00:マティーニ
「バイトでもみつけねーと」
前の彼女と別れた途端、やたら暇が襲ってきた。
可愛い子ではあったがやたら振り回すクチだったもんで、当分恋愛ごととはいいやという気分。
だとしたら暇つぶし程度にできるバイトがいいなと思いながら街に出る。
とりあえず、コンビニで情報誌と今夜の分の酒でもという気分で。
特に何にも予定がないから気になる裏路地とかを曖昧な目的を抱えて特に切羽詰るでもなく歩く。
大学の関係でこの町に住み始めてから3年ほど。
雑多で気楽な町並みは嫌いじゃない。
「ん?」
ふ、と。
頭の地図でこの辺り曲がったらコンビニかな、という細い飲み屋が並ぶ路地の店舗と店舗の間、本当に扉一つ分しかない細い建物が目に付いた。
掲げられた看板に、それがBARだと知る。
「BAR;FIRST SOUND」
木の扉、造りこまれたアンティークな印象のドアノブ。
そこに掛けられたOPENの名と共に、掲げられた店名。
「最初のおと?始まりの音?」
酒を取り扱うにしては珍しい印象がある。
興味本位で近づいたところで、扉がほんの少し、開いているのに気付く。
「・・・・・・」
なんとなくより近づいたところで、自分の手は無意識にその扉を押し開いていた。
歌、が。
レコードではない。ましてやバックバンドなどない、穏やかに伸びる歌声が自分を招いていた。
目の前に下がっていく一階分程の階段を下りると、その向こうに扉がもう一つ。
扉二つ分を余裕で通す驚くほどの声量ならばさぞ店内では五月蝿いくらいじゃないだろうかと想うのに、訪れたその場所にはむしろ穏やかに届く。
イメージどおりのバーカウンター。対応する椅子は9、その後ろは人一人がやっと通れる程度のスペース、それらが途切れた先にあるのは、一台の閉じられたアップグランドピアノ。
「いらっしゃい」
まだ早い時間なのか、カウンターの中の人物以外に人はいない。
歓迎の言葉と同時、自分を引き込んだ歌がやんだ。
どうやら謳っていたのは彼らしい。
彼。
青い髪が人有らざることを物語る。
左手の薬指にある少々クラシカルな銀のリングが、彼が誰かの「もの」であることを物語っていた。
ここ10年ほどですっかり珍しいものではなくなったが、はてどこのメーカーだろう?
その型をみたことがない。
本来移植治療を前提として研究・開発されていたES細胞から派生した、生体部品を使ったロボット、とでもいえばいいのか。
オーガニック・アンドロイド、オーガロイド。
各社から様々な能力を特化したものが販売されているが、殆どがオーダーメイド。カスタマイズも自在だから、みたことがなくても不思議ではないのだが・・・
この街では珍しいこの存在も、地元では比較的みかけてきたのだが。
その、笑顔と瞳。
さら、と揺れた髪。
「ぁ・・・、え、と・・・」
「始めてですね。どうぞ」
「・・・・・」
うまく言葉が出てこない。
綺麗な笑顔にギクシャクと身体が奥の席についた。
「注文は?」
「歌」
「・・・・・え?」
「いや、うん、ごめん、ジンバック」
「はい。えっと、ジンジャーエール、どっちにしますか?」
「辛いの」
「はい」
ジンバックレシピ
タンブラー
ドライ・ジン
レモンジュース
ライムジュース
ジンジャーエール
氷を入れたタンブラーの中にジン・ジュースをいれ、ジンジャーエールで満たしてから軽くステアする。
メジャーカップを使う様子はなかった。
店によってレシピが違うのもあるだろうけれど、適当という感じはしない。
人よりもその感覚が完璧である故に、戸惑いはないのかもしれない。
そしてお待たせしましたと差し出されたそれは、グラスの淵に櫛切りにしたライムが添えられて、竹で編んだコースターに乗せられている。
「・・・・・・どうぞ」
口をつける。
じわりとすっきりした味が口の中に広がった。
す、と脇に差し出されたのは薄切りのフランスパンのブルケッタ。
乗っているのは、カプレーゼを細かく賽の目にした感じかな。お通しらしい。
「こんな店あったんだなぁ」
「え?」
「いや、比較的近所だけど、今まで気がついたことなかったから」
「まぁ、あんまりご新規さんて少ないですね」
「・・・・・」
まぁそうかもなーと思いながら、ふと脇にあった張り紙を観る。
バーテン募集
詳しくはオーナーまで
・・・・・・
「あのー」
「はい?」
「オーナーって?」
「今は僕ですけど」
・・・・・・え?
