「…見つけましたわ」
リンの声が響いてから数分後が過ぎて、ようやくモモは手がかりを、いや、二人の居場所を発見した。
「まったく、二人になって厄介になったかと思ったら、むしろ始末しやすくなりましたわね」
モモの声からは余裕が見えた。
彼女の目にははっきり見えた。コンテナがあまり積まれていない部分に、ひょっこりとリボンが見えていた。
ルコとモモは目くばせをかわしあう。
きっと彼女たちの背後もコンテナだ。つまり逃げられるであろう二つのサイドを一人ずつで封じてしまえば、袋の鼠。
「ねえ…二人とも、教えてくれるかな」
リンが口を開いた。リボンがひょこっと揺れた。
「何をですの?」
「決まってるじゃない。なんでこんなことするの?これはボーカロイドだけのゲームのはずじゃ…」
「あなたにお話しする意味もありませんもの」
モモはリンの話に聞く耳を貸さなかった。
なぜなら、もう…。
「これで終わりだっ!」
ルコの声に合わせ、二人は一気にリンの両側に躍り出た。
…そう、リンだけの両側に。
「何!?」
ルカが、いない。
思っていたのとは若干状況が違ったせいで、二人はすぐに歌う事が出来なかった。
いつの間に、そして、一体どこに!?
そして直後、モモはルコの後ろに誰かが現れたのを見た。
あれは…巡音ルカ!
「ルコ!後ろ!」
モモは叫んだ。しかし、間に合うはずもない。
「『星屑ユートピア』!」
ルカの声が聞こえた途端、モモの目の前には吹き飛ばされたルコが弾丸のように襲いかかってきていた。
「もールカ姉、ぶっ放しすぎだよ」
リンが立ち上がった。ルカが歌う直前、リンは体を伏せたので、ルコやモモともども吹き飛ばされることはなかったのだ。
「まあ、さすがね。何も言ってなかったのに」
ルカは涼しい顔で返した。
「く…」
ルコが苦しそうに声を漏らした。
「なんだよこれ…話が違うじゃねえか…くそ…」
モモも倒れたまま二人を睨み、そのままマイクを構えようとする。
しかし、その様子を見てもルカは表情を変えなかった。
「…この状況で、しかもカバーでしか戦っていないあなたたちが、オリジナルに勝てると思ってるのかしら?」
「この…!」
ルコが歯ぎしりをする。
言う事を聞かない体に鞭打をうつ。
「モモ…!」
「ええ…!」
そして歌った。
「『エンクロージャー・カバー』!」
光線がリンとルカめがけて飛んでいく。
それでも、ルカは冷静だった。
「いくわ、リンちゃん」
「うん!」
「『ANTI THE∞HOLiC』!」
傷ついた二人の「カバー」と、まだ余力が残る二人の「オリジナル」。どちらが勝つかは明白だった。
「くそおおおおおおおおお!」
ルコの断末魔が響いた。
あたりは一気に静けさを取り戻した。
ルカは、倒れているルコとモモの方へむかった。
リンはそのまま気まずそうにその場に立っていた。
どうしよう。リンは思った。このままルカ姉といたらなんだかまずいよなあ…。
一時的に、ってルカ姉も言ってたし。このまま戦いたくはない。
うううどうしようどうしよう…。
「じゃ、じゃあ私ミク姉のとこに行くね!あ、ありがと!」
慌ててそう言ってリンはルカに背を向け、駆け出した。
何かルカ姉が言ったような気もするけど気にしない。
正直どうなるかと思ってたけど、何とか生き残れてよかった。これで脱落なんてしちゃったら、ミク姉に…いや、レンに申し訳が…あ。
ここでいったんリンは考えるのをやめた。
とりあえず今は合流することに専念しよう。色々考えるのは、そのあとに、ね。
ルコとモモの前にしゃがみこむ。やはりマイクは壊れていて、二人も意識を取り戻しそうには見えない。
つまり、このゲームについての核心に迫ることはできなかった、という事だ。
思考を巡らそうとしたルカに、元気な声が響いた。
「じゃ、じゃあ私ミク姉のとこに行くね!あ、ありがと!」
リンの声だった。
「あ…」
急いで振り向き、呼び止めようとしたのだが、リンは行ってしまった。
そして大事なピースも行ってしまった…。
これ以上できることはないか、とルカはため息をついた。
もう一度立ち上がろうとしたが、足首に鈍い痛みが走った。
そういえば足を怪我したのだった。しばらくはここで休んで傷を回復させよう。
コンテナに身を預け、座り込む。近くに二人が倒れているわけだが、なんだか死体と一緒にいるようで気味が悪い。
…まあ、手を下したのは私たちなのだが。
改めて思うと、こうして自分もまた誰かを倒すことに慣れてしまっているのだろう。普通に考えたらありえない。
しかし一たび疑心暗鬼が生じ、誰かが何か普通はしないアクションを起こすと、やはり皆それに応じてしまう。今回で言えばミクと、それからメイコさんか。
…ミク、か。
ルカの思考はやはりこのゲームについてになっていく。今のところ、彼女がこのゲームの中でやろうとしていたことは何も達成できてはいないのだ。
…正直私はミクこそ「あの方」だと思っていた。
でも、多分、違う。
リンちゃんの話だとミクはテトと戦っていたそう。UTAUのあの中で一番音頭を取っていると考えられるのはやはりテトだろう。あの方とその腹心の部下が大真面目に戦闘なんて考えにくい。…まあ、UTAU達の謀反と考えれば話は別だが。
ならミクは単純に人間になろうとしているのか。それともミクが誰かの部下であるとか?いい具合に操られている可能性も…。
「…待って」
ルカは思わず声を漏らした。そういえば、ルコが何か言っていた。
「なんだよこれ…話が違うじゃねえか…くそ…」
なら、やっぱり?
…ミクを捕まえるよりリンちゃんにもう一度話を聞いた方がよさそうだ。レン君でもいいかもしれない。多分、何か知っている。
いや、何かというよりも。
もっと核心の。
ふと気づくと、ルカはかなり荒い呼吸をしていたことに気付いた。手も震えだしている。
ただ決して疲れているわけではない。
多分、真実は目の前にある。このゲームの。
いや、正直、もうほぼ答えは出ている。確証はない…いや、実際ないという訳でもないが、つじつまはすべてあっている。
…信じたくない。いや、まさかという思いもある。
やっぱりあの時リンちゃんを見て一気にひらめいたこれは…多分、いやきっと、正しい答えなんだ。
信じたくないけれど。
それが。
間違いなく。
真実。
「はあ…そんな…それが…っ」
ここでルカは気づいた。
この呼吸の乱れ…この手の震えはたぶん、この事実に恐れおののいているから。
そして、この事実を、受け入れたくないから。
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鏡(キョウ)
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