長月の光は遠く沈み
宇宙(そら)は水素の果てしなく湛(たた)えらる湖面
銀の大河を木の葉の舟に乗って
今夜、星を仕留めに
のぞいたレチクルには銀の粒
風は今はまだないようだ、青い静寂
軋む櫂の音(ね)がその時までを刻む
「もうすぐだよ」誰かがそっと言った
北天の七つ星 旅鳥の道しるべ
在らざる八番目は 恐るべき凶兆の炎
漆黒(ぬばたま)の海の果て、迫れば 高鳴る胸の鼓動
銛に耳を押し当てて嘆く星たちの歌を聴いた
流離の水の上ゆらら、たゆたう少年が一人
犠牲にするのか 生贄に捧ぐのか
流星を片手に、今、今。
見上げれば蒼天には塵の尾
見下ろす鏡の湖面には魚(いお)の舞う街
限りなき大河に灯篭浮かべて
今夜、星を仕留めに
震える吐息を白く凍らせ
かじかんだ指先で掬った紅き潮(うしお)
祈祷(マントラ)の声に背中を押され 往く
流星の声は果てぬ命の歌
ガラスの天球儀は 行く先を 示さない
古びた銀板写真(タゲレオタイプ) この地図もあてにならない
最終(いやはて)の合(ごう)の刻(とき)、迫れば 呼び合う胸の鼓動
同じ宇宙に生まれた魂(たま)極(きは)る命が向かい合う
遊離の空の隙間で揺られる少年が一人
誰(た)がための正義か それとも過ちか
矢来(やらい)の盾を刺し、今、今。
岩男の歌は問いかける、“美しいものを喰うとても命は命だ”
たった一本の腕のために“勇魚(いさな)撃ち”の名を背負わされた
訪れる無暗(むやみ)月夜(づきよ)、舵を絶え往く舟一つ
耳が痛くなるほどの孤独がその腕を迷わせる
「できるならそう、なるたけ苦しくないように――――安らかに」
引きあう痛みを 同じ罪を呑み込み
蠢く影捉え、今――――
渦巻く宇宙(そら)の大河の、その果てで少年は何を思う
喰う者喰われる者とそれを討つとめどなき連鎖
洪荒(こうこう)なる天の諸行、真実は時にただ無常
お前の涙もいつか大河に変わるだろう
跳ねた銀鱗に、狙いつけて、今、今。
今、
今。
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