「レーンカっ」
玄関のドアを開けたらすぐ、聞き慣れた声が聞こえてきた。それに対しレンカはやや呆れながら、
「・・ホントに来たんだ」
と返す。
「何言ってんだ。さっきちゃんと連絡したじゃないか。」
さっき、というか数十秒にも満たない前のこと。レンカの携帯電話に突如リントから、
『今から家行くからな!』
という電話があった。レンカには発言の隙を与えず自分の用件だけを言い、切れた携帯電話。何だったんだろう、と思い、本当に来るのかと思った矢先に来客を知らせるチャイムが鳴った。
「というかいきなりどうしたの?っていうか来るの早すぎじゃない?」
「いや、まぁ、連絡した時点でレンカん家向かってたんだけどさ。用件っつーのはちょっと『話』がしたくて」
「『話』?」
いきなり何だというのだろう。家が近所ということもあって学校等でも頻繁に顔を合わせるし、喋る機会だってある。いちいち家に来なくてもいいというのに。
「ふーん?まぁ、とりあえず中入って。『話』とやらはそれから」
そんなことを考えながらとりあえず中へ入るよう促すレンカ。
「ん。分かった。じゃあお邪魔しますよっと」
リビングにあるソファに座り、二人以外誰もいない部屋を見渡しながらリントが言った。
「やけに静かだな。誰もいないのか?」
「うん。二人とも仕事」
「あれ?父さんはともかく母さんも?」
「あ、そっか。リントが私の家最後に来たの随分前だっけ。なら知らないのもしょうがないか。お母さんは今パートやってるの」
リントがレンカの家に最後に来たのは小学生の頃。レンカの母がパートを始めたのはレンカが中学一年の頃なため、パートのことをリントが知らなくても無理はない。
そもそも、昔は二人でお互いの家に行ったりと、よく遊んだりしたものではあるが、中学校に進学すると徐々に疎遠になっていった。それでも学校では廊下ですれ違えばお互いに反応はするし、話すこともある。そんな様子を同級生はカップルとして冷やかしたりするものの、今現在二人はそのような関係ではない。
「で?『話』ってなんなの?」
先程から気になっていたリントの『話』について尋ねるレンカ。
すると、
「いや、まぁ・・・」
といきなり何故か口籠り、下を向くリント。
いつもハッキリとした言動をとるリントがこんな仕草をとるということはよっぽど話にくいことなのだろうか。
リントが下を向いてる間他にすることもなく、ボーっと考えながら再び話し始めるのを待つレンカ。やがて意を決したかのように顔を上げ、『話』を始めるリント。
「あの~、ほら。ミクオさん、いるじゃん」
「ああ、あのミクさんと仲の良い」
ミクオもミクも近所に住む高校生。幼馴染という二人は子供の頃から仲が良いことで評判だ。ミクオはリントと、レンカはミクと遊んだこともあり、二人のことはある程度知っている。
「そう。で、ミクオさん、ミクさんに告白したらしいんだわ」
「え!?そうなの?」
「しかもOKだって」
あの二人のことはある程度知っていると思っていたレンカだったが、そのことは知らなかった。
「どこで知ったの?」
「つい昨日、街でぷらぷらしてたら二人に偶然会ったんだよ。手繋ぎながらめちゃくちゃ楽しそうに。いや、お似合いではあったんだけどさぁ」
そう言って一呼吸おくリント。
「とりあえず爆発しろ!って思った」
「・・だめでしょそんなこと思っちゃ」
「まぁ聞けって。で、その時に聞かれたわけよ。お前は彼女いないのかって。ものすごく自慢げに」
「・・うん。ちょっとリントの爆発しろ!って気持ち分かった。」
その光景を頭で想像し、素直な感想を言い放つレンカ。
「だろ?で、ちょっと頭にきてさ・・・」
「頭にきて?」
「・・・・・・彼女いるって答えたんだよ」
その時レンカはリントの言いたいことが閃いた。
「成程。つまり二人の前で彼女の振りをしろってこと?」
それならばリントが話をしにわざわざ家まで来たのも納得がいくし、話しにくそうなのも分かる気がした。
「漫画とかでもたまにあるよね」
と笑うレンカ。
しかし、
「まぁ、なんというかよ・・」
と曖昧な返事をするリント。
「?」
「いや、なんつーか、その・・」
