考えていたその時だ。
『どりゃ!!』
威勢のいい声とともに、ドアがバン!!と勢いよく開かれ、思わず身を縮ませるグミ。
更にもう一度、グミは身を縮ませた。そこから入ってきたのは、天井ギリギリまでの体高の巨大な灰色の猫だったからだ。
その灰色の猫―――巨大化したロシアンは、その碧眼をグミに向け、少し目を丸くした。
『ん?なんだ、お主グミではないか。この町に居ついたのか。』
「あ…あんた、確か猫又のロシアン…!!」
いきなりその場で身を震わせたかと思うと、ロシアンの体は碧い焔に包まれていく。暫くして焔が収まったその場には、元の大きさに戻ったロシアンと、ルカ、ネル、リリィの三人がいた。
「ルカちゃん!」
「グミちゃん!みんなの様子はどう!?」
「全然目を覚まさないよ…。」
そこにネルが割って入った。
「ちょっと見せて?…うん、ミクとリンとレン君は気絶してるだけね。メイコさんのこの損傷は…やっぱりツイン・サウンドで治す以外なさそうね。まずはリンとレン君を治すほうが先決か…。」
そう言っている間にもてきぱきと手を動かし、何かを作っていくネル。手元を見ていないのに、その動きには全く澱み無く、更に残像が見えるほどの速さ。感心しながら、ルカは尋ねた。
「何を…作ってるの?」
「微弱な電気刺激を全身に伝える装置よ。あたしたちボーカロイドの体を構成する特殊生体金属【バイオメタル】は、ある一定の電気刺激を受けると回復力が飛躍的に高まるの。これを使って、リンとレン君のダメージを回復させるわ。…よし、できた!」
「えっ、もう!?」
僅かに一分と経っていなかった。しかしネルはその手を止めることなく、リンとレンのヘッドセットにコードを接続していく。
暫くして、二人のヘッドセットに黄色い光が灯った。
「これで暫くすれば目を覚ますはずよ。」
「ありがと、ネル!」
ルカが礼を言うとネルはそっぽを向いて、「べ、別にお礼なんていらないわよっ///」と真っ赤になってしまった。いつものことである。
ルカはふと、手を顎にあてて考えだした。ロシアンが不思議そうな目で見上げる。
『ルカ、どうした?』
「…カイトさんの変貌した理由…どうしてもわからないのよ…。」
『ならば設計書でも見てみればいいではないか?』
「設計書なんて…リリィの持ってる『マスターノート』はまだ見れないし………他にそんなもの……………ってあ!!!!」
いきなり大声を上げたルカ。
「確か私の部屋に、マスターが残した分厚い設計図の本があったわ!!もしかしたらそれに…!!」
『それだ!!行くぞルカ!!』
ルカとロシアンは共有部屋を飛び出し、ルカの部屋に行った。
警察に関する書と、マスターが遺していったものの全てがあるルカの部屋。その隅で、ルカは本の山を探り始めた。
「これでもない…あれでもない…それでもなくて……………あった!!」
『あったか!!』
ルカの持っていたのは表紙に『マスターブック』と書かれた分厚いファイル。それを抱え、二人は共有部屋に駆け戻った。
「あったよみんな!!」
「ホント!?」
「早く早く!!」
せかすグミとネルに、落ち着く様制しながらぱらぱらとページをめくるルカ。『心透視』を使い、超高速でページを漁っているのだ。
突然ルカの手が止まり、あるページを凝視した。思わずグミとネルも覗き込むが、全文英語で書いてあるのでよくわからない。
「…『Metalbeast』…!たぶん…これだわ!!カイトさんの暴走した理由…それはおそらく、この『メタルビースト』と言う機能よ!!」
「どれどれ!?」
「まって、今読み上げるから…!」
そう言ってルカは、項目「MetalBeast」を読み始めた―――――。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
『メタルビースト』
我々がボーカロイドを制作するにあたって、最も苦労したのは精神回路である。ハーデスの作りし世界最高峰の人工知能が作り出す感情は人間のそれと全く変わらない複雑さを持っていた。その複雑な感情は、喜怒哀楽は勿論のこと、それ以外のありとあらゆる感情をも示すほどであった。
我々が目指したボーカロイドは、人間のように生き、人間と共に生活できるアンドロイドであるため、複雑な感情があることは問題なく、むしろ喜ぶべきことであった。問題なのは、その複雑な感情に、精神回路が堪え切れるかと言うことであった。
精神回路を形作るのは喬二の作ったバイオメタルの中でも、特に耐久性の高いもので、それでいて電気伝導率は心筋と同程度と言う質の高いものだ。しかしそれでも不安は尽きないため、人工知能と接続し、耐久性を調べるテストを行ったところ、不安は的中した。
