※諸注意
何年も前に書いたテキストの続編です。
まずは前作をお読みいただくことを推奨します。
こちらhttp://piapro.jp/antiqu1927の投稿作品テキストより。
・カイト×マスター(女性)
・妄想による世界観
・オリキャラ満載
・カイトは『アプリケーションソフト・VOCALOID・KAITO』の販促用に開発されたキャンペーン・イメージロイド(?)機械的な扱い、表現を含む
・女性マスターの一人称が『オレ』
恐らくツッコミ処満載ですが、エンターテーメントとして軽く流して楽しんで頂けると幸いです
上記が許せる方は、自己責任で本編へどうぞ
☆☆☆☆☆☆☆
プロジェクト開始からここまでの道のりは、紆余曲折様々な努力と苦労があった。
その全ての始まりは、多分あの日だったのではないかと思う。
〈シャングリラ第二章・二話~番~〉
SIED・KAITO
「で、具体的にまずオレは何をすればいいの?」
篠武さんが俺のマスターになって、一夜が過ぎた。
これまでと同じ、彼女とともに一緒にいられる喜びで舞い上がっていた俺にかけられた一言。
「え…っと、さあ、」
正式な契約を済ませてから、所長さんと正隆さんからは何の連絡もない。
多分、今後のプランもスケジュールも、これから決まっていくのだろう。
「カイトは、どうしたい?」
「…え?」
「ほら、今まではただの保護者って言うか、一線引いた関係だったけど、これからはパートナー?になるわけなんだし…」
「パートナー…、」
そうだ。
これまでと同じなんかじゃなかった。
篠武さんは俺の『マスター』だ。
それが一体何を指して、どんな意味を持つのか。改めて湧き上がる多幸感に、身体各回路が耐え切れず僅かなエラーが走る。あまりに大きな感情の波形信号を受け止めるには、まだ受け皿が発達しきれていないようだ。
…あ、まずい、またシステムが暴走しそう。
「うん、だからね…、今までカイトがオレに望んでいて、諦めていたことがあったら、オレに教えてくれないかなーって、」
「…っ」
目眩がした。小首を傾げて俺を見上げるマスターの、なんと可愛らしいことか。
しかも、俺の望みを叶えてくれる?本当に?
「あ、あのっ!本当にいいんですか?」
「いいよ、オレにできることならなんでも、」
「本当の本当の…、本当に…、」
「う…ん、まぁ…」
「本当の本当の本当の、本当に、」
「意外としつけーな、そんなに念を押すって…一体どんな望みがあるんだ?」
怪訝そうな顔で心持ち身を引く彼女の右手を握り、俺は胸の奥底に沈めていた願いを、諦めていた言葉を口にした。
「マスターの紡ぐ世界の全てを、俺に…くださいっ‼」
「…あぁ?なんだソレ、」
あっ、しまった、これじゃ伝わらない。
「ええとですね、あの、…マスターはプロの作曲家さんなんでしたよね?」
「…まぁ、うん、」
マスターの義理の兄が世界的に活躍しているピアニストで、その曲を手掛けていると知ったときは…ひどくショックを受けたものだ。
愛しく思う彼女の創造物を、生み出される想いの全てを形作り奏でる。それが何故、自分ではないのか。吐き気を伴うほどの激しい嫉妬心に苛まれた。
でも、もう何も悩む必要はない。
だって彼女は俺の『マスター』なんだから。
これからは俺にだってその権利がある。いや、もうこれは義務だ。
「俺に、マスターの創る歌を…歌わせてください、他の誰でもなく俺だけに、あなたの全てを奏でさせてください、あなたという唯一無二の世界を俺だけのものにしたい、です、」
「………、」
真剣に詰め寄る俺の迫力に押され、言葉を無くしたマスターの琥珀色した瞳が揺れている。
鼻先が触れ合いそうな距離まで近くなった唇から、小さな吐息が漏れた。
その熱を受けて、先日彼女に咬みつかれた唇の傷が疼く。
不思議とこの痛みが甘く感じる自分は、どこかに不具合があるのだろうか。
「…随分とまぁ大きく出たなー、」
一瞬拒絶される恐怖が僅かに頭をもたげたが、肩を竦め小さく呟かれた声に否定的なニュアンスはない。
目を細め口角を上げる彼女の指が、優しく俺の頬を撫ぜていく。
「いいよ、お前が望むならオレを丸ごと全部やる、」
あっさりと返ってきた返事は、第三者が聞けば軽薄にも感じられるかも知れない。
でも俺は知っている。この人の言葉の裏に隠された並々ならぬ覚悟を。
「マスター…、」
頬に添えられた彼女の手に自分のそれを重ね、俺は溢れる想いのまま一気に距離を
「あー、お取込み中のところ大変申し訳ないんだけど、」
「!!!!」
「…?」
突如背後から聞こえた声に振り向くと、そこには俺の研究開発の責任者・北澤正隆さんが立ち尽くしていた。
なるほど、これがいわゆる『寸止め』というやつか…そして『苛立ち』という感情なんですね、また一つ勉強になりました。(哀)
「おー、いらっしゃい、正隆さん。別に取り込んじゃいないぞー、」
「えっ、」
ちょっと待ってくださいマスター⁉今結構いい雰囲気だったと思いますけど…、俺の思い違いですか?多分これまでの中で、二人が一番盛り上がったと…え?まさか俺だけ?
あっけらかんと笑う彼女の様子に愕然としていると、申し訳なさそうな顔した正隆さんに肩を叩かれた。
「ごめんね、邪魔して。でも、こっちも急ぎだからさ、」
「…何しに来たんですか、」
思わず出る低い声。
「そんな怖い顔しないでよ、今後のスケジュールが決まったから、説明しに来たんだ、」
青いファイルをひらひらと振りながら、彼は俺とマスターを交互に見やり、心持ち表情を引き締めた。
第三話へ
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