【第十六話】DECISION

　「お帰り、ミク。どうだった?」

　「…ただいま。全然ダメ、あの生意気小僧に邪魔された」

　ミクはさっきまで、リンを取り込むために、リンの思考内へ行っていた。
しかし、結果は残念ながら失敗。
ミクは機嫌が悪い。

　「お茶でも入れさせましょうか」

　「いい。それより、ルカ。あの返事は?」

　来た。
来るとは思っていた。

　けれど、今来るとは思ってなかった。

　お願いをされてまだ、４日しか経ってない。
まだ有余を６日残している。

　しかし、決断はできている。

　「ルカ?」

　ミクが返事を催促する。

　ただでさえ今日は機嫌が悪いのに、余計に悪くなられたら、私もメイドも部下も堪ったものじゃない。

　「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたの。ちゃんと決断はできてるわ」

　「さすがルカね」

　にこっと笑った。
よかった。
ひと先ず、機嫌は直ったみたいだ、たぶん。

　「ミク、私ね…」

　「もぅ、早く言いなさいよっ。気になるでしょ!!」

　私の前で見せる、いつもの１８歳の少女の顔だ。
本当に機嫌は直っている。



　「ミクのお願い、きいてあげる」



　ミクがとたんうれしそうな顔をする。


　
　「ディフェクトの誰かを殺すわ」



　私がそう続けると、ミクはますます笑顔になった。
まるで、目当てのずっと欲しかった念願のおもちゃでも与えられた、子供のように。

　
　「本当に!!?うわぁぁ!!ありがとうルカ!!それで、それで!?誰を殺すの??」


　この子は本当に、人なんだろうか。
人を殺すということを聞いて、自分が命令して、こんなに無邪気な笑顔を浮かべる少女。

　人ではない。

　いや、誰がこんな素直だった子を、人の皮をかぶった怪物にしてしまったのか。


　「―――カイトよ」

　「えぇ――!?カイトぉ――??」

　「考えてみて、ミク。カイトは治癒能力。カイトを殺ってから、あとの奴を―――。ね?いい作戦でしょう?」

　「うんそうね!!そう言われればそうだわ!じゃあ、決行は…２日後。それでいい?」

　「ええ。ミクがいいならそれで」

　「作戦はすべてルカに任せるわ。なんてったって《終末庭園》ですもの」

　私は笑い返す。
リンを取り損ねたことはすっかり忘れたみたいだ。

　大丈夫。

　私が考えてることなんて、ミクが分かりやしないわ。


　大丈夫。

　大丈夫。


　どっちが正しいかなんて答えは出てるわ。
だからするのよ。

　ごめんなさい。

　大丈夫よ。絶対。


　ごめんなさい。


　でも、これをしなきゃ、すべて終わるわ。
この国も私たちも。

　だから大丈夫。

　ごめんなさい。


　殺してやる。
根元からすべて、私が。

　この私が。








　私はだれも殺さない―――。