「…何やってんのカイト兄」

温かい季節から暑い季節に変わろうとしていた時。
まぁ今はその中間の梅雨でジメジメしている時期だった。

ミクは、そのジメジメ感に負けないくらいジメジメしているカイトを見つけた。

リビングの片隅で体育座り.
青い髪に青いマフラー。
これらがさらにどんよりした雰囲気を漂わせていた。

若干近づきたくなかったミクだが、放っておくのも何か罪悪感があるので、そっと声をかけてみた。

「あぁ…ミクか…」
まるで壊れかけの人形かのようにガタガタなカイトの声と顔、流石にミクもぎょっとする。

この男の周りにコケでも生えるんじゃないか？
そんなことを思い、今すぐに逃げ出したかったミク。

しかし妹として兄の事を気にするものだ。
理由を尋ねたら、カイトの人差し指が動く。

「え？リンちゃん達がどうかしたの？」
指された方向は双子の部屋だった。

双子の部屋はリビングから一番近く、玄関脇だったのだ。
だから良く２人の賑やかな声や、喧嘩してる声が聞こえてくる。

どうやら原因はそれにあったようだ。

「…へ？リンちゃんとレンくんの話の内容？」
コクコク頷くカイト。
いや…頷く、よりも縦に頭を振るとでも表そうか。

どうやらカイト談によると、双子の会話がカイトの事だったらしく、酷く傷付いた。
…カイトの純粋なハートにブスリ、と槍が刺さったと。(棒読み)

まだ話しているらしいので、ミクも廊下に出て耳を傾けてみた。
まるでスパイのようだ。
落ち込んでいるカイトを余所に、ミクはわくわくしていた。

「ーー…よね」
「あぁ、ーー…」

途切れ途切れで良く分からなかったが、ドアに耳をくっつけてみた。

「カイト兄…いらないよね」
「うっとーしそうだもんな」
「!!?」

衝撃の発言にぐるりと振り向くと、カイトがほらな、と言わんばかりにこちらを恨めしそうに見ていた。

カイト兄がいらない？
鬱陶しい？

「あっ、でも便利だね」
「そうだな、使える(笑)」

ミクはだんだん腹が立ってきて、今にもドアを蹴り破ってがなりそうだった。

「いくらカイト兄がひょろひょろしてて馬鹿だからって…許せん!」

カイトはミクにトドメをさされたようだ。
勿論ミクは気付かないのでどうってことないが。

我慢しきれなかったミクは案の定ドアを蹴り、破きはしないが豪快に開けた。

「２人とも!!なんて会話してるの!」
「あ、ミク姉やほー」
「何いきなり…どしたん?」

怒りオーラ炸裂なミクを見ても、呑気にお菓子を食べているリン、ゲームをしているレンの動じない姿があった。

「あんたたち…カイト兄のこと嫌いなのっ!!?」
顔を強ばらせ、低い声で問う。
「確かにアイスばっか食べててヘラヘラして…おっちょこちょいなアホだけど!!」

良いところだってあるんだよ？

「大好きだよー？」
ミクとは反対に、ニコッと笑い、高く明るい声で返すリン。

「…へ？」
思わず顔が引きつり、間抜けな声が出てしまう。

「だ…だって今!カイト兄はいらないだとか鬱陶しいとか言ってたじゃないっ」

リンとレンは顔を見合わせ、あぁ、と思い出したかのような表情をした。

「あー、それカイト兄のマフラーの話」
スパッとリンに切られる。
ミクは驚きの表情を隠せなかった。

夏とか暑いしいらないよねー、だとか長くて鬱陶しいとか。
しかし冬になったら便利!…というカイト兄のマフラーの必要性について語っていたのだった。

なーんだ、とミクは安心したのがつかの間。

「え、てかミク姉カイト兄のことそんな風に思ってたの？」

レンがゲームのコントローラー操作を中断してまで言ったさり気なくて気まずい一言。

ミクのピュアなハートに槍が刺さった(棒読み)

目の前には不思議そうにしているリンと、うわぁ…と言う顔をしているレン。
後ろには誤解は解けたもの、気力を失い窶れているカイトの姿が。

こんな３人に挟まれているミクは行き場の無い手を頭に当て、深く絶望した。

どうやら雨が降ってきたようで、メイコに洗濯物の取り込みまで頼まれたミク。

聞こえてくるのは、ゲームの…スマ●ラだろうか、攻撃音とピ●チュウの甲高い鳴き声。
どんどん雨足の強まる音と、早くしてというメイコの声だけだった。








end