通常の喜怒哀楽では何一つとして問題はなかったが、問題が起きたのは激しい混乱や、強烈な不安などからくる精神的ストレスが強くかかった時。この時だけ、精神回路は激しく走る電気信号に耐え切れずショートを起こしてしまった。
たとえ1パターンだけであっても、これから先何十年と生きるであろう彼らがそういったストレスを味わうことがない確率は零に等しい。そして万一起きた場合、ショートした精神回路は修復不可能なため、回路を総取り替えしなければならないが、脳に多大なダメージがかかったり、最悪の場合二度と動かなくなるなどの大きな危険が伴ってしまう。
そこで考え付いたのが、この『メタルビースト機能』である。この機能は精神回路に激しいストレスがかかった場合などに起動する、一種の自己防衛装置である。彼女らの体の中には、それぞれ違った獣や悪魔のデータを記録させた機械部品が埋め込まれており、精神回路に激しいストレスがかかった時、精神回路に通ずる電気を一時シャットアウトし、その電気を全てメタルビースト機能の部品に送り込み、起動させることによって回路のショートを防ぐ仕組みである。
この機能の最悪の欠点が、精神回路をシャットダウンしてしまうために一時的に理性が完全に失われてしまい、ただただ本能に任せて暴れる『メタルビースト』―――すなわち『金属の獣』に成り果ててしまうことだ。また、変化時には辺りの電気を喰い尽くしてしまうという現象が起きることも判明している。この二つを目印に発動を悟ることも可能だが、付近の被害は短時間で甚大になることが予想できるため、早急に手を打つことが要求される。
この機能を停止させる方法はただ一つ。初音ミクの音波術『Append』の一つ『Sweet』を聴かせ、混乱からくるストレスごと相手を鎮めることである。元が精神の過剰な負荷から来ているため、『Sweet』で相手を癒すことにより、この機能は活動を停止する。
ただしメタルビースト機能が起動した場合、仲間すら味方としてみることができないため、注意が必要である。
この機能をなるべく起動させないことが、本人にとっても仲間にとっても優しい行為であると言えよう。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
読み終えた一同は、思わず呆然としていた。
やっとのことで、ロシアンが口を開いた。
『…つまりはあれは、精神が崩壊しそうになったカイトの体が、回路を守るために発動した過剰防衛装置…と言うことでいいのか?』
「自己防衛装置…のはずよ。」
『いやどう見ても過剰防衛装置だろう。』
「たぶん自己防衛…。」
『いやいや過剰防衛…。』
無限に続きそうなルカとロシアンの言い合いを、ネルが制する。
「と…とにかく!鎮め方は分かった!だけどミクが回復しないとどうにもならないわけだし、そのミクを回復させるためにはリンとレン君の回復が必要なんだから、回復するまでなんでカイトさんが暴走を始めたのか考えて―――――」
「それなら考える必要はないぜ…。」
ネルの言葉を遮った沈んだ声。それは部屋の隅で、黙って話を聞いていたリリィの声だった。
「えっ?」
「…あの決闘の場にいなかったネルとそのロシアンとやら、それに気絶してたルカさんはわかんねーよな。最後の一人になったカイトさんの音波術があまりに弱いものだったから、あたし思わず『やっぱり足手まといだったんだな』なんて言っちまったんだ。たぶんそれが…引き金になっちまったんだ…。この騒動の原因は…全てあたしだ。済まねえ…ルカさん…。」
「…。…たぶん…私も関係しているかもしれない。あなた一人のせいじゃないわ、リリィ…。」
ルカも思い出していた。リリィに立ち向かう前に、カイトに向かって「役立たず」という言葉を吐いたことを。
「…カイトさんは、ここ何回かの大きな戦いで、自分の非力さをすごく気にしてたんだと思う。そんな中、リリィ…あなたとの戦いの中で、仲間であるはずの私たちにすらお荷物扱いされたことが…何よりもショックだったんだ…。直接の引き金を引いたのはリリィの言葉かもしれないけど…その引き金のロックを外してしまったのは…私なんだ…!!」
ルカの目から、涙が零れ落ちる。大切な家族を傷つけた罪。自分の犯した罪の大きさ。仲間と、この町を守らなければいけないはずの自分が犯してしまった罪が、ルカに重くのしかかっていた。
その時だ。
「………ん………。」
「!!!!」
ここまで聞こえなかった「六人目」の声に思わず振り向くネル。そして思わず真正面から目が合ってしまった―――うっすらと目を開けた、レンと。
「ふにゃあああああああああっ!!?レ…レン君!!?もう大丈夫なの!?」
「ん…なんとか…。…もしかして、ネルが俺のことを…?」
起き上がりながらレンに尋ねられ、ネルは真っ赤になってそっぽを向いた。
「べっ…別にレン君のためだけじゃなくて、みんなのためなんだからね!!カイトさんが大変なことになってるから、レン君を助ければ何とかしてくれるかなって…ってあたし何言ってふえふえふえええええええええ!!?」
混乱して何が言いたいのかすらもわからない。そんなあたふたしているネルを見て、レンはやれやれといった顔をして、静かに笑った。
「…ふふっ。わかったよ、ネル。ありがとう。」
「!!!!…はううううぅぅぅぅぅ…///」
真っ赤になってへたり込むネル。と、その時。
「何あたしの事ほっといてレンといい感じになってんのよ?」
「ひゃあ!!?」
いつの間にやらリンも目を覚まし、羅刹のような、ただの駄々っ子のような混ざったような表情でネルを睨み付けていた。
「ちょっとどういうことよ―――!!あたしのレンに近づきすぎなのよ―――!!!」
「な、何が『あたしのレン』よー!!独占するんじゃないわよリン!!」
「独占してたのはあんたでしょー!!?あたしが寝てる間にいいいい!!!」
「あんたいうな―!!望みをかなえてやった恩人に―!!」
「それのおかげであたし三か月もブタ箱入りだぞー!!」
「そりゃあたしもよ!!大体あの話はあんたが先に持ってきたんでしょーが!!」
「なにおう!!?」
「何よ!!?」
『ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………!!!!』
「あー―――――――もう!!!!いい加減にしろ――――――!!!!」
リンとネルの口喧嘩に終止符を打ったのは、レンの大声だった。
「ルカさんが何か言いたそうじゃないいか!!ちょっと聞けよ!!」
思わずしゅんとする二人。その間に、レンはルカに事情を聞いた。
「なるほど…つまりおれたちはミク姉を回復させりゃいいんだな!よし、ほらリン!いつまでもしゅんとしてんな!いくぜ!!」
「うっ、うん!」
『ツイン・サウンド・リカバー!!』
叫んでミクに手を翳す二人。手から染み出した金色の光は、ミクを包んでいく。暫くして、ミクも目を開けた。
「ほえ…あれ、私…?」
「ミク!気が付いた!?」
「ルカ姉…?…はっ!!勝負は?勝負はどうなったの!?」
「そのことでちょっと大変なことになってて…!!」
ルカはミクにも事細かに説明をした。
「そういうわけでミクの力が必要なの!!お願い、手伝ってちょうだい!!」
「わかった!!でも…今カイト兄さんどこにいるの!?」
『それを今から探しに行くんだ!!そら、行くぞ!!』
外からロシアンの声。慌ててミクとルカが外に出てみると、そこには碧い焔を噴出しながら、数十倍の体躯になっていくロシアンがいた。
「ロ…ロシアンちゃん!?」
ミクが驚愕の声を上げる。その間にルカはロシアンの背に乗った。
「ミク!!早く!!」
「う、うん!!」
ミクも慌ててロシアンの背に乗った。それを確認したロシアンは。
『時間がない!!全力で飛ばすから振り落とされるなよ!!ギャオウウウウウウウウウウ!!!!』
カイトの咆哮にも負けず劣らずの猛々しい声をあげ、ロシアンは天を駆けて行った。
蒼紅の卑怯戦士 Ⅵ~カイト暴走の真相~
小難しい話になりまして大変申し訳ありませんwwwこんにちはTurndogです。
マスターが残した設計書ですからねぇ。自分も学者を目指しているからわかるのですが(というかそんなやつが書くからwww)、科学者というのはとにかく簡単に説明するのが苦手な人間が多いんですよ、ええwww
リリィの罪とルカの罪。二人の罪が生み出した黒き翼の悪魔は、未だにヴォカロ町の空を羽ばたいています。今週末から自分はAO入試が始まるので、もう少し飛び続けるでしょう、書けないからwww
次回。ミクの優しくて甘い音色が、黒き六翼の悪魔を鎮めます。どこかの某青ノ国の王のような…www
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しるる
ご意見・ご感想
ネルかわいいなぁww
ぷしゅーいってるのがよくわかるwww
ロシアン、君もいついているのではないのかねww
グミのことをいえないのでは?w
そして、カードキャプターのケロちゃんのように大きくなれるのか!ww
2012/06/04 09:12:05
Turndog~ターンドッグ~
ネルが最近大人気www
俺って可愛いネル書けたんだ!!な日々ですwww
『む?吾輩は結構世界中飛び回っているぞ?ただ単にお主らが吾輩がいる時に遊びに来ているだけではないのか?文句は受け付けん。』
やかましい!!
おろ?前回読んでくださった?まぁいいや。前回書いた通り元ネタは犬○叉の雲母です。猫又つながりでwww
2012/06/04 23:35:56