「オーガロイドが?」
「変、ですか?やっぱり」
思わず言ってしまった言葉だったが、帰ってきたのは酷く気ずついた反応だった。
別に変なことではない。
それはわかっている。
持ち主が「人」よりも寿命の長いオーガロイドに遺産を託すというのは別に違法ではないのだ。
「いや、そういうつもりじゃなくて、なんていうかその・・・ごめん」
「いえ」
やっぱり、なんて言った以上、おそらくは面と向かっての非難や「異常」を言われたこともあるんだろう。
人間主義って言えばいいのか、彼らを人と認めたがらない人種も少なくない。
俺は、そんなことないけど・・・
っていうか、それ以上に、俺はここにいたいと想っていた。
他に理由はない。
常連じゃ足りないなにかを、自分が期待してたらしい、と気付いたのは後のことだ。
「・・・・・・・あの、さ。バイト捜してたんだけど、俺」
「へ?」
「だから、オーナーはって聞いたわけで・・・」
きょととした目線。
そのあとで、彼、オーナーと名乗った「人」はオロオロとこちらを見た。
「・・・・・・・あの、バイトじゃ逆に困るんです。
うちは何人も雇えるわけじゃないし・・・」
「別に稼ぎがいいことは期待してないけど?」
「それでも素人さんじゃ」
「・・・・ふむ。じゃ、テストさせてよ」
「テスト?」
なんでこんなに食い下がっているんだろう、自分は。
そんなことを思いながら、出してもらったジンバックを一気に飲み干し、カウンター越しにその目を覗き込む。
「俺のカクテル、呑んでみて」
自信があったわけじゃない。
手慰み程度の知識と技術。
立ち位置が入れ替わる。
「御注文は?」
「じゃぁ・・・、マティーニを」
出された注文に、彼が自分を確かに試そうとしているのが感じられた。
カクテルの王様、マティーニ。
無意識、その背筋が伸びた。
カクテルグラス
・ジン
・ドライベルモット
・レモンピール(レモンの皮)
・スタッフドオリーブ
材料をミキシンググラスでステアしグラスに注ぐ
レモンピールを絞りかけ、オリーブをカクテルピンに刺して飾る。
手順を思い出しながら、ひとつひとつ、丁寧に。
その、結果はまた後日。
bar;first sound 00
BARを舞台にした歌い手と新米バーテンのほの甘い恋話
・・・・・・・・・の、予定。
色々思案してボーカロイドについての設定説明がこうなってます。
人に近いけど人じゃないという形で
倫理面とかもめただろうなー(えー
カクテルのレシピについては分量あえて載せてません
気になったらググッてください
もうね、紹介してるとこによって全然違うから面白いよ?
その時々検索掛けたのを載せてるのであれ?違う?と想う人もいるかもしれません。ジンバックに関しては添えるのも「ライムよりレモン」のトコもあるだろうしジンも俺タンカレー使うしレモンジュースだけのとこもあるしライムジュースだけのとこもあるし逆にそれら全然入れないとこもあるし
っつーかマティーニ。レモンピールなんぞ邪道だという人もいそうだしオレンジビターズを注す人もいるって話。学生くんなら逆に気取ってドライマティーニ(分量的にジン多め)にしちゃうかもね。
因みにオリーブじゃなくてパールオニオンにしたらギブソン。
あぁでも「貴方のイメージで」とかあえてスィート・マティーニ(ドライベルモット→スイートベルモット)を出すのもあ・・・
・・・・・・・・・とまんねぇええええ?!(今更
ごめ、酒ネタになるとこういう風に暴走するんだぜ、俺・・・
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