「どうしたのさ。いつものリントらしくないよ?ハッキリと言いなって」
急かすレンカに促され、リントは言った。
「明日彼女を連れて会う約束してんだよ。だから・・」
リントはここで一旦区切り、深呼吸をして『話』の本題を言う。
「俺はレンカが好きだ。俺の彼女になってくれ。明日だけじゃなくてこれからも!」
「・・・・へ!?」
「こんな風にするのはあの二人を利用してるみたいで卑怯かもしれない。でもこんな付き合い長くて今更でなかなか言えなかった。でも、前からレンカが好きだったんだよ!」
「ええ!?」
全く予想のしていなかった言葉を言われ、パニックになるレンカ。
「え・・、ちょ。なんで!?ていうか私がリントの彼女って・・。いや、嫌いじゃないけどさ・・ええ!?」
告白してから顔を真っ赤にして俯いていたリント。しかしパニックになっているレンカの肩を掴みまっすぐとレンカの目を見て、言った。
「答えを聞かせてくれ」
まっすぐと目を見られ、まだ軽くパニックではあるものの、自分の気持ちを伝えるレンカ。
「・・分かった。・・・いいよ。私なんかでよかったら」
先程のリント以上に真っ赤になりながら答えるレンカ。
「そうか。・・・よかった」
すると、緊張からの開放による安堵からか一気に饒舌になるリント。
「いや~、告白ってめっちゃ緊張するんだな。ちょっと舐めてたわ。この家に向かってる段階で心臓バックバクでさぁ。『いつも通り』をひたすらしようと頑張ってたんだけど、レンカの反応見た限りでは上手くいってたみたいだな。よかったよかった。『話』ももっとすんなり言えるかと思ったんだけどさぁ、人生で一番緊張したな。もう告白ん時なんて自分でも訳分かんなくていつもの自分じゃない感じで。うん。・・・ってレンカ」
ここまで一気に喋ってからレンカに話しかけるリント。レンカは先程の顔のまま、下を向いている。
「・・・・なに?」
俯いたまま答えるレンカ。リントはレンカの顔を上げて言った。
「いや、いつもの冷静なレンカも可愛いけど、今の照れてる顔とか、さっきの驚いた表情も可愛いなぁ、と思って」
その言葉を聞いて更に顔を赤らめるレンカ。そりゃあ、好きな男子にストレートに『可愛い』と言われ照れない女子はいないだろう。
「でさ、レンカ。俺、まだレンカから『好き』って言われてないんだけど?」
意地悪そうな笑みを浮かべながらリントは言った。
「・・何それ?」
「ホラ、好きな相手にはやっぱ『好き』って言って欲しいじゃん」
「・・・無理だよ。言えない」
「言ってくれよー。なー。レーンカー?レンカちゃーん?」
うざい喋り方で『好き』の言葉を迫るリント。
「あーもう!好きだよ!リントのこと好き!これでいい!?」
限界に来てるのだろう。半ば叫ぶようにして言うレンカ。
「ありがとう」
すると、先程の笑みとは違い、穏やかな笑みを浮かべるリント。レンカに『好き』と、なんだかんだいってそれだけ言って欲しかったのだろう。そしてそのままレンカを抱きしめる。レンカは一瞬驚いた表情をしたが、すぐにリントを抱きしめ返した。
誰もいないリビングのソファの上で抱き合っている二人。しかし、リントは数秒もしないうちに腕を戻した。
「?」
正直このままでずっといたかったレンカは若干名残惜しくは思ったものの、素直に自身も腕を戻した。それでも至近距離にはいる二人。どうしたのだろう、と思っているとリントが喋りだした。
「と、いうわけで、晴れて俺たちはカップルになったわけだが、明日あの二人に負けないくらいラブラブになるよう、『儀式』とでも言おうか。それをやりたいと思う」
「儀式?」
「誰もいない家。そしてソファ。これこそ『儀式』にふさわしいと俺は思う。ま、ホントはソファよりもベッドがいいが、仕方ない」
「え?ちょ・・。まさか、『儀式』って、もしかして・・」
「大丈夫大丈夫。周りの奴も、ヤッてるの多いからさ♪」
「えええええええええ!!??ちょ、ちょっと待っt」
「逃げれねーよ?俺は男、お前は、・・女」
そう言ったリントの顔には先程と同じ意地悪そうな笑みが浮いていた。
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