「…返事がある訳ないか」
さっきボクは彼女の狂気で目を開いた。
理性であるボクが覚醒せざるを得ない狂気とは…
[死にたいという願望]
元々、ボクの器は傷つけられやすい立場の人間だ。
それでも前向きに耐えてきた。ごくまれに狂気が溢れ出すこともあったが、ボクも起きている時だったし、
「負けるな!頑張れ!」
などと一声掛ければすぐにケロッと立ち直っていた。
だけど今回は違う。わざとボクがあまり力を発揮出来ない夜中を狙っての行動。
「…本気なんだね。でもボクが君を止めてあげる」
ボクは大きな壁に向かって両手をかざした。すると大きな壁はみるみるうちになくなっていく。
壁が無くなり見えた景色は、傷だらけの身体を引きずりながら階段を必死に登る少女の姿だった。
「……っ。もうあんなに登り詰めて………」
彼女が登り詰めているのはリタイアの階段……それをあんな高さまで登るということは彼女は既に“Broken Doll”つまり自殺志願者という状態だということだ。
「早く助けないと……」
ボクは全速力で階段を駆け上がった。ボクの脳裏にはずっとロープとナイフが焼き付いたまま。恐らく現実のボク達の器がその光景を目の当たりにしているのだろう。
まだ間に合う。階段を登りきる直前でボクは彼女の腕を掴み取り、そのまま後ろへと仰け反った。
「彼女とボクを無意識の世界へ!!」
そして、ボクは彼女と共に無意識へと堕ちていった。
◇◆◇
「―――ここは…」
「あっ……気がついた?」
ボクが彼女を連れてきたのは無意識の世界。言い換えれば空っぽの心。
「貴方は誰?私…何で生きてるの…?」
無表情で問いかける彼女にボクは笑顔で返した。
「ボクはハートリペアマン。君が生きてるのはボクが助けたからだよ」
彼女が黙ったまま次の会話がなかったため、ボクはある疑問を口にした。
「手…怪我してるよ?どうしたの?」
彼女は何かを握りしめ、手からは血が滴っていた。
怯えるようにビクついた彼女はボクから逃げようとした。
「待って!!!!!」
そう言って彼女の腕を掴み引き留めようとしたことで、彼女の手にしていた何かが放り投げられる。
「………ガラスの欠片?」
真っ黒なガラスが真紅の血と共に飛び散り、彼女は呆然としていた。
「これは……」
ボクがひとかけらのガラスを手に取ると、傷だらけの彼女が必死で灰色に染まる水晶を守っている瞬間がよぎった。
…まさか………感情の本体か…!!!そう確信したと同時に彼女がボクを押し倒した。
「……どうして止めたの?」
呟く君の声があまりにも無機質でボクは一瞬怯んでしまった。
完璧に彼女の心が壊れてしまうまで気付かなかったボクの怠慢さが原因なのか―
でもまだ方法はある。諭す事が不可能なら正攻法だ。
「本気で人生をリタイアしたかったの?」
質問を質問で返してみる。ボクの性格上避けたい所だが、彼女の気持ちを逆撫でするにはこれしかない。
「……止めないで欲しかった。もう限界だから…」
無表情だった彼女に少し曇りの表情が現れる。すると僅かに水晶の破片が重なり一つになった。
感情がまだ動かせるなら壊れた水晶が元通りになるかもしれない。
「それなら…ボクを倒せばいいよ」
「……?」
彼女の興味を掴んだと踏んだボクはこのまま作戦を続ける。
「今、この空間の管理者はボクだ。ボクさえ倒せば君は自由だし、またあの場所に戻れる」
「………『貴方を倒せば良いのね。今のアタシなら倒せるわ理性の塊クン?』」
彼女は人が変わったように鋭い視線でボクを見つめ、ボクに跨る身体に強く力を込める。
「………っ!!…君は…誰なんだ……?」
『アタシは衝動の塊。彼女の苦しみを無くす為に取り憑いたのさ……今の彼女は苦しみで満ち溢れているからね。アンタに勝てる強大な力が―』
「………………っ!!!!!!!?」
『あるんだよ』
「か…はっ…!!!?」
突如、強大な重力が身体にかかり潰れそうになったボクはたまらず息を吐く。
「君は……まさか衝動の暴騎士…なのか?」
「あぁ…そのまさかだよ。理性のお医者様?」
すると彼女は、まるで鏡に映したように今のボクと全く同じ髪型の少女になった。
「これが本来のアタシの姿だ。力が最大になってる今は、アンタにも勝てる…」
彼女の傷だらけの身体は変わらないものの、身体を衝動を突き通す者……Impulsive Knightに乗っ取られている。
しかも彼女は苦しみから逃れたいという最も強い衝動の力を手にしている。圧倒的にボクが不利だ。
でも唯一、衝動の暴騎士を倒せる方法がある。
それは……
元々の彼女の心を取り戻すこと。それには彼女の喜怒哀楽の感情が必要だ。
「ボクを倒せるものなら倒してみせてよ…衝動の暴騎士」
ボクは冷ややかな口調で喧嘩を売った。
「あぁ…存分に倒してやろう理性の医者よ。『このお方』の……ありったけの怒りと哀しみをたっぷり込めた攻撃でな!!」
そして、ボク達は空っぽの心の中で戦う事になった。
to be continued…
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ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
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