「ふっ……哀れな男どもに私からのプレゼントだあああああああああ」
怪しげに笑いながら目の前のパソコンに何かをカタカタと打ちこんでいくマスター。
こころなしか、怪しげなオーラさえ感じる。
「どうせチョコもらってないんだろう!?中止のお知らせとかぬかしてるんだろう!?」
「ランキング一位に、私はなる!!」
「さあ、ひざまづきなさい!」
こんなところ、初めての人が見たら頭がいかれてるようにしか見えない光景だ。
というか、見る人全てがそう思うだろう。
そんなマスターを後ろから眺めながら、ワタシは今日という日について考えてみた。
今日――つまり、2月14日は、世間では「バレンタインデー」と呼ばれている。
ここ日本では、女性が好きな男性にチョコを渡す日というのがメインになっているらしい。でも、家族に渡したり、友達に渡したり……他の国では男性が女性に花を送ったりもするようだ。
今問題とすべきは、メインについてだ。
実は今日、マスターはその好きな男性とやらにチョコを渡して見事に振られたらしい。
理由は、オタクだから。
教室で友達とアニメや私達ボカロの話をしていたのを偶然その人に聞かれたみたいで、その腹いせなのかなんなのか、今日中にバレンタインに関係する曲を上げると言っていた。
でも、こんな状態で作って、一体どんな曲になるんだろうか。
「出来たー!!」
万歳、と両手を上げて回転イスに背を預けたマスター。
……勢い余ってそのまま床に倒れ込んだ。
「いたたたた……。あ、ミク! 早速だけど歌って!」
後ろにいた私を見つけると、マスターはさっぱりとした笑顔で画面を指差した。
『わかりました』
そして、さっそく渡された譜面に目を通した私は言葉を失った。
これは……迷曲の予感。心してかからなければ。
「さあ、世の男どもをサムネで釣ってこの曲でむなしい気持ちにさせるのよ!」
ワタシが気を引き締めていると、マスターはそう言ってあさっての方向をビシッと指差し言い放った。その表情は一仕事終えた満足感で輝いている。
『……マスター、哀れです』
「う、うるさいなあ!いいから歌うの!」
一転して顔を真っ赤にして反論するマスターを尻目に、私は歌い出した。
『そういえばマスター』
歌い終えたワタシは、曲を編集中のマスターに声をかけた。
「なあに?ミク」
マスターは集中しているのか、画面から目を離さない。
しかたがないので、私はキーボードの隣に、ピンクの、綺麗にラッピングされた小さな箱をそっと置いた。添えられた小さな紙には、今日を表す文字。
『ハッピーバレンタイン、です』
ワタシがそう言うと、マスターは動かしていた手を止め、しばらくその小さな箱を凝視していた。これといった反応はない。
『マスター?』
気に入らなかったのだろうか。でも、プレゼントをもらうのは嬉しいと、前にマスターが言っていた。
よく見ると、身体が小さく震えている。
そして、勢いよく顔を上げると、飛ぶようにワタシに抱きついてきた。
「ミクありがとおおおおおおおおおお」
『……マスター、暑苦しいです』
「だいすきいいいいいいいいい」
離してもらおうとまた口を開いて……止めた。
マスターの目尻から流れ出るものが何の感情から来ているのか、それはワタシにはわからない。
このままでいたらワタシの服はその水で濡れてしまうことだろう。
それでも、たまにはいいかと、そう思った。
だって、ワタシもマスターのこと大好きですから。
ある日のバレンタイン
先に言いましょう、反省はしている、後悔はしていない(キリッ←
ただ単に書きたくなって、衝動に任せて書きました。
あ、曲とかいろいろ妄想で書いておりますのでフィクションです。
~ちなみに二人の後日談(対話のみ)~
「確かこのときのミクって、まだ出会って間もない頃だったよね」
『そうですね。時々壊れるマスターにどう接したらいいか分からない時期でした』
「ははは……申し訳ない。あ、そうそう。あの曲だけど、結局一位にはなれなかったんだよねー」
『あれは世の男性を敵に回しましたからね』
「まあ面白かったしいいけどね。それよりもあのときのミクのプレゼント!あれさー」
『マスター?』
「慣れてないのかちょっと形が――」
『マ・ス・ター?』
「ごめんてええええええええええ